【優宇選手インタビュー】東京プリンセスカップに挑む。価値ある一敗を糧に、理想のチャンピオンを目指す!

<柔道への道、プロレスへの思い>

優宇:翌日、高木さんに「お父さんと縁を切ったんでDDTに入れてもらえますか?」って言ったら、高木さんが「え、何の話だ?」って慌てだして、お母さんが「実は昨日の夜こういうことが……」と説明すると、高木さんが「やばい、一つの家族を壊してしまう」と思ったらしく、木村浩一郎さんに「柔道をやってみないか?」と言われました。あのころは橋本友彦選手が柔道着を着て試合に出ていて、橋本さんにもかわいがってもらったんですけど、木村さんに「はっしーだって柔道着を着ている、なぜだかわかるか? 柔道をやっているとプロレスの練習になるんだぞ」と言われて、あ、プロレスの受け身を畳ですればいいんだ、と思って、帰ってすぐに家から一番近い道場を調べて、翌日入門しました。

――ゴールがプロレスラーになることだから、その間の手段を知ったらすぐ行動に移す。

優宇:柔道を極める気は一ミリもなくて、プロレスの受け身の練習になるから、とりあえず行こうと考えていました。そうしたら、気付いたら高校も推薦をもらえるようになって、インターハイ出て、国体出て、「おっかしいなあ」と思い始めました。私が目指していたのは柔道で勝つことじゃなくて、プロレスの受け身の練習に役立つから柔道をやっていたはずなんだけどな……と思って。

――あれよあれよと、柔道で実績が出てしまった。

優宇:大学の推薦や実業団のオファーはお断りして、違うことをやろうと思って、全然関係のない専門学校に入ったんです。

――周りの人には、自分はプロレスラーになりたいと言っていましたか?

優宇:プロレスラーになりたいから柔道をやっていただけ、というのは、一緒にやっていたメンバーには失礼だし言いにくい部分がありました。専門学校に入ったのを機に、柔道は趣味程度になりました。

――周りから惜しまれたでしょう。

優宇:実は、柔道をやっていた自分がプレッシャーでした。今では打ち解けてこういう話もできるようになったんですけど、本当にやりたいのはプロレスなのに、お父さんとお母さんからしたら、このまま世界大会に出るんじゃないかとか、実業団に入るんじゃないかとか、期待してしまうんです。それがプレッシャーでした。それに、当時の道場の先生や顧問の先生からのプレッシャーがあって、高校二年で不登校になってるんですよ。それを救ってくれたのも木村さんで、「自分のジムに来て格闘技やらない?」ってレスリングを教えてくれて、それがきっかけで格闘技に戻ることができました。肌を触れ合わせて人を投げたりするのはこんなに面白いんだともう一度思い出させてくれたのは、木村さんです。

――体を動かすと気持ちも変わりますね。

優宇:でも道具を使うのは無理なんですよ。球技は全くできなくて、できるのはドッジボールの、それも受ける側だけですね。ボールは取れないんです。自分の体ひとつで人を投げたりするのは好きだし、よく合っていると思います。卓球をやっても、果てしなくボールが飛んでいっちゃうんです、力の加減がわからなくて(笑)

――力は昔から強いほうですか?

優宇:小学校の時は強いと思っていなかったんですけど、柔道をはじめて、中学二年の時にベンチプレスを100kg上げてました。上げるだけですけどね。ファンの人にベンチプレスを趣味にしている人がいて、「それはやばい」と言われました。考えてみれば自分でもやばいなあって思いました……。

――中二の時ですか……。

優宇:朝練の前にベンチプレスをやらなきゃいけなかったんです。懸垂は昼休みにやらなきゃいけなくて、中二の朝、「なんか今日は行ける気がする」と思って、100kgを試してみたんです。全部ウェイトを付けたら100kgで、普段は全部使うことなんてないんだけど、ふざけ半分でやってみたら上がって、「あ、でもこれ下げられないから」って戻してもらった(笑)

