『プロレス語辞典』著者・榎本タイキさんインタビュー「プロレスは明日の活力」

<辞典で紡ぐプロレス>

『プロレス語辞典』著者・榎本タイキさんインタビュー「プロレスは明日の活力」

――プロレスとの出会いは、初代タイガーマスクだったんですね。

榎本:偶然です。家族でご飯を食べているときに、たまたまテレビで流れていたんです。アニメ「タイガーマスク二世」と並行して見ていたので、アニメの技が現実で出てくることにびっくりして、そこから夢中になりました。

――プロレス語辞典を書くことになったきっかけは何でしたか?

榎本:Facebookページで、「Pro-wrestling Illustration」(https://www.facebook.com/prowresillust)という観戦絵日記を三年ほど運営していたんですけど、それを見て誠文堂新光社さんが声をかけてくださいました。誠文堂新光社さんは「〇〇語辞典」シリーズを作っていて、プロレスブームに乗って「プロレス語辞典」を出したいという企画があったんです。それで、プロレスに詳しくて、絵と文章が書ける人を探していた。打ち合わせに行ってみたら、僕の絵をたくさん紙にして出してくださっていました。出版の一年前に、実際に企画として立ち上がりました。

――それまでに、プロレスの企画に関わったことは?

榎本:今回が初めてです。

――まさに、プロレスへの愛が実ったんですね。

榎本:「辞典」という点ですごくビビってしまいまして、自分がこんな大役をやれるのか?と、先に怖さが立ちました。

――見るものを言葉にするというのは、かなりしんどいでしょう。

榎本:プロレスファンはたくさんいて、いろいろな見方をしているので、自分の見方が正解とは限らない。その点で恐れはありました。自分がやっていいのか、という思いはありましたけど、このオファーを断ったら違う人がやるだろうから、それは悔しかったので、引き受けることにしました。

――『プロレス語辞典』の監修はDDTプロレスリングの高木三四郎さんですが、高木大社長とはどのような接点で?

榎本:この辞典は監修の方が付くシリーズなんです。監修者候補を上げてくれと言われて、高木さんを第一候補にリクエストしました。高木さんはプロレスラーなので、当然プロレスに精通しているし、柔軟で視野が広く、プロレスを全体で見れる人ですから。高木社長に監修してもらったらすごく幸せだなと思いました。

――高木大社長は異業種コラボなどチャレンジ精神が旺盛な方ですから、最高の組み合わせですね。

榎本:すごく喜んでくださっていて、「ありそうでなかった企画なので、ぜひやらせてください」とおっしゃっていただきました。本当に嬉しかったですね。

――『プロレス語辞典』は言葉のチョイスがすごくいいと思いました。プロレスファン的には共感できる、まさかここを取ってるんだ、よくぞこれだけ広い大海原の中の文字を拾ってきたな、と。この言葉はどのように選びましたか? 技名が基本だとしても、人名や、一見縁遠い言葉もありますよね?

榎本:最初は、ダイレクトなプロレス語から始めました。それだけでは面白くないので、凶器など、プロレスに間接的に関連するワードを拾っていって、編集の方とアイデアを出しながら言葉を増やしていきました。

――プロレス関連のアナウンサーなども拾っていて、ここまで網羅していると凄いです。言葉選びは本当に大変じゃないですか?

榎本:全部で650語くらい入っているんですけど、最初に1000語選んで、そこから削ってゆきました。自分もいっぱい出したし、担当の方も選んでくれて。担当の方も装丁してくれた方も、プロレスファンだったんです。

――プロレスに携わる人は愛情がありますよね。特に出版関係の人は。

榎本:幸いにも、そういう人に支えられましたね。スタッフはプロレスファンばかりが集まりました。

――プロレス技辞典だけなら過去にもありましたが、むしろ広い視野で選んでいるところにプロレスファン歴の長さを感じます。

榎本:プロレスを知らない人にも読んでもらえるように、ストレートじゃない言葉も探しました。

――プロレス語を選んでいく中で、残すべきか削るべきかで議論をなさったかと思います。

榎本:基本的には、プロレスを伝える言葉は残さなきゃいけない。そして、「おかしい」言葉は残したかったんです。中邑(真輔)選手の「イヤオ!!」、(長州力選手と橋本真也選手の)「コラコラ問答」とかは、言葉だけではわからないけど、プロレスファンには有名で、面白いという点で選んでいきました。

――ナイスチョイスです。プロレス愛がビシバシ出ています!

