【新日本】“逸材”最後の夏、棚橋弘至が『G1 CLIMAX』に刻んだ23年の航跡「新日本の選手になったんなら、『G1』優勝を目指してほしい」

プロレスの世界で「最後」とは、時に美しく、時に残酷な響きを持つ。

2025年8月10日、群馬・Gメッセ群馬。新日本プロレス“真夏の最強戦士決定戦”『G1 CLIMAX 35』Aブロック最終公式戦、棚橋弘至にとって、これが23回目にして人生最後のG1だった。

その挑戦の意味は、単なる引退ロードの一環ではない。

なぜなら、2024年――初出場から続けてきた本戦出場記録が途切れたからだ。

2002年の初参戦以来22年連続出場という金字塔は、怪我とコンディションの壁に阻まれ、予選敗退となった。

あの夏、リングサイドからG1の熱狂を見つめることしかできなかった悔しさが、今年の“ラストサマー”の原動力になっていたのである。

相手はHOUSE OF TORTUREの首領、EVIL。前日の前哨戦で見せたクリーンファイト、そして握手。

観客もメディアも「最後くらいは正々堂々か」と思いかけた。しかし、G1のリングは甘くない。

EVILが聖人君子の顔を見せたのは、すべて罠だった。

試合が始まると、EVILは意外にも正面から棚橋に組みつき、クラシカルな攻防を展開。

棚橋の代名詞でもある足攻めを逆に仕掛け、観客の心を揺らした。

「もしかして本当に…」という淡い期待が会場を包んだその瞬間、悪のシナリオが動き出す。

ハイフライフローを狙った棚橋の背後に、ディック東郷とドン・ファレが忍び寄る。

パウダー攻撃、3人がかりの暴行、パイプカット、そしてファレのグラネード。

最後はEVILの必殺技で叩き伏せられた。12分50秒、逸材の最後のG1は、悪意にまみれた幕切れだった。

勝者のマイクを握ったEVILは、残酷な笑みで叫ぶ。

「オイ、棚橋よ! 全部な、ぜ~んぶ、ウソに決まってんだろ! バ~カ! ハッハッハ~!!」――リングに響いたのは、敬意ではなく嘲笑。

しかし、それすらもG1の一部として記録されてしまうのが、このシリーズの宿命だ。

バックステージで棚橋は深く息を吐き、言葉を絞り出す。

「人生最後の『G1 CLIMAX』公式戦がこの終わり方は……悔しいなあ。そっかあ、もう俺の人生で『G1』に出ることはないのか……」

そして続けた。

「結果は振るわなかったけど、今は『G1』出てよかったと思ってます。長い過酷なシリーズで、自分が何者であるか、引退が決まっている人間であっても、俺は自分自身、プロレスラーなんだっていうことを、心の底から思いました」

2024年、初めてG1の開幕戦に立てなかった悔しさ。客席から見守る苦しさ。

そして今年、満身創痍の体を引きずりながらも、再び本戦のリングに立った誇り。その全てが、この言葉に込められていた。

23回の出場、通算100勝、3度の優勝。第17回大会で新日本低迷期を救い、第25回、第28回で黄金期を築いた。

そして2025年――勝ち星は伸びずとも、リング上で見せた闘志は、まぎれもなく逸材の生き様だった。

「新日本の選手になったんなら、『G1』を目指してほしい。『G1 CLIMAX』優勝を目指してほしい。IWGP世界ヘビーも目指してほしい。そこに切磋琢磨が生まれて、新日本はこれからも続いていきますから!」

涙をこらえながら未来へのバトンを託す言葉。

2024年の欠場を乗り越え、最後にたどり着いたG1のリングだからこそ、このメッセージは重かった。

確かに棚橋は敗れた。しかし、勝敗表に記される数字以上に、観客の胸には確かな熱が残った。

2024年の空白を経て挑んだ2025年、逸材は“最後の夏”にリングの中心で燃え尽きた。

その魂は、次の世代のG1で必ず息づく。

<写真提供:新日本プロレス>

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