長谷川美子、魂の終着点―5年9ヶ月の『ノンフィクション』が新宿の夜に完結

魂の激闘譜、新宿FACEに刻んだ最後の勇姿

試合は、引退試合のわずか3日前に奪取したアイアンマンヘビーメタル級のベルトを懸けて行われた。時間無制限3本勝負。一人で27人の壁に挑む、あまりにも無謀な闘いが始まった。

<1本目>
次々とリングインしてくる選手たちを相手に、長谷川は孤立無援の戦いを強いられる。しかし、混乱の中、辰巳リカと共にリングに現れた甲田哲也代表に狙いを定めると、奇襲のニードロップ一閃を炸裂させフォール勝ち、まずは1本を先取する。

<2本目>
だが、束の間の勝利は、これから始まる地獄の序章に過ぎなかった。2本目に入ると、選手たちの猛攻はさらに激しさを増す。唇から血を流し、朦朧としながらも立ち向かう長谷川。その姿を見かねたのか、パートナーとして絆を深めてきた鳥喰かやが、1対27というルールを破り、助けに入る。「私は東京女子ではトリッピーが正規のパートナーだって勝手に言ってて感じてたので、最後に助けに来て、一緒に交われたことはすごく幸せだなって思いました」。しかし、衆寡敵せず。最後は鈴芽の必殺技、リング・ア・ベルの前に沈み、アイアンマン王座から陥落した。

<3本目>
1-1で迎えた最終ラウンド。そこに立っていたのは、”ビッグカイジュウ”中島翔子であった。事実上の一騎打ち。長谷川は残された最後の力を振り絞り、エルボーを叩き込み、トップコーナーから渾身のダイビングダブルニーアタックを炸裂させる。だが、中島の牙城はあまりにも高かった。強烈なエルボーで動きを止められると、ダブルアームDDTでマットに突き刺され、最後は必殺のダイビング・セントーンを浴びて、力尽きた。万策尽きた長谷川の肩を、レフェリーの手が3度、マットに叩きつけた。

 

「もっと、わがままに生きて」―涙で解かれた心の枷―

激闘を終え、大の字に倒れる長谷川を、中島は優しく抱き起こした。そして、マイクを手に、ずっと胸に秘めていた想いを言葉にした。

「すごくわがままを言わなかったね。今までずっと怒ったりとかしていいのにさ、一番下の後輩にも敬語使ったり。(長谷川と)見た目は似てるって言われてきたけど、私は結構わがままを通してきたから。わがままをもっと通せばいいのにって思ってましたよ。だからね、引退したらもっとわがままに生きてほしいなって。わがまま言ってもさ、良い仲間だから。最後に東京女子を選んでくれたから、いくらでも私たちわがまま聞くし、これからの人生、わがままに生きてください」。

その言葉は、長谷川がずっと心の奥底にしまい込んでいた枷を、優しく解き放つものであった。涙が溢れ出た。

「なんか嫌われるのとかが怖かったから、何も言わない方がいいのかなみたいな。でも東京女子はそんなところじゃなくて、みんな個性的で自由に生きてて、すごい憧れる部分があって。だからこそ、ここで引退を決めた時、すごいわがまま言わせてもらって、こんなすてきな引退ロードを作っていただきました。本当に皆さんには感謝してます。ありがとうございました」。

リングの上で、ようやく本当の自分をさらけ出すことができた瞬間であった。

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