“過激な仕掛人”新間寿氏の魂が導いた歴史的和解!佐山と前田、動き出す育成構想「新しいプロレスラーを育てようという事になりました」

6月12日。後楽園ホールに、ひときわ濃密な空気が流れていた。プロレスを愛し、プロレスにすべてを捧げた男――新間寿。

その名を知らずして、昭和のプロレスを語ることはできない。“過激な仕掛人”として、時に時代を先駆け、時に反発を受けながらも、プロレス界に革命をもたらした。

その魂に花を手向ける夜が、ストロングスタイルプロレス『THE 20th ANNIVERSARY』THE 20th ANNIVERSARYー “過激な仕掛人”新間 寿 追悼興行ーの名の下に開催された。

昭和のプロレスを作り、育て、導いた父が空へと旅立った。だがその背中を見てきた者たちが、今またリングに集った。

第4試合。ここでも一騒動、いや“事件”が起こった。大仁田厚と雷神矢口が、間下隼人&関根“シュレック”秀樹と激突。

ストロングスタイルの旗を掲げる大会で、毒霧が飛び、有刺鉄線バットが唸り、ギターが炸裂した。完全なる“邪道”ぶり。しかし大仁田は迷いなく叫ぶ。

「今日は新間さんのために多くの人が集まっていただいてありがとうございました!」

そして間下へ、魂の言葉をぶつけた。

「お前はストロングスタイルプロレスを支えていかないといけない人間だ、頑張れよ」

間下は真っすぐに応じた。

「アンタと電流爆破がしたいんじゃ!」

その言葉に関根も加勢。

「負けたままじゃ終われないやってやるよ」

新間追悼のリングで繰り広げられた、世代と思想のぶつかり合い。これこそがプロレスの本質であった。

だが、真の主役は試合後に登場する。追悼セレモニーには、陽子夫人と親族が参列。

リングサイドには、藤波辰爾、船木誠勝、ジャガー横田、そして藤原喜明、前田日明、北沢幹之、中嶋勝彦らが顔を揃えた。遠くアメリカからはスタン・ハンセンがVTRでメッセージを寄せた。

言葉の一つひとつに、深い敬意と愛情が滲んでいた。

場内に「タイガーマスク」のテーマが流れると、その音楽に重なるように新間のビデオメッセージが響いた。

「一緒に後楽園ホールのリングであいさつをしようと思う。待ってるぞ」

亡くなる前日に、初代タイガーマスク・佐山聡へ送られた言葉だった。

そして、奇跡が起こった。パーキンソン病と闘う佐山が、自らの足で花道を歩き、7か月ぶりにリングへ上がったのだ。拍手が、感動が、会場を包み込んだ。

マイクを握った佐山は、静かに、しかし力強く語った。

「私たちの昭和のプロレスの父を失いました」

さらに語られたのは、前田日明との“歴史的和解”だった。

「新間さんのお通夜の時に前田君が“佐山さん治りますよ”と声をかけてくれて。医者を紹介してくれて今日、ここに歩けるようになりました」

その言葉に、観客は割れんばかりの拍手で応えた。確執を超えた絆。遺された者たちが、恩人の思いを胸に再び歩み出す――それは、新間が描いた“未来”そのものだった。

「このままいけば1年後には再デビューできそうです」

驚きの宣言も飛び出した佐山。そして新たな構想も明かされた。

「前田君と1時間くらい電話したんですけど、新しいプロレスラーを育てようということになりました。ニューヨーク(WWE)に負けないような選手に育てたいと思います」

育成するのは、藤原喜明のように「強そうで怖そうで酔っ払いそうな」選手――どこか懐かしく、どこか挑戦的なビジョンが語られた。

セレモニー後、控室では自然と育成の話題が広がった。

「前田くんがね、自分の若い頃のスピード感を思い出してくれって言うんですよ」と佐山。昭和のプロレス、実戦性と俊敏さの融合。再びそれを蘇らせようというのだ。

前田も熱く語る。

「メインイベントを張れるレスラーを育てるのに、5年はかかる。でも、強く、壊れない身体をつくれば、プロレスはもっと面白くなる」

藤原は一言。

「俺は先ないんで。まあ2人のあれを見守るだけだよ」

そんな組長に、佐山が即座にツッコミ。

「酒は禁止です」

重ねた歳月と笑顔の裏に、新しい闘いの決意が見えた。

前田はふと、通夜での“不思議な出来事”を明かした。

「パッと開けたら佐山さんの隣に新間さんが立ってたんですよ」

幻想か、奇跡か――だが確かに、あの夜、新間寿はそこにいた。

「オマエ佐山と仲良くできないんか。仕事できないんか」

かつて言われた言葉が、今になって重く胸に響いた。

故新間寿の追悼興行は、ただの追悼ではなかった。プロレスの過去と現在、そして未来を繋ぐ交差点だった。昭和の父が蒔いた種が、令和のリングで芽吹き始めた。

――新間さん、聞こえますか? あなたのプロレスは、まだまだ終わらない。

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