『ノンフィクション』から始まった物語の終着点。長谷川美子、ラストインタビュー「私の人生で一番濃かった時間」

7月8日、新宿FACE。一つの物語が、その幕を閉じようとしている。東京女子プロレスの長谷川美子。5年間に及ぶプロレス人生の集大成として、彼女は「NonfictioN」と名付けられた卒業記念興行のリングに立つ。

引退発表から3ヶ月。迫り来るフィナーレを前に、彼女の胸に去来する想いとは何か。そして、前代未聞の「1対27ハンディキャップマッチ」という最後の試練に、どう向き合うのか。

デビュー前のドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』で見せた涙の裏にあった強さ、誹謗中傷を乗り越えた精神力、そして彼女を支え続けた人々への感謝。

波瀾万丈だったプロレスラー・長谷川美子の「真実」に迫る、最後のロングインタビュー。

【大会名】長谷川美子卒業記念興行「NonfictioN」
【日 時】2025年7月8日(火) 開場18:30 開始19:00
【会 場】東京・新宿FACE

【引退を迎える現在の心境】

――いよいよ引退が目前に迫ってきました。これが最後のインタビューになるかと思うと、寂しい気持ちになります。

長谷川:本当に寂しいです……。もう、そうですよね。

――初めてお会いした時のことを思い出します。まさか、あのコスチュームのまま、ご自宅から編集部にいらしたとは。

長谷川:はい、自宅からコスチュームでした(笑)。全然、抵抗なかったですね。

――あの時の根性、今思い返しても本当に凄かった。秋葉原の街だから、まだ何とかフィットしていた部分もありましたが。

長谷川:本当に秋葉原でよかったです(笑)。でも、ご一緒した高瀬みゆきさんは私よりノリノリで、あの格好のままラーメン屋さんに入ろうとしていました(笑)。根性のレベルが違いました。

――あの頃から、見られることへのプロ意識、自分の生き様を見せるという覚悟は、人一倍持っていらっしゃったように感じます。そんなプロレス人生の最終章が、7月8日、新宿FACEで迎えるわけですが、今のお気持ちはいかがですか?

長谷川:発表したのが3ヶ月前で、その頃はまだ先のことのように感じていたんです。「まだやれることはいっぱいあるな」って。でも、残り1ヶ月を切って、試合数が片手で数えられるくらいになった時、急に実感が湧いてきて。大嫌いだったはずの体の痛みですら、「この痛みを感じるのも、あと数回なんだ」と思うと、猛烈な寂しさに襲われるようになったんです。一試合、一試合に込める想いが、これまで以上に強くなっているのを感じます。

――カウントダウンが始まったことで、心に変化が。

長谷川:はい。心がキュッと締め付けられるような感覚です。ずっと全力で走り続けてきた日常が、もうすぐプツッと途切れてしまう。引退までの日々を駆け抜けようと必死だったのに、その先が真っ白になった時のことを想像すると、急に不安が押し寄せてきて……。夜、一人でお酒を飲んだりすると、「私、この先どうなるんだろう、やばいやばいやばい」って、怖くなってしまうんです(笑)。

【カウントダウンの寂しさと、未来への不安と。引退を決めた本当の理由】

――その寂しさと不安を抱えながらのカウントダウン。改めて、今回引退を決意された理由を教えていただけますか。

長谷川:もともと「元気なうちに辞めるのが一番いい」という考えがありました。同い年の赤井沙希さんや角田奈穂さんが引退後も、プロレスとは違うフィールドで生き生きと活躍されている姿を見たのが、一つのきっかけです。先輩方の姿に、自分の未来を重ね合わせたというか……。「元気であってこそ、これからの人生があるんだ」と強く感じたんです。

――ご自身の体の状態も、決断の一因だったのでしょうか。

長谷川:そうですね。大きな怪我も経験しましたし、試合後のダメージの回復が以前より遅くなっているのを感じるようになっていました。特に首の痛みを感じた時に、過去の怪我がフラッシュバックして「ハッ」とする自分がいて。もちろん、今現在は元気なんです。でも、この先の長い人生を考えた時に、プロレス以外の新しい何かに挑戦してみたい、という気持ちが強くなっていきました。同世代の仲間たちが新たなステージで輝いている姿は、大きな刺激になりましたね。

【前代未聞の1対27。クレイジーな最終戦で狙うは「勝利」のみ】

――そして発表された卒業記念試合は、なんと「1対27ハンディキャップマッチ」。最後にしては、あまりにも過酷なカードです。

長谷川:本当ですよね(笑)。最初に聞いた時は、正直かなりクレイジーな発想をする団体だなと感じました(笑)。

――甲田哲也代表から直接打診されたのですか?

長谷川:はい。引退会見の時に「最後に戦いたい相手は?」と聞かれて、「東京女子の全員と戦いたい」「強い選手と戦いたい」と答えたんです。そしたら、その全部を良い意味でごちゃ混ぜに詰め込んだような、このカードが出てきました(笑)。

――ある意味、長谷川さんの願いがすべて叶った形ではありますが……。

長谷川:(笑)。でも、赤井さんや小橋マリカさんも卒業の時には全員と戦っていたので、東京女子の伝統というか、「みんなで送り出してあげよう」という温かいセレモニー的な意味合いもあるんだと感じています。

――ルールとしては、27人のうち誰か一人からでも勝利を奪えば、長谷川選手の勝ちとなるわけですよね。

長谷川:多分、そういうことだと思います。明確なルールはまだ聞いていないのですが、私が一人で、相手は27人が自由にタッグを組んで出てくる形式だと聞いています。

――だとしたら、最初に出てきた選手に電光石火で勝利すれば、残りの26人と戦わずに済む可能性も?

長谷川:もう、それしか狙ってないです! 最小の労働力で、最大の結果を得る。それが私のテーマです。まともに戦ったら、ベルトを持っている選手もいる中で、1対27なんて絶対に勝てっこないですから。

――何か秘策は?

長谷川:対戦相手の皆さんは、私の試合の前に、ご自身の試合があるんです。だから、そこで全エネルギーを使い果たして、カラカラの状態で私の前に来てほしい。もう動けないくらいフラフラの状態でリングに上がってくれれば、少しは隙が生まれるんじゃないかなって。今、どうすれば勝って終われるか、そればっかり考えています。

――やはり、最後は「勝ち」で飾りたい。

長谷川:もちろんです! デビューの時からずっと「勝ちたい、勝ちたい」と言い続けてきました。人生最後の試合で、負けて終わりたくない。ここで勝てば、今までの悔しさも全部チャラになる。すべてがOKになるんです。絶対に、何としてでも勝ちます。その気概だけは、最後まで燃やし続けています。

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