【今成夢人インタビュー】<後編> 挫折しても腐らなければ「見つけてくれる人」に出会える。それが竹下幸之介、飯伏幸太さん、大谷晋二郎さんだった。

インタビュー
今成夢人(ガンバレ☆プロレス/DDTプロレス映像班)

「後編」
挫折しても腐らなければ「見つけてくれる人」に出会える。
それが竹下幸之介、飯伏幸太さん、大谷晋二郎さんだった。

(前編より続き)

――今成さんの「自分には可能性がある」という強い思いはどこから生まれたものだったのでしょう?

「どこから生まれたのかな? これは難しいですね。会社とか組織が、他者の否定に回って歯車で動かそうとするところを見たりしたことの影響もあるかもしれません。結局、それって昔の日本のモデルというか、僕もそういう働き方になっちゃっていたんでしょうけど。でも『ダメだ』と言われても、心の中ではダメと思い切ってないんですよね。俺は俺で面白いと思ってるからこれをやるんだ、という。結局、自分を捨てきらないこと。内心『本当は俺は俺がやってることを面白いと思ってる』ということかもしれません。結局、その人に自分の魂を売り渡さないというか」

――今成さんを根本的に支えるものって何ですか?

「そうですね……」

――これまで何度挫折しても、根本的には自分を信じている。何か支えになるもの、子供の頃から持ってるものはありますか?

「いやー、先天的なものは弱いと思いますね。大学(多摩美術大学)でも結構しょっぱかったというか。苦労して二浪して入ったのに、また周りが天才たちばっかりで。自分が作る作品もしょぼくってという時に残り1年間しかない、じゃあ俺に撮れるものは何だろうと『消去法』で学生プロレスを撮る選択肢しかなかったんですよ。シナリオも書けないし、芝居を誰かにやらせることも難しいから『ドキュメンタリーにしよう』って、それでドキュメンタリー作品が出来たので」

――卒業制作の「ガクセイプロレスラー」が映画祭で好評で、テレビ局を辞めた今成さんがDDT映像班に入ったのも作品を見ていた男色ディーノさんに誘われたからでしたね。

「結局、意外と消去法で残ったものに賭ける、みたいなことをやって、なんか生き繋いできたっていう感じはありますね」

――「2023年の今成夢人」は過去の挫折と挫折から立ち上がった経験値を軸に映像を作ったり、プロレスに活かしたり。

「そうですね。うーん、結局、挫折感というものから『奮い立たせる』という物語が出来るので。自分を物語化するというか。煽りVTRをずっと作ってて思うのは、挫折ない人より挫折あるヤツの方が映像は作りやすい部分はあります、物語は。安定感のあるヤツのVTRより、挫折あるヤツのVTRの方が僕は構成を立てやすいと感じます。結局、そうしたんでしょうね。それで『自分を描いてみよう』という」

――なるほど。

「僕はある瞬間から、レスラーの煽りVTR、タイトルマッチのVTRに関しては一人で、自分が直接カメラを回しながら取材するのがいいなと感じるようになりました。リング上のマイクのやり取りだけではよっぽど優れたストーリーなら、おお、と編集で出来るかもしれないけど。個人が内面に秘めてる感情が何なのか。それは自分もレスラーで受け身を取ってるから、レスラーの感情を『翻訳』して伝えられるというか。自分が怪我をしたからこそ怪我した人の痛みも分かるし、それに気づいて、だんだん特殊能力になっていった感覚はあります。自分の挫折、全部ひっくるめて挫折から生まれた特殊能力というか。挫折の感情があるからこそ生まれたものだと感じてます」

――レスラーとしての挫折も自分の武器になったんですね。

「なったと感じます。なんでドキュメンタリーが好きなのというと再現性がないというか。『もう1回演じて下さい』が出来ない。1回性の強いものに僕は魅かれるし、それが撮れてる快感ってすごいあるから。その1回性の強さ、強度、涙、感情、怒りだったりとかが撮りたいな、と思うし、それを編集して構成して、物語を届けたいと思うんですよ」


大谷晋二郎さんが「プロレスラー今成」を見つけてくれた。


©ガンバレ☆プロレス

――映画「プロレスキャノンボール」の時の今成さんは「映像班の人」に見えました。今の「レスラー今成夢人」になるまで、体を大きくしたことと共に、大谷晋二郎さんと出会って、大谷さんに「レスラーとして」認められたのは大きかったのではないですか?