榎本:プロレスラーの方にもご好評をいただき、プロレスを何十年も見てくださっている方にも「あるある」と喜んでいただいているようで、嬉しいですね。

――プロレスファンだったら当たり前のように知っている言葉でも、一般の方だと聞いたこともないと思うんです。会場の中で体感すれば何となくわかると思うんですが、言語化するとなると難しい。言葉のチョイスだけでも大変なのに、説明文を書き加えないといけないのが、しんどい作業じゃないかなと。文字数も抑えなければいけないでしょう。

榎本:自分もプロの文章書きではありませんから、大変でしたね。最初は絵だけ担当だと思っていたら、実際には文章も入ると聞かされて……。文章はとにかく大変でした。まず、おぼろげな記憶を文章にするために、文献や資料を調べるのが大変だったんです。

――これだけのボリュームがあれば、一年かかるのも納得です。

榎本:途中で取材期間も挟んだので、まるまる制作していたわけではないのですが、トータルで一年くらいかかりました。辞典だけだと飽きてしまうと思うので、合間に特集も入れています。その中で取り上げたレトロゲームなどのチョイスも、編集の方と相談しながら選んでいきました。プロレス一つとっても、本や映画など、表現の幅が広いことを伝えたかったんです。

――書店に行くとレスラーの本もありますけど、『プロレス語辞典』は、全くの初心者が最初のステップとして読むにもいい本ですね。初めての人が見ても楽しめて、幅が広い、キャッチーなところをつかんでいる。

榎本:嬉しいです。

――この本でプロレスの間口の広さを感じ、見てもらえる点では非常に面白いです。通が見てもクスクスできるし、なるほど確かにこうだったと感心するところがある。

榎本:プロレスを見始めたばかりのお友達にプレゼントする方がいると聞いて、嬉しいです。参考書にしてくれたらいいですね。

――今のファンだけでなく、もっと多くの人にプロレスを知ってもらいたいと思っています。女子プロレスも、一回見ると絶対に楽しいけど、そこまでのクッションがなかったりするので、今のファンには、この本を通じて新しいプロレス、違ったプロレスを見に行ってほしいですね。

――榎本さんのイラストも凄く個性的で、レスラーの本質を描いているように見えるんですが、イラストは小さい頃から?

榎本:絵がずっと好きで、小さい頃から描いています。今も、グラフィックデザインとイラストレーションの仕事をしています。

――イラストは、キーワードをセレクトしてから描いているんですか?

榎本:言葉を選んでから、それに文章をつけて、同時並行でイラストを描いています。(キーワード・文章・イラストと)全部同時には書けなかったので、1/3ずつ分けながらお渡しして、イラストは描けるところから描いていきました。あまりにも終わらないので、作っている最中は病みそうでしたね。お正月もゴールデンウィークもなく、ずっとやってました。

――プロレスって、技が複雑で描くのが難しかったりする場合がありますよね。

榎本:会場を見に行くときは山のように写真を撮っています。描くために写真を撮っているような感じです。後ろの方で、引きのアングルでまるまる一試合撮影しています。描きはじめてからは写真を撮る量も増えて、フォール、キックアウトまでしっかり見るようになりました。

――フォールのやりかたも、背面式とか、ジャックナイフとか、いろいろありますよね。

榎本:資料がない技があったときには、「この技出ろ!」と思いながら撮ったときもありました(笑) だけどシャッタータイミングが合わずにうまく写らなかったり(笑)

――キドクラッチってどうやってフォールしているのかな? とか思ったことがあります。よくあれで片を付けられるな、と。技がどんどん複雑になっていますね。どうなってるの? という関節技や絞め技も多いから、描く方は大変でしょう。

榎本:鈴木秀樹さんが大好きなんですけど、サブミッションがものすごく複雑なので、とにかく写真を撮ります。

――見ながら描いていくんですね。描くコツはあるんですか?

榎本:スピード感を大事にして描いています。じっくり描くというより、勢いで描いているところがあります。かつ、なるべく正確に見えるように。

――サソリ固めとか、描くの難しいでしょう。

榎本:写真に写っていないところを描かなければいけないときは大変ですね。本を見て違う角度から描いたり。今は写真を撮ってインターネットに公開している方がたくさんいらっしゃいますので、参考にすることがあります。

 

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山口 義徳(プロレスTODAY総監督)
『プロレスTODAY』総監督。
プロレスTODAYの企画・進行・管理を行い、会場ではカメラマンも兼務。
またプロレスとビジネスの融合を行い、会場でのクライアントとのタイアップも実施。

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