【天龍源一郎 魂の独白】<第6回>ミスター・プロレスが11.4に託す“最後の後楽園”「俺の魂を感じたい奴は、後楽園に来ればいい」

栄光と逆境。その両極を味わい尽くしたレスラー人生を、天龍源一郎は淡々と、しかし確かな熱を込めて語った。

BI砲との人間関係、SWSでの苦闘、そしてWARで掲げた反逆の狼煙――。

そのすべてが、「天龍源一郎」という唯一無二のプロレスラーを形作る、血肉となっていた。

全6回にわたってお送りしてきたロングインタビューも、いよいよ最終回。

テーマは「龍の終着点、そして未来への眼差し」。

過去を語り尽くした男が、今、何を見つめているのか。

引退試合の相手が見る景色、世界へ羽ばたく後進たちへの提言、そして、もしも許されるなら…と夢想する、時空を超えた最後の闘い。

その言葉のすべては、これからプロレスの未来を担う者たちへ、そしてプロレスを愛し続けるファンへ向けられた、ミスター・プロレスからの最後のメッセージとなるだろう。


<写真提供:伊藤ミチタカ氏> 

■引退試合とオカダ・カズチカ「俺と闘ったから、今のあいつがいる」

―― 天龍さんのレスラー人生を語る上で、最後の試合は特別な意味を持ちます。2015年11月、引退試合の相手を務めたオカダ・カズチカ選手が、現在、米国の団体AEWで初代統一世界ヘビー級王者として頂点に立っています。その姿を、どのようにご覧になっていますか?

天龍: ああ、見ているよ。俺はね、べつに恩着せがましく言うつもりは毛頭ない。だけどな、あの時、俺と向かい合ったからこそ、今のオカダ・カズチカがいるんだと、そう思っているよ。


<写真提供:伊藤ミチタカ氏> 

―― と言いますと?

天龍: 考えてもみなよ。昭和の時代から、数々のベストバウトを獲り、酸いも甘いも噛み分けてきた天龍源一郎というレスラーが、最後の最後に、全盛期とはほど遠いボロボロの体で、自分の目の前に立っている。あの時、オカダが何を感じたか。


<写真提供:伊藤ミチタカ氏> 

俺の蹴り一発、チョップ一発に、俺が歩んできたレスラー人生の重みのかけらでも感じ取ったはずなんだよ。その記憶が、今のあいつのプロレスのどこかに、必ず生きている。だからこそ、AEWにいる百戦錬磨の外国人レスラーたちから、「オカダとなら、安心して試合ができる」と信頼されるレスラーになれたんじゃないのか。


<写真提供:伊藤ミチタカ氏> 

―― 天龍さんと闘ったという経験が、オカダ選手を大きく成長させたと。

天龍: 俺と闘っていなければ、今のあいつがどんなプロレスをやっているかは分からない。だけどな、世界中のトップが集まるあのリングで、団体の顔として君臨できるレスラーにはなっていなかった。それは、間違いなく言える。時々、苦しい場面で、ふと「あの時の天龍は、膝をついてでも向かってきたな」とか、そういう断片的な記憶が、あいつを支えるヒントになっているはずなんだよ。そうじゃなきゃ、あんなにスケールの大きなプロレスはできない。

 

■世界へ羽ばたく日本のレスラーたちへ「自分を着色しろ。だが、化けの皮が剥がれるな」

―― 今、オカダ選手だけでなく、WWEでは中邑真輔選手やジュリア選手、AEWでは柴田勝頼選手など、多くの日本人選手が世界を舞台に活躍しています。彼ら、彼女らに、何かアドバイスはありますか?

天龍: 俺が言えるのは一つだけだよ。「日本でやってきたことに、自分なりの着色を少しだけ加えれば、それで十分だ」ということだ。ガラッとアメリカのスタイルに馴染もうなんて思うと、絶対に戸惑うし、自分を見失う。その必要はまったくない。

―― 日本でのキャリアに、自信を持て、と。

天龍: 当たり前じゃないか。今の自分のスタイルに、ほんの少しだけアメリカのファンが喜ぶような要素、例えばランディ・サベージみたいな派手なアピールをちょっとだけ加えてみるとか、それくらいの“ふた”を付け替えるだけでいい。なぜなら、今の彼らには、日本で培ってきた盤石の「基礎」があるからだ。アメリカのファンだって、日本のプロレスをビデオやネットで死ぬほど見ている。だから、下手にやりすぎると、「こいつ、らしくないな」って、すぐに見抜かれる。化けの皮が剥がれちまうんだよ。

―― 昨今のメジャーリーグでの日本人選手の活躍にも通じるものがありますね。

天龍: まったく同じことだよ。今やアメリカの野球だって、本当に活躍しているのは、日本や、地図を見なきゃどこにあるか分からないような貧しい国から、ハングリー精神を胸にやってきた奴らじゃないか。それだけ、日本で叩き上げられてきた選手の基礎レベルは高いんだ。プロレスも同じ。日本のレスラーは、毎日毎日、何百回と受け身を取らされて、体をいじめ抜かれている。だからこそ、アメリカのリングに上がっても、瞬時に状況を判断できるアンテナが備わっているんだよ。その自信を、絶対に忘れちゃいけない。

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