「大きかったです。それこそ、コロナ禍真っ只中の2020年とかで相変わらず自分に当てられる評価って低い感じもしたし。こう『俺、こんなもんなのかな?』という時に大谷さんやゼロワンの人が意外に評価してくれてて。で、ちゃんとプロレスラーとして呼んでくれたんですよ。『ガンバレ☆プロレスのレスラー』として、ジュニアのトーナメントに出られたことが本当に大きかったですね。それまでは何をやっても『映像を撮ってること』とセットだったんですよね。僕をプロレスラーとして他団体に呼んでくれたのは初めてで、その時に自分の中でガツンと来たというか。で、参戦していくうちに大谷さんとタッグ王座に挑戦することになって、大谷さんに『好きなことをマイクで言っていいよ』と言われたんですよ。だから自分の言語感覚で、いつもガンプロとかでやってる感じで相手がクールな感じの若手だったから『これからはクールジャパンじゃなくて、ホットジャパンの時代だ!』と言ったら、ホットジャパンが定着して、大谷さんを慕う人たちのチームでホットジャパンが出来たんですよ。その場の思いつきで考えたフレーズですけど、それは自分の1つのクリエイティビティだし、それを大谷さんが拾ってくれる嬉しさもあったんで。大谷さんがなにか柔らかいんですよね。僕のアイディアとかを拾ってくれて、吸い上げてくれるというか」


©ガンバレ☆プロレス

――今成さんをフックアップしてくれましたよね。

「『出会い』もありますよね。強烈にあるな、と思いました。ある人が認められてこなかったけど、別の会社の担当者に認められるとか。本当に30代は特にあると思うんですよね。それを待つのは大変だと思うんですけど、でもそれが訪れた時の気持ち良さとか、これまで見てるものが狭かったなと思うじゃないですか。その時に自分の世界が広くなっていく感じ、ワクワクしていく感じはあります。この間のアメリカもそうでしたね。飯伏選手が個人の関係の間柄でアメリカまで連れていってくれたので。僕は何かしら仕事として彼に応えたいという気持ちはあり、彼の試合の映像を撮ってすぐにホテルに戻り、彼の復帰戦をYouTubeに上げて、トレンドになっていました。自分のこれまでの仕事の経験が活きたし、小回りが効く自分の映像制作の面がいい形で発揮されたと思います」

――大谷さんも、飯伏さんのケースも、今成さんが毎日コツコツと仕事してきたからこそ、ですよね。模範的な働きではないなりにトレーニングしたり、映画観たり、映像作ったり、毎日の積み重ねがあるからこそ報われる瞬間が訪れた。

「だからこそ、やっぱりコツコツとやることからは逃げない方がいい、と僕は思いますね。結局は、難しいことですけど『腐らない』ってことだと思っていて。嫌なことと向き合う必要性もあるし、嫌なことと添い寝をすることもあるかもしれないし。『あ~、変えられねえのかな~』とか。社会の構図とか変えられないもどかしさも抱えて生きなきゃいけないこともやっぱ一杯あるんだけど。それでも明日から『はい、辞めた!』とはならない方がいい、と今の自分からは言えますね。腐らないで力になることって毎日あるから。いつか逆転する日を待つのはすごく大変なのかもしれないけど、こっちが想定する気持ちとして『腐らないようにする』ってことは大事だと思います。腐っちゃって、準備してきたことを途中で辞めちゃって、いざチャンスが来た時に放てる体力がなかったり、知力がなかったりするかもしれない。腐らないでいたら『いつでも準備出来てるんだよ』って多分なれると思う。それはどの世界にも言えると思います」

