【編集長コラム】「無観客試合の放送席から」

無観客試合の放送席には、骨を断ち肉を切る衝撃音が轟いた。

ファンの声援、拍手が無い会場。レスラー同士が肉体と肉体をぶつけ合うと、こんなにもスゴイ音が発生するのか。改めてプロレスの醍醐味とプロレスラーの頑丈さを思い知らされた。

普段も、ファンの皆さんが固唾を飲んで見つめている時に、ド迫力の音が響いてくるときもあるが、試合全般に渡って、耳に届くのだからたまらない。

チョップの打ち合い、キックの応酬では、喉元、顔面、胸板、腕、足・・・ターゲットとなった部位で、微妙に違う音が発せられる。大丈夫なのか? 壮絶ファイトには免疫があるはずだが、思わず心配になってしまった。

肉体と肉体のぶつかり合いだけではない。スープレックスで叩きつけると、金具がきしむ金属音が響く。リングが悲鳴を上げている。

と同時に、リングは波打ち、穴が開いたのでは・・・と思わせるほどレスラーの頭部が突き刺さる。

ゆがむ顔。それでもレスラーは立ち上がっていく。いつもなら、声援を受けファンから力をもらえるから頑張れるのだろうが、無観客でもいつも通り、いや、それ以上に踏ん張っている。

テレビカメラの向こうに、ファンの存在を確かに感じ取っているのだろう。画面に向かって、声の限りに応援してくれている皆が見えているのだ。

大相撲の無観客場所では、力士の息遣いやぶつかり合う音に驚かされた。プロ野球の無観客試合では、響き渡る打撃音、選手同士が確認し合う大声や、ベンチからの指示、ヤジがはっきりと聞き取れ、新たな野球の楽しみ方を発見したりした。

プロレスはファンあってのスポーツ。レスラーはファンの声援に、ファンは声援に応え何度でも立ち上がるレスラーから「プロレスの力」を得ている。無観客試合は厳しい、と危惧していたが、プロレスの底力、レスラーの凄みを再認識させてくれた。

ただ、デスマッチファイターが「無観客だと、百倍痛い」と嘆いていた。頷くしかない。

有観客試合も解禁されている。観客数は制限され、大声での応援は禁止されているが、徐々に日常の会場に戻っていくはず。

無観客試合の放送席から、プロレスの魅力を味わいながら、一刻も早い通常マッチの再開を願うばかりだった。

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