ゴンドラで東京ドームを一周 ファンに感謝を伝えた棚橋弘至は26年のレスラー人生を締めくくり「疲れた」
「エース」棚橋弘至の引退試合(1月4日)は東京ドームに4万6,913人(超満員札止め)の大観衆が見守る中でゴング。26年間のレスラー人生の締めくくりに、棚橋はメインイベントで仇敵オカダ・カズチカとの一戦に臨んだ。

ハイフライフロー、スリングブレイド、ドラゴンスープレックス、ドラゴンスクリューなど、ファンを熱狂させてきた得意技を爆発させ、掟破りのレインメーカーも繰り出すなど、全盛期のオカダとのタイトルマッチを思い出させる攻防を展開。33分3秒の激闘の末に敗れたが、ファイナルマッチとは思えない熱いファイトで大歓声を集めた。

引退セレモニーでは、かつての宿敵にレジェンドの先輩・藤波辰爾、武藤敬司らが顔を揃える中、最後に昨年、新日本プロレスを退団し、ノアの1・1決戦に出場したばかりの内藤哲也も登場。「誰が来るかは聞いてなかった。泣かせにきているな」と振り返っている。

その後、エアギターを披露し「ウェーブやりましょう」と呼びかけた。外野席も開放し座席がすべて埋まっているからこそできるイベントに、棚橋は感無量だった。


10カウント後にはヤングライオンたちが操る特製のゴンドラでアリーナを一周。プロレスラーの引退では珍しく、まるでアイドルのコンサートのフィナーレの様だ。動画撮影もOKで、これまで応援してくれたファンに、少しでも近づき感謝の気持ちを伝えていた。
最後は「愛してまーす」と叫び、電飾きらめくスモークにつつまれライオンマークに消えていった。

この日も「ありがとう」と繰り返していたが、ファンはもちろん選手、スタッフ、関係者、そして家族を大切にした男だった。
中でもファンサービスを誰よりも心掛けていた。新日本が2010年前後にV字回復した一番の原動力が棚橋の草の根運動だった。
応援してくれる一人ひとりの顔、名前は元より状況を覚える天才だった。「受験どうだった?」「おばあちゃん、元気になった?」「彼とはどう?」「(部活の)大会の結果は?」…声掛けは驚くほど細やかだった。

持って生まれた記憶力も素晴らしいのだろうが、何よりもファンを大切に思う気持ちがあるからだろう。
酒席でも見事だった。ゲストが棚橋となると参加者も膨れ上がる。20を超えるテーブルが並んだ会場。当初は案内されていたが、いつの間にか自らテーブルを移動している。時間配分を考慮しながら皆さんと握手し言葉を交わす。
何とその宴席には、大日本プロレスのアブドーラ・小林も参加していた。「疲れていません」と明言する棚橋に対して小林は「俺は疲れています」と苦笑い。それでも2人は「愛してまーす」と笑顔の共演。出席者全員が満足してくれた。

若手選手への気配り、教育もさりげなくしていた。他団体の大会についてきた若手選手に「ファンの声に耳を傾けろ。うち(新日本)のファンとは違う見方をしているかも」「選手の皆さんに挨拶しろ。若手同士、練習方法や悩みなど聞いてみたら」…ここぞとばかり個別指導していた。
以前、若手記者が不慮の事故で亡くなった時にも、コンディションが悪いのに律儀に葬儀にかけつけた。足を引きずりながらも焼香。同じく参列していた故・西村修さんが「具合悪そうだけど大丈夫なの?」と声をかけたところ「最後のお別れだから」とキッパリ。ご遺族も「わざわざ来ていただいて」と感謝しきりだった。

女子アナウンサー目指して就活中の娘さんが、まだ小学生だっただろうか。テレビ朝日の野上慎平アナと八木麻紗子アナの結婚披露パーティーに連れて来ていた。棚橋の膝に乗って甘える娘さんと、優しく面倒を見るパパのほほえましい光景に、こちらまで和んだことを今でも鮮明に思い出す。娘さんの女子アナへの憧れは、この時が原点ではなかろうか。
学生バンドでギターを担当する息子さんの話にも棚橋のほほは緩む。「ボクはエアだけど、息子は本当に演奏する。一度、ボクのエアと息子のギターと共演したい」と、今後の夢のひとつにあげている。

常に人との絆を大切にしてきたが、社長レスラーになってからは、トップの人たちとの交流する機会が増えたという。時には銀座飲みで「社長さんとのちょっとくだけた会話では、ハッとさせられることも多い」と新たな刺激を受けている。
磨きあげられたボディは節制の賜物だった。中華レストランでランチを共にしたときのコト。飲茶には手を伸ばさない。麺は半分にし、メイン料理も「どうぞ」と、こちらに半分ほど分けてくれる。杏仁豆腐もスッとこちらに移動させた。「フレンチトーストをお腹いっぱい食べるのも夢のひとつ」と苦笑していた。
これからも節制とは無縁とはいかないだろうが、フレンチトーストなど好物を好きなだけ口にしてほしい。

社長レスラーからレスラーが外れ、社長業にこれまで以上に勤しむことになる。正直、社長レスラーの時には周りのサポートに頼っていたはずだが、今後はそうはいかない。エース・棚橋弘至がいない新日本をフロントとしてけん引していくのは簡単なことではないだろう。
1・4東京ドーム大会では「五輪金メダリスト」ウルフアロンがデビュー戦で、いきなりNEVER無差別級王者に輝き、IWGP世界ヘビー級王座を「生え抜き」辻陽太が奪取。長期欠場していたジェイク・リーが復帰など、いくつか新たな光も灯ったが、決して平坦な道ではないだろう。
試合後には「今言っとかないと、一生言えないかも。『あぁ、疲れた』」と大きな声で告白。2012年から14年間ストックしてきた「あぁ、疲れた」には実感がこもっていた。
「疲れた」と口にするのはこの日限りだろう。持ち前のポジティブな生き方で、これからもハードルを越えていくはず。エースレスラーのオーラから経営者の貫禄を身にまとった棚橋社長に「大変ですね。疲れていませんか?」と、これまで通り顔を合わすたびに聞いてみたい。

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