「光と闇のラストダンス」中野たむ、運命のリングにすべてを捧げて消ゆ。最後に残した“呪い”と“輝き”

2025年4月27日、横浜アリーナが静まり返った瞬間、ひとつの物語が幕を閉じた。

スターダムの大舞台「ALL STAR GRAND QUEENDOM 2025」。
メインイベントで行われた王者・上谷沙弥との「敗者即引退」ルールのワールド王座戦。
そこで敗れた中野たむは、レスラーとしての命を終えた。

だが、その最期は決して悲しみに沈んだものではなかった。むしろ、輝きを放つような終焉であった。

デビューから8年。
「宇宙一かわいいアイドルレスラー」と自称した中野は、時に笑われ、時に翻弄され、それでも己の美学を貫いてリングに立ち続けた。
ワンダーの白、ワールドの赤、両方のベルトを巻いた数少ない選手として、スターダムの看板を背負ってきた。

その中野が、引退を懸けて戦う相手に選んだのが上谷沙弥であった。


©STARDOM

この選択は、単なるストーリーの一幕ではない。
そこには深い覚悟と、重たい想いが込められていた。
芸術家のように繊細で、表現者のように奔放。
中野たむというレスラーは、常にリングの上に「自分のすべて」を投影してきた。
それゆえに、最後の相手には、己を知る存在、心の奥に爪痕を残してきた相手がふさわしかった。


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ゴングが鳴ると同時に、リングは感情の渦と化した。
荒々しい攻防、危険な技の応酬、泣き叫ぶような叫声。
そこにあったのは、ただのタイトルマッチではなく、“存在の証明”であった。


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上谷は叫んだ。「お前のせいで私はプロレスラーになった」と。
中野は応えた。「全部をかけて戦えた」と。

戦いの末に勝者となった上谷は、涙をこらえながら中野の名を何度も呼んだ。
中野は微笑み、呪いのように言い残した。


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「あなたはこれから中野たむの呪いを一生背負って生きるんだよ。ここにいるみんなもそう。全員たむのこと一生忘れちゃダメだからね」

それは、ただの別れのセリフではない。
“リングに残る者への遺言”であり、“レスラーという存在の宿命”でもある。

引退後、中野たむはSNSの更新を一切絶っている。
姿を消し、言葉を失い、記憶の中だけで生き続ける――それがたむの美学だった。

試合後、上谷と共に花道を歩く姿に、勝者と敗者の区別はなかった。
そこには、戦いを超えて結ばれた魂と魂の結晶があった。
たむのリング人生の最終章は、血と涙と執念にまみれながらも、まばゆい光で締めくくられた。


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「レスラー・中野たむ」はもういない。だが、忘れることはできない。
スターダムという舞台に、あまりにも濃く、強く、美しく刻まれた足跡があるからだ。

そして今、あの“呪い”を背負って歩む者たちがいる。
それは、上谷沙弥だけではない。
たむと対峙した者、共に笑った者、同じリングに立ったすべての選手、そしてファンたちもまた、その呪いの中で生きていく。


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この“呪い”とは、すなわち「忘れさせない力」――中野たむという存在を刻みつける魔法である。

たむの去ったリングには、静けさと共に、確かな“痕跡”が残っている。
それはやがて、次なる誰かの「物語の原点」となるかもしれない。

そしてそのとき、人々はこう言うのだ。

「中野たむというレスラーがいた。美しく、儚く、強く――そして、誰よりもプロレスを愛したレスラーが」

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