――地力が強い人っていますからね。特に引く力や投げる力は。

優宇:プロレスを始めるまでは筋トレをやってなかったんです。筋トレを始めるようになったのは、ここ一年半ぐらいの話で、それまではベンチもちゃんとやらず、全然トレーニングしなかったんですけど、筋肉量はすごくあるんです。

――日本人離れしていますね。いろいろなタイプの選手と試合をして、チャレンジを繰り返していけば、圧倒的に成長できます。

優宇:やりたいことが数えきれないくらいありますね。

<憧れのスーパー宇宙パワー。相手を大切にしながら戦う>

――優宇さんの理想とするレスラー像や、戦ってみたい相手はいますか?

優宇:理想のレスラー像……自分の目標とするのは木村浩一郎さんがどこかにあって。

――スーパー宇宙パワー的な。

優宇:強さの象徴だったんですよね。DDTの強さの象徴で、自分の記憶の中では負けたことがありませんでした。木村さんは総合もやってましたけど、何をとっても強いイメージがあったので、それを目指していた部分がありました。私が6月4日に坂崎さんに負けたというのは、自分の中では大きかったです。無敗を目指していたわけではなかったけど、負けたことで、「今の私は木村さんのようにはなれないんだな」と感じました。

ただ、試合の直後はそう思ったけど、落ち着いてみたら、そもそも、負けた人の悔しさを汲んで、チャンピオンとして戦わなければいけなかったんだと気付きました。勝った時よりも負けたときの方が得るものが多いと言われるけど、その意味は、言葉だけではわかりませんでした。柔道では負けたこともありましたが、プロレスをやっていて、その時の思いが薄れていたかもしれません。プロレスでのひとつの負けが、多くのことを変えてくれました。次に自分がチャンピオンになった時には、悔しさから得たものがたくさんあるので、迎え撃つ相手をもっと大切に、戦ってくれる相手を大切にして戦えると思います。プリンセスカップは優勝するのが最低限の目標で、坂崎さんにリベンジをさせてもらいたいですね。

――立ち直ってチャンピオンになったら、優宇さんは大きく成長できますよ。プロレスは幅があるから、この敗戦を機に、自分自身の幅を振り切ってほしいです。

優宇:周りの人はどう思っているかわからないけど、今の私はそのチャンスを与えられていると思います。ベルトは強さの象徴ではありますけど、「ベルトを持っているから、チャンピオンだから、強い」というのが、自分のそばについてきます。ベルトがなくなったのも、逆にチャンスと考えたいです。チャンピオンとしての強さではなく、「チャンピオンじゃないけど強い」、素の強さを見せたいです。「プロレスラーの優宇ってめちゃくちゃ強いじゃん」と思わせたいんです。初めての人は、チャンピオンベルトを持っている坂崎さんが一番強いんだと思うでしょう。試合を見ないで、並んでいる写真を見たときにはそう思うはず。だけど一つの興行として見たときに、前チャンピオンとは知らなくても、「優宇って、強い」と見せるチャンスです。

――アンドレ・ザ・ジャイアントは、ベルトを巻かなくても「無冠の帝王」として評判が高かった。優宇さんの強さそのものに憧れて入ってくる子が増えるように、東京女子プロレスの中での優宇というスタイルに磨きをかけていってほしいです。ちなみに、女子プロレスでは尊敬する人はいますか?

優宇:実は、里村明衣子さんが大好きなんです。だから、(3月20日・DDTの)さいたまスーパーアリーナで、すごく悔しかったんです。あの場に立てるのは私じゃないとわかっていたけど、なんであの場に私が立てなかったのかと、自分に対して悔しいんです。自分がプロレスラーとして成長していて、周りの人から認められていたらあの場に立てたかもしれないと考えると、もっと急速に成長できたらよかったのに、と考えてしまうんです。いつか里村さんとも肌を合わせてみたいし、橋本千紘さんとも戦いたいですね。

――今は熟成期間です。もうちょっと頑張って、周りをにぎわせるようになったら……。そのためにも、プリンセスカップが楽しみですね。

優宇:私も楽しみです。一回戦がシードなので。

――シードなのは前年度チャンピオンだから?

