【新日本】<大張社長インタビュー①>逆境の中での成長と変革:新日本プロレスの3年間

②1.4東京ドーム大会「アントニオ猪木追悼大会」を振り返って

--今年の1.4はアントニオ猪木さんの追悼大会でした。こちら振り返っていかがですか?

猪木さんの訃報を聞いたのは、イギリス大会で現地に着いた夜。その翌日に会場で1.4を猪木さん追悼大会にしようと決めたんですよ。シンニチイズムをやろう、猪木さんフォーカスでやろう!と決めて。このとき、猪木さんの導きがすごくあったんだなと思っていて。訃報を聞いたのはイギリスの地、それも試合前日。イギリスには10カウントゴングの風習はないし、猪木さんの映像も手配できるか分からないし…。

でもこの時、いくつも奇跡が起きて。まず新日本の意思決定者である私と菅林、そしてオーナーである木谷まで、全員がイギリスにいたんですよ。そしてテレビ朝日さんのロンドン支局の方もとんできてくれて。現地のリングアナに10カウントゴングを急いでレクチャーして、テレビ朝日さんのおかげで現地の取材体制も手配でき、イギリスで10カウントゴングをやることが出来たんですよね。そして、日本の報道番組でその模様を放送してもらえた。


©新日本プロレス

--それは奇跡ですね。

10カウントゴングも初めてだったはずのお客様からも大「INOKI」コールが起きて、みんなが一斉に立ち上がって、映画のワンシーンのようでしたね。ファンのとき、リング上で猪木さんがマイクを持つと「いよいよ新日本プロレスが世界に羽ばたく年になります!」と常におっしゃっていました。まさにそれが体現できている場所での10カウントで、感極まりました。そして1月の決め事はほぼタイムリミットだったんです。イベントやろうとか、追悼大会にしたいとか…。意思決定者全員がその場に集まって即決できたというのは、どこか猪木さんの導きがあったのではと思わざるを得ない状況でした。


©新日本プロレス

--当日を迎えての心境は?

ゴングが鳴れば選手の仕事、逆に裏方の仕事はそこまでなので、事前の準備の方が私の本番です。どうしても猪木さんを制限のない会場で、沢山のお客様の声でお見送りしてもらいたいと思ったんです。「1、2、3ダー」や、特大の「猪木コール」をしてほしいと思って。だからその時の一番のミッションは、動員制限なしで声出しが出来るようにするということで、一歩も譲らない覚悟で関係省庁と交渉しました。

--制限なしの声出し、1.4という新日本最大の大会で猪木さんをお見送りできたというのは、ファンにとっても特別な大会でした。

猪木さんには夏の段階で終身名誉会長になってもらうことが決定していて、9月に契約を結んだのかな。本当ならご存命の猪木さんがあのリングに来られて、ダーをしていただくのが理想だったんですけど、それが叶わなかったので満員の会場でダー、または猪木コールをやりたかった。結果満員にはなりませんでしたけど、昨年の1.4の倍以上の方にご来場いただきました。参戦選手全員が、それぞれの闘魂を燃やして闘ってくれたと思います。

あとは、ケニー・オメガ選手も久しぶりに参戦してくれたり。プロレス界をけん引してきた猪木さんの最後にふさわしい大会になったと思います。オカダ・カズチカ選手もそこでタイトルを獲って。私個人の印象ですが、最後のマイクに至るまで、まるで猪木さんが乗り移ったかのようでした。


歓声が戻ってきた現状

--歓声が戻ってきたわけですが、今のこの状況はいかがですか?

会見で言った通り、プロレスはもちろん選手の闘いありきですけど、それに呼応する形で声援があって、それが選手の刺激となりさらに会場が盛り上がる。来場して得られる喜びって、そこで完成すると思うんですよ。チケット代を超える喜びと満足度を得てもらう。長期間にわたり、大きな両輪となる片輪が抜けていたんですよね。声援もブーイングもできなくてモヤモヤして帰宅されるケースも少なくなかったと思います。歓声がない時代、決して「歓声がないプロレスは本来よりもつまらない」という主旨の発言はしないようにしていましたが、本心は歯痒かったですね。

--それはそうですね。

あとは私生活の変化がプロレスの見方を変化させました。例えば、仮に戦時中なら、好んで戦争映画を見る人は少ないですよ。安定したハッピーな私生活があるから、そういった映画やホラー映画などを見て楽しめる。リング上では、推しの選手が勝ったり負けたりして、その勝ち方、負け方も様々。かつては、満足度の高い試合もそうでない試合も、感情を揺さぶる「幅」や「溜め」として消化して下さっていたんですよね。お客様の感情に多くの弾力があった。

でも私生活もコロナ禍でアンハッピーな状況下だと、これまでと同じ試合をしても満足してもらえる場面や、弾力で今後につながる許容度が変わるわけです。更に歓声禁止なら、なおさらです。私はリング上で戦ったことが無いので、また棚橋選手の言葉を借りますが、本来プロレスは「プレイ・バイ・イヤー(Play by Ear)」のスポーツなので、無観客や無歓声の環境は、レスラーにとっては逆にお客様の熱狂を引き出す手段、技量を磨ける良いチャンスだという話を聞いたことがあります。

もちろんお客様側のライブスポーツへの渇望感ゆえに、このところ一気にお客様の満足度が増しているという側面もあると思いますが、選手側もこのコロナ禍を通じて身につけたものを発揮しているからこそ、会場内はコロナ前を大きく上回る熱気になっているのだと思います。会社の体質だけでなく、選手たちも一回りも二回りもレベルアップしてくれたんじゃないかなと思います。

--やはり歓声があるとないとでは大きく違いますよね。歓声のパワーを本当に感じました。やはり歓声がない時代、選手もいろいろ工夫されてました。

リング内でもそうですけど、リング外での発信を磨いた選手も多いんじゃないですかね。例えばオーカーン選手はコロナ禍で現れて、発信面も乗りに乗っている。例えば、お決まりの文句をリングで言いますよね、ノーマイクで。普通なら歓声でかき消されちゃうし、でもマイク取りに行ってたら冷めちゃったのかなと思うんですよね。

これは、あの時期発ならではの部分じゃないかなと思います。そういうものが幾重にも重なって。苦しかったけど、いいところを見るとすると、3年間コロナがなかったなら得られなかったものは非常に多いと。ま、今だから言ってますけどね。

インタビュアー:山口義徳(プロレスTODAY総監督)

▼第2弾と第3弾はこちら
【新日本】<大張社長インタビュー②>新たな挑戦“女子王座新設”、武藤敬司引退大会、A猪木さん「お別れの会」を振り返る
https://proresu-today.com/archives/219099/
【新日本】<大張社長インタビュー③>コロナ禍での挑戦と復活、「ALL TOGETHER AGAIN」、下半期の戦略を語る
https://proresu-today.com/archives/219101/

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