プロレスラーとして好スタートを切った「柔道金メダル」ウルフアロン 先人たちとの違いとは

【柴田惣一のプロレス現在過去未来】

「五輪金メダリスト」ウルフアロンがデビュー戦(1・4東京ドーム大会)で、いきなりNEVER無差別級王座を奪取。翌1・5東京・大田区大会でもひたむきなファイトを披露し、高評価を得ている。

五輪優勝の知名度は大きく、様々なメディアに登場するなど、世間の注目度も抜群。次代の「プロレス界の顔」として期待はいよいよ膨らんでいる。

とにかくプロレス愛にあふれるウルフ。柔道とは違って観客席の興奮がストレートに伝わってくるプロレス会場が気に入ったようだ。ファンの応援の声や拍手が聞こえ、いよいよパワーがみなぎったという。

ファンの歓声にレスラーは頑張る力をもらい、ファンはレスラーの何度でも立ち上がる姿に勇気と元気をもらう…まさに「プロレスの力」である。柔道時代は沈着冷静を心掛けていたが、プロレスラーとしては感情を爆発させている。

引退した棚橋弘至社長に代わって「プロレス界の顔」を期待されているが、「疲れていないし元気」と繰り返している。どうやら棚橋社長の「疲れない男」も継承していくようだ。

柔道界のバックアップも得ている。1・4東京ドーム大会には多くの柔道家が訪れていた。「初めて生観戦した人たちも喜んでくれた」とにっこり。五輪金メダリスト候補・村尾三四郎のスカウトも口にしている。

「プロレスが好きだから」と力説するウルフは、プロレスラーとして何よりも大切なプロレスへの熱い想いがある。柔道に続いてプロレス界の「金メダリスト」に輝く日は近いだろう。

思えば複数の「柔道王」がプロレスラーに転身している。「柔道日本一」坂口征二は日本プロレス、新日本プロレスで活躍。現在も新日本プロレスの相談役として、プロレス界を見守っている。

「柔道世界一」小川直也は猪木の薫陶を受け、新日本プロレスで暴走しキャプテンハッスルとしても話題を集めた。

外国人の柔道王も日本プロレス界を席巻した。アントン・ヘーシンクは柔道が初めて正式競技として採用された1964年東京五輪で無差別級を制覇。日本中を落胆させたが、1973年に全日本プロレスでデビューした。

猪木・新日本の勢いに対抗するため、日本テレビの後押しを受けた馬場・全日本に登場したが、プロレスラーに成り切れなかった。「柔道着を着たら最強でも、裸になると弱い」などと揶揄されている。レスラー引退後は柔道界に戻り名声を取り戻した。

ヘーシンク後のオランダ柔道のエース「赤鬼」ウィリアム・ルスカも、1972年ミュンヘン五輪の無差別、93キロ級の二冠王を経てプロレスに転向。1976年に猪木との「格闘技世界一決定戦」に敗れたが、その後もプロレスラーとして新日本プロレスに参戦するも、ヘーシンク同様、プロレスラーに転身しきれなかった。

柔道は投げたら一本勝ちだが、プロレスは違う。投げた後、一瞬の隙を突かれ返されてしまう。また、プロレスの投げは「投げること」よりも相手にダメージを与える叩きつける投げだ。

大相撲からも横綱がプロレスラーに転向している。力道山時代の東富士欽壹は力道山とともにタッグ王者にもなったが、プロレスでは「横綱」とはいかなかった。

人気の横綱から相撲界でトラブルを起こし、全日本プロレスで人生の再起をはかった輪島大士も1年半あまりでレスラーを引退している。「狂虎」タイガー・ジェット・シンとのデビュー戦は、地上波テレビでも高視聴率を稼ぎ出すなど、根強い人気を誇ったが「四角いリング」では「丸い土俵」の様にはいかなかった。

第60代横綱・北尾光司は26歳でプロレスデビュー。38歳だった輪島と比べ、プロレスラーとしての将来もバラ色かと思われたが、意気込みはあるものの空回り感が強く、新日本プロレス、SWSなどを経て、高田延彦との「格闘技世界一決定戦」に敗北したりした後、8年で身を引いている。

相撲は「押す力」だが、プロレスは「引く力」だ。相撲は柱に突っ張りをかます「てっぽう」の練習をするが、プロレスはタオル引きなどに見られるように引く練習をする。相撲も柔道同様、投げたら勝ちだがプロレスは投げてからも続く。

輪島、北尾とはレスラーデビュー前の海外修行に同行するなど、家族よりも長い時間を一時期、共有した。二人との交流は宝物。再起をかけ、闘う生き様などには感心させられた。相撲はもちろんプロレスにも真摯に向き合っていた。

ただ「横綱」としてのプライドが捨て切れなかったのかも知れない。格闘センスはもちろん超一流で、身体能力も高かったが、プロレスラーとして頂点を極められなかったのは、今でも残念だ。

「エース」棚橋弘至が引退し次の「プロレス界の顔」が求められている。最高のスタートを切ったアロンが、このまま柔道に続いてプロレス界の天下を握るのか。

どんなレスラーになるのか。柔道技をプロレス技にアレンジし、唯一無二のオリジナル技を開発するのか。

現時点では黒パン、黒のリングシューズだが、そのうち変わるだろうリングコスチュームは道着のテイストが入るのか。

スピーディーな進化を見逃さないように注目して行きたい。(敬称略)

<写真提供:新日本プロレス>

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