全米にその名を轟かせた“東洋の巨人”ジャイアント馬場『遙かなる王道プロレス!』

リングの肖像〜時代を変えたレスラーたち〜『レジェンド日本人レスラー列伝』

見上げれば、そこにいつも大きな山があった。日本プロレス界の歴史を語る時、我々の心象風景に必ずやそびえ立つ、あまりにも巨大で、そして不動の存在。その名は、ジャイアント馬場。209cmという物理的な大きさだけではない。

レスラーとして当時世界最高峰のNWA世界ヘビー級王座を3度の戴冠に加え、プロモーターとしての功績の大きさ、そして何よりも、プロレスへの愛情の大きさにおいて、馬場のスケールはとてつもないものであった。

葉巻を燻らせながら優しい眼差しでリングを見つめる姿。それは、日本のお茶の間にプロレスという文化を根付かせた、偉大なる馬場の姿であった。ジャイアント馬場という大きな、大きな山があったからこそ、日本のプロレスは豊かな裾野を広げ、数多の名峰を育むことができたのだ。その功績は、まさに計り知れない。

【世界が信頼した東洋の巨人】

今でこそ、多くの日本人アスリートが世界で活躍している。しかし、時は1960年代。まだ日本人が国際社会で正当な評価を得ることが困難だった時代に、ジャイアント馬場は既に、プロレスの本場・全米マットのど真ん中で、トップレスラーとして君臨していたのである。

その名を世界に決定的に刻みつけたのが、1964年に成し遂げられた、まさに前代未聞、空前絶後の大偉業であった。なんと、当時の三大世界タイトル、NWA世界王座の“鉄人”ルー・テーズ、WWWF世界王座の“人間発電所”ブルーノ・サンマルチノ、そしてWWA世界王座の“銀髪鬼”フレッド・ブラッシーに、短期間で連続挑戦するという離れ業をやってのけたのだ!

世界のどんな強豪ですら成し得なかったこの破天荒な金字塔こそ、馬場の世界的名声を揺るぎないものにした、偉大なる第一歩であった。

その勢いはとどまるところを知らない。NWA(ナショナル・レスリング・アライアンス)。当時、世界で最も権威あるとされたこの組織において、馬場の名は、恐怖と尊敬の対象となっていった。ジャック・ブリスコ、ドリー・ファンク・ジュニア、ハーリー・レイスといった歴代のNWA世界王者たちと、幾度となく死闘を繰り広げ、あと一歩のところまで追い詰めた。

ニューヨークMSGでは、当時のWWWF王者ブルーノ・サンマルチノの牙城を幾度にわたって揺るがした。これらは単なる「挑戦」ではない。馬場が文句なしに世界の頂点を狙えるトップコンテンダーであったことの、何よりの証明であったのだ。

そして、馬場の偉大さを物語る上で欠かせないのが、超一流の外国人レスラーたちから寄せられた、絶大なる信頼である。当時のプロレスファンは、毎週のように胸を躍らせた。まるで宝石箱をひっくり返したかのように、世界の強豪たちが次々と全日本のリングに登場したのだ。

テキサスの荒馬ザ・ファンクスは、全日本のリングを第二の故郷と呼び、その熱き兄弟愛でファンの涙を誘った。“不沈艦”スタン・ハンセンと“超獣”ブルーザー・ブロディ。この二人の怪物が活躍する舞台として選んだのも、やはり全日本のリングであった。

“千の顔を持つ男”ミル・マスカラスとその弟ドス・カラスは、華麗なる空中殺法で日本のファンを熱狂の渦に巻き込み、“黒い呪術師”アブドーラ・ザ・ブッチャーは、地獄突きと凶器のフォークを手に、マットを幾度となく血の海に染め上げたのである。

それだけではない。NWA世界王者“美獣”ハーリー・レイスや、AWA世界王者“金髪狼”ニック・ボックウィンクルといった、各団体の現役チャンピオンたちが、その至宝を懸けて馬場の前に立った。そして、“殺人魚雷コンビ”テリー・ゴディとスティーブ・ウィリアムスや“暴走戦士”ザ・ロード・ウォリアーズのような、世界でもトップランカーのタッグ屋が、全日本でもその名を轟かせた。

世界中のプロモーターが喉から手が出るほど欲しがったスター選手たちが、なぜこれほどまでに馬場を信頼し、まるで大きな磁石に引き寄せられるように海を渡ってきたのか。

それは、馬場が提示する高額なファイトマネー、それだけではなかった。レスラーを心からリスペクトし、最高のコンディションで試合に臨める環境を整え、そして何よりも「約束を必ず守る」という、実直で誠実な人間性。馬場は、世界中のプロモーターが舌を巻くほどの”A man of his word”、すなわち「約束の男」だったのである。

馬場と外国人選手たちとの間に結ばれたパイプは、単なるビジネスライクな契約書ではない。国境を超えたレスラー同士の固い友情と、揺るぎない信頼関係で結ばれた、鉄壁の「王道ルート」であったのだ。この信頼こそが、全日本プロレスを世界最高峰のリングへと押し上げた、最大の原動力であった。

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