新日本プロレスとノアのハイブリッド戦士が誕生 大岩陵平から目が離せない

【柴田惣一のプロレス現在過去未来】

新しいレスラー修行の道が開かれた。新日本プロレスの大岩陵平がライバル団体のノアでファイト。一年間の留学を終えた。

ノアのエース・清宮海斗に見込まれて、ヤングライオンの大岩陵平が試合だけでなく道場で練習も共にし、ノアをガッツリ体験した。

「団体によって、やり方もいろいろある。勉強になった」と大岩は振り返る。実際、そうだろう。ノアは馬場・全日本プロレスの流れをくむ団体。猪木が興した新日本とは流儀が違う。練習方法、ファイトスタイル、間の取り方…中でも受け身への取り組み方である。

「準備運動の後、ノアでは受け身をトコトン繰り返す。いろんな受け身をこれでもか、というほどやる。どんな態勢から落とされても大丈夫なように」とにっこり。

馬場時代からそうだった。練習生はとことん受け身を叩き込まれる。そこで合格できなければ、デビューはできない。開場前の会場で、まずは自ら飛んで、続いて先輩選手に投げられる練習生。見守る馬場のいつになく厳しい視線を思い出す。

他団体から移籍した選手を見極めるのも受け身だった。「受け身、取ってみて」と馬場。満足げに笑うか「もういいよ」と淡々と止めるか。馬場流の診断はシビアだった。

馬場の教えを身をもって知る小川良成が、その伝統を守っていた。先日、引退を発表したが、多くの選手からメッセージが殺到。馬場の教えを受け継いだ小川の指導のありがたさに感謝している。

大岩は馬場・王道流に触れた。育成法だけでなく試合の組み立て方も実戦の中で学んだ。新日本道場での基礎もある。いわば、猪木・新日本と馬場・全日本を受け継ぐノアのハイブリッドである。

もちろん、いいとこ取りでかまわない。大岩なりに選択しスタイルを確立することだ。キャリア3年にして、並みの選手なら10年かかることを一気に体験できたといっていいだろう。「経験に勝るものはない」とはアインシュタインの名言だが、まさにノア留学は大岩だけの貴重な経験だ。

かつては海外修行が出世の近道だった。単身で海外マットに飛び込むことは、心身とくに精神面を鍛えあげられる。今回の大岩の他団体留学は新たな育成法として、成果が注目される。

ラストマッチで清宮に敗れた大岩。GHCヘビー級王者にまだまだかなうはずはない。とはいえ、とことん追い詰め手ごたえも掴んだはず。

試合後の大岩コールと温かい拍手に「ノアの一年は僕の宝です」と心から感謝する。

そして「IWGP世界ヘビー級王座を取る」と目標を掲げた。いつか自分がベルトを巻いて清宮とIWGP戦を、と思い描いているだろう。

法政大学レスリング部に入門した際「プロレスが好き。悪役が好き」とアピールしている。現在のナイスガイぶりからは、想像もつかないが悪に転身したとき、また一皮むけるのかも知れない。

温かく迎え、送り出したノアのファンも、ノアで学んだことを活かしてほしいと願っているだろう。

「もしかしてこのままずっとノアに?」とヤキモキし、大岩の”凱旋”を心待ちにしていた新日本ファン。お帰り! と大歓迎だろう。両団体のファンの期待を背負った大岩は幸せ者だ。

新ルートを開拓した大岩陵平の今後の活躍が楽しみで仕方ない。(文中敬称略)

<写真提供:プロレスリング・ノア>

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