【編集長コラム】日本プロレス界の今年の漢字は「驚」
今年のプロレス界を振り返る漢字は「驚」だろう。本当に、何度も何度も驚かされた。
年明け早々、日本プロレス界に衝撃が走った。
新日本プロレスのトップ4の2人、中邑真輔とAJスタイルズのWWE入団である。
ここ数年、全盛時の人気を取り戻した新日本プロレスをけん引した4人の内、半数の旅立ち。「一強」と言われた、さしもの新日本プロレスも陰りが見えるのかと思いきや、その勢いは加速するばかり。「プ女子ブーム」のおかげか、テレビ番組やイベントなど様々な場面に、選手が登場する機会が増えている。
中邑、AJの”穴”を埋めたのは、内藤哲也そしてロス・インゴベルナブレス・デ・ハポンの快進撃だった。
将来を期待されながら、なかなかトップ4の牙城を崩せなかった内藤だったが、4月にIWGP王座をオカダ・カズチカから奪取。G1を制覇した2013年の夏から続いていた”足踏み”から、ついに抜け出した。
これも約3年の雌伏の時があったればこその快挙だった。決して「中邑やAJがいないから」ではない。地道な草の根運動の成果だ。
G1を制覇した3年前の夏、祝勝会で「新日本プロレス全体を俯瞰(ふかん)の視点」から語る内藤に、いささか驚いた。まるで棚橋弘至、中邑と話しているようだった。すでに頂点を極めたかのような内藤の語り口に「もっと欲をもっていいんじゃないか」と意見させてもらったものだ。
思えば、内藤は天下取りの準備を着々と進めていたのだ。「トランキーロ」とばかりに焦らず、棚橋や中邑始め新日勢や外国人選手など新日マットを冷静に見通していた。「時が来る」のを待ち構えていたのだ。
チャンスはいつやってくのか、本人の努力だけではどうしようもない事もある。めぐり合わせに泣かされる場合も、逆にラッキーチャンスを手にすることもある。もとより「プロレスの神様」は気まぐれだ。思わぬケガをしてしまう不運もある。実力がありながら、天下取りに王手をかけながら、志半ばで失速してしまった選手を何人も見て来た。
果たして、内藤は見事にやってのける。2016年プロレス大賞のMVPにも輝いた。「時が来た」瞬間を見逃さず一気に掴み取ったのだ。
内藤のMVPは「驚」ではないかも知れない。内藤に言わせれば、計画通り「当然」の結果なのだ。
「一強」新日本プロレスを追う各団体でも「驚」は続いた。
全日本プロレスで宮原健斗が3冠王座に君臨し、中嶋勝彦がノアのGHC王者に就き、老舗の2団体で20代の王者が年越しを果たした。また、21歳の竹下幸之介がDDTのKO-D王座、24歳の神谷英慶が大日本プロレスの世界ストロングヘビー王座を奪取したのも今年だった。
かつてはレスラーの全盛期は「35歳から45歳」と言われていた。20代では、なかなか台頭するのは難しかったが、IWGP王者オカダを筆頭に、今や「若き王者」が「驚」ではなくなったきた。
日本マット界の常識が変わりつつある2016年。今は「驚」として捉えているが、後々「驚」が「驚」でなくなったターニングポイントの一年だったといわれるかも知れない。