同じアイドルグループに在籍の神姫楽ミサが闘って実感。「中野たむは引退しない!」
続けさせないためのデビュー戦ということか。ところが、これを機に神姫楽の思いはさらに大きくなっていく。
「試合ではボコボコにされました。でも、強くなりたい、勝ちたいと思いました」
やがて彼女はJTOとともに、他団体にも参戦。試合をよりこなすことで、プロレスが楽しいと思えるようになったというのだ。
そして22年7月、先にデビューしプロレスでどんどん実績を積み上げていく中野の所属するスターダムへの参戦が決定。デビュー当初からの目標のひとつに、当時は具体名こそ出さなかったものの中野との対戦があった。リング上で対峙し、「謝りたいこと」があったのだ。
「自分としては(中野に)ちょっと近づいたのかなって。そのリングに上がるということで、すごく意識はしました。なにか残さないといけないって」
「写真提供:板井敦郎」
ところがそこは若手ブランド「NEW BLOOD」のリングで、中野と顔を合わせる機会がないまま終了。夢は潰えたと思われたが、昨年11月に再び参戦し、試合のない中野にアピール。これが実り、タッグながらも2度対戦した。そして、ホームリングJTOでのシングルマッチも決定したのだが…。
「私がインフルエンザに罹ってしまって…。ありえないですよね…」
1・10新宿での一騎打ちは中止となり、シングルの話も立ち消え状態になってしまった。このまま忘れられるのかという状況の中、中野たむ引退の可能性が浮上。そこから思い出したかのように、3・27NBで中野と神姫楽のシングルがあらためて、そしてようやく実現したのである。
「写真提供:板井敦郎」
神姫楽は、その試合を“中野たむ引退ロード”の一環としてとらえていた。「最後かも」との思いも上乗せされたのか、神姫楽はプロレスにおける中野との距離を縮めようと奮闘。敗れはしたものの、中野から「目に闘志が宿っていて、ミサはアイドルではなくプロレスラーになったと感じましたね」との評価を得た。
中野は過去に神姫楽のライブドタキャンがあったとしていたが、神姫楽によると運営側のトラブルから「大量離脱」に巻き込まれた形だったという。それでも「ほかにもやめ方があったのでは?」と考える神姫楽は、中野に謝罪。そのとき中野は「安心して。引退しないから」と声をかけたのである。
誤解も解けた。そして、神姫楽は確信した。「中野たむは引退しないです。闘ってみて、この人は引退しないと感じたんです。だって、引退を決めてる人があんな闘い方するわけがない。もう一度リングで会いたいか? それもありますけど、純粋に、中野たむは(4・27横アリで上谷に)負けないと思います」
再会のためにも、自分自身のさらなる成長は必須条件。現在は柳川とJTO GIRLSタッグ王座を保持しており、JTO4・25タワーホール船堀でrhythm&藤田あかね組を相手に防衛戦。また、アイスリボン4・27大田区産業プラザではしのせ愛梨紗とのチームで若菜きらり&叶ミク組のインターナショナルリボンタッグ王座に挑戦する。そして、SEAdLINNNG5・1後楽園ホールではYuuRIとともに笹村あやめ&青木いつ希組のビヨンド・ザ・シータッグ王座に挑む。すべてが異なるパートナーでのタイトルマッチ。これもまた、神姫楽にとっては大きな経験となりそうだ。
「いまの自分は、仲間とともにタッグの景色を見てみたい。プロレスラーになって、生きていると実感します。自分や他人との向き合い方、人生についてもっと考えるようになったと思いますね!」
その先にはきっと、中野との再会が待っている。そのとき、神姫楽がどれだけ中野の実績に近づいているか。将来、超えている可能性だって否定はできないはずだ。中野と上谷の出逢いも運命的なら、中野と神姫楽のそれも運命的。プロレスでつながるもうひとつの物語が、ここにある。
インタビュアー:新井宏