優宇:くじ引きで勝ったんです。運も実力のうちということで。プリンセスカップはシードが三人いるんですけど、7月2日は、シードの滝川あずささんと伊藤麻希さんと3wayマッチです。全然得した感じがしないんですけど(笑) 癖のある二人だし、伊藤さんも東京女子に来てくれてありがとうって気持ちでいっぱいです。

――東京女子プロレスはどうですか? 従来の女子プロレスと毛色が少し違うのかなとは思いますが。

優宇:すっごい楽しいです! うちの団体は仲がいいんですよ。ほんとに?って逆に心配されるんですけど(笑) 信頼関係が築かれていると思います。わだかまりもないので、試合をしているときに気持ちいいです。

――信頼関係がないとプロレスは成り立たないから、相手のことを思いやりながら戦うことは大切ですよね。

< #東京女子プロレス後楽園大作戦 >

――さて、8.26の後楽園ホールのカードは……

優宇:まだ決まってないんです。

――ビッグマッチなので、ここで主役を張るかどうかがポイントですね。

優宇:東京女子自体、後楽園ホールをやるのは三回目なんです。第一回目は私のデビュー戦で、その時は第一試合でデビューしました。今回一月四日の二回目のときには、メインで中島さんと防衛戦をやったんですけど、三回目ということで、メインをやりたいですね。

――メインは、ほかの試合とは違いますか?

優宇:第一試合の大切さというのも凄くあるんですけど……

――第一試合はプレッシャーがありますね。盛り上げないといけないし。

優宇:デビュー戦の時はそういうプレッシャーはなかったんですよ。今考えたら、お客さんを温めなければいけない、第一試合のプレッシャーは凄いですよね。はじめてプロレスを見に来るお客さんは、心の中で準備運動できないまま第一試合を迎えるわけで、第一試合のプロレスが、人生最初のプロレスになるわけだから、第一試合ってすごく大事だと思います。もちろんメインはメインですごく大切。

――各試合それぞれで役割がちょっとずつ違いますけど、8.26の後楽園ホール大会はメインで、お客さんを満足させる試合をして、ファンを増やしたいですね。

優宇:王子大会後に、宣伝として「#東京女子プロレス後楽園大作戦」という企画を始めて、各チームに分かれて、秋葉原・吉祥寺・池袋周辺にポスターを貼らせてもらったんです。私は秋葉原周辺担当だったんですけど、王子から近かったので後楽園も回ったんです。場所柄なのか、この町はプロレスラーに温かい街だなあと思って(笑)

――ほかの団体もポスターを貼ってますからね。

優宇:ポスターを持っていると「周りにポスター貼ってるの?貼るよ!」って言ってくれたり、飲み屋のキャッチの人にも、そもそも三禁(酒・タバコ・男禁止)で時間制限もあるので、「今日はご飯を食べられないんですけど、今度食べに来るから、ポスター貼らせてもらいませんか?」ってお願いしたら、「え、プロレスラーなの? 今、俺鍛えてるから、腕相撲させてよ」って言われて。「私が勝ったらポスターもう一枚貼らせてもらいます」と約束してもらって、秒殺しました(笑) 入口の一番目立つ場所と、トイレにも張らせてもらいましたね。

――営業活動もプロレスラーとしての幅を広げる活動ですね。応援してくれるファンがいるから自分がいると感じられることでしょう。

優宇:四時間くらいかけて、どのチームが一番ポスターを貼れるか競走したんですけど、途中からは競争を忘れて、ポスターを貼ってくれたり、応援してもらうのがただ嬉しくて、自分の足で歩くことの大切さを学びました。

――東京女子プロレスはまだまだのびしろがたくさんある団体だと思います。努力が形になり、みんなの個性が際立つようになるといいですね。

(撮影:二瓶隆弘)

 

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