――オイシイとこ取りをしたい人は多いですけど、仕事の大部分は泥臭いことですからね。そこをしっかり出来ないとオイシイところも逃すのに、とは思います。

「僕が言われてショックだったのは、テレビ局の営業部に入った時に先輩に『お前は悪くないよ。悪いのは人事部だよ』って(苦笑)。それって遠回しに俺が傷つくんですよね。俺、こっちに来たことを別に人事部に責任転嫁したいわけじゃなくて、救いの言葉でもなんでもないよっていう。めっちゃひどいこと言うなと思って」

――でも「人事部が悪いんだ」で済ます人もいますよね。失敗や挫折は全部他人に責任転嫁して、自分のプライドを守ろうとする人が多い、と聞きます。

「ショートカットと効率の時代になってきてしまってる気はしますよね。それも難しいです。遠回りが必要だ、と説くのは前時代的なのかな、と思っちゃうところもあるし」

 

高岩竜一さんとタッグ王座を獲りたい。
大谷さんに頑張ってるところを見せたい。


©ガンバレ☆プロレス

――5月5日、ガンバレ☆プロレス(後楽園ホール)では、初代スピリット・オブ・ガンバレ世界タッグ王座決定トーナメントの決勝戦。これはぜひ獲りたいですね。

「そうですね。タッグパートナーの高岩さんがやっぱり、自分が見てた直撃世代の人ですし、ジュニアだけどパワーファイター、っていう。僕もすばしっこく動くタイプではないので、去年、高岩さんと戦うことで同時にお手本になったし。高岩さんの生活の、ちゃんとちゃんこを作って栄養を摂ったり、とても参考になったんですよね。ファイトスタイルも、50歳になってもやれてるコンディションの良さだったり、すごく見てて、僕のお手本だったんですよね」

――今成さんの中でこのベルトの位置づけは?

「団体としてシングルのベルトが一昨年に出来て、ようやく10年目でタッグのタイトルが出来て、本当の意味でプロレス団体の1つの形で出来る瞬間だと思うんですよ。僕にとってはガンバレ☆プロレスが10年、まさか続くとは思ってなかったところはあるんで。ガンバレ☆プロレスの10年があるから、タッグのベルトが出来た。それだけの陣容が揃ってないとベルトが出来る意味がないと思うので。だから、ガンバレ☆プロレスがタッグベルトを新設出来るのは中の選手もいるし、外からの選手もいて、充実してるからこそ出来たタイトルだと思うので。そこの中心に今成がいる、っていうのは僕がそこに居続けた証明だと思うので。僕は初代になるべきだな、っていう気がしますね」

――大谷さんに対する思いも聞かせてください。


©ガンバレ☆プロレス

「僕は、大谷さんに見つけて貰ったな、と思うし、大谷さんをガンプロに連れてきた張本人でもあるし。大谷さんがガンプロで腕を怪我した時も一緒に救急車に乗ったりもしたし。それこそ、大谷さんが首を怪我した両国の大会も全部見ているんですよね」

――そうでしたか。


©ガンバレ☆プロレス

「大谷さんが首を怪我した時のことは、本当に鮮明に覚えていて。あの日、僕は前座の試合で出たんですよ。で、大谷さんとバックステージで会ったら『夢人、盛り上げてくれてありがとう!』って言ってくれたんですよ。あんなにインディーズの選手にも『盛り上げてくれてありがとう』とか心の底から言えて、人を差別しないというか。大谷さん自身が凄いプロレスラーなのに、人を上とか下とかなく接してるのが僕は大好きだし、僕もそういう人間でありたいなと思うんですよね。だから熱い心を通わせたいというか、自分が今、頑張っているところを大谷さんにも見て貰いたいし。大谷さんに見つけて貰ったからこそ、今、俺は頑張れてるんですよ、というところがあるので。それをやっぱり大谷さんの盟友の高岩さんとベルトを獲れれば、それも伝えられると思うので」

――期待しています。本日はお忙しいところをありがとうございました。

(了)

▼前編はコチラ

【今成夢人インタビュー】<前編> 挫折しても腐らなければ「見つけてくれる人」に出会える。それが竹下幸之介、飯伏幸太さん、大谷晋二郎さんだった。
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