【編集長コラム】「馬場バルに流れる空気」
東京・新橋にオープンした「ジャイアント馬場バル」(港区新橋2-9-17 第二常盤ビルB1F)。店内には馬場さんゆかりのベルトや愛用品が並べられ、馬場家の食卓にちなんだメニューも好評を博している。
馬場さんのファン、プロレスファン、全日本プロレスの選手を始めとするレスラーも駆け付けているが、先日もNOAH「金剛」の拳王が顔を見せた。
馬場さんと接点はなかった拳王も、食事を楽しみ、馬場さんグッズを目の当たりにして「良かった」と、満足げだった。
店内には活気があふれながらも、大河の流れのような、静かでゆったりした時間が流れている。
そこで思い出したのが「全日タイム」というフレーズである。「馬場・全日本プロレス」VS「猪木・新日本プロレス」の対立構造が激しかった昭和の時代、両団体を支持する者同士の衝突も多かった。
ネットが普及する前とあって、直接、面と向かっての言い争いもあちこちで目撃されている。
団体によってカラーやファイトスタイルが違うのは、多団体時代の現在でも同様だが、2団体がしのぎを削っていた当時は、何かと差別化した熱い論争が巻き起こっていた。
馬場さんを筆頭とする、悠然とした「王道」スタイルには独特の「間」があったという声は、いまだに根強い。
相手との距離を見定め、じっくり技を見せる時間、次なる技に備える「間」を、新日本プロレスのファンは「全日タイム」と称した。
新日本プロレスは「ストロングスタイル」を標榜し、攻撃を重視した試合運びが多かった。新日本プロレス支持者は「間」も大切にする全日本プロレスの「王道スタイル」が、もどかしく感じたらしい。
敵情視察か、全日本プロレスを観戦した新日本プロレスのファンからは「全日タイム!」というヤジが飛ぶこともしばしばだった。
最近、久しぶりに「全日タイム!」という声を聞いた。引退する新日本プロレスの中西学が、全日マットでのファイナルマッチに臨んだ2・11後楽園ホール大会。来場した新日本プロレスのファンが口にしたようだ。
どちらがいい悪いではない。それぞれ団体の歴史があり、それぞれのファイトスタイルがあり、それぞれのファンがいる。推す団体が違えば、ファンも主義主張が異なる。
現在はボーダレス化が進んでおり、こだわりは薄れたかも知れない。とはいえ、まだまだ主張し続ける人も多い。
かつてドリー・ファンク・ジュニアは、オールドファンを「グレートファン」と呼び「いろいろな選手や団体によって、ファイトスタイルは違うが、それもすべてプロレス。ファンも自分の意見を持つのは素晴らしいこと。どんな意見を持ったファンも、グレートファンだよ」と、ウインクした。
馬場さんがそこにいるような、ゆったりした空間に身を置いていたら、そんなことを思い出した。