【大日本】「半分死んでいた魂が蘇生した」山下りなが血を流す理由。王者の分厚い壁に挑むデスマッチアマゾネスが見据える未知の景色
大日本プロレスの至宝、BJW認定デスマッチヘビー級王座への史上初の女性挑戦者となった山下りな。
【前編】では、王者アブドーラ・小林の強烈な拒絶を「歴史の授業」として受け止め、己のルーツである「後楽園ホールのレモンサワー」を武器に挑戦権を掴み取るまでの軌跡を語った。
続く【後編】では、彼女がなぜ自らの肉体を切り裂くデスマッチに身を投じるのか、その奥底にある衝撃的な原体験が明かされる。
さらに、「女性初」という言葉に対する独自の視点、そして迫り来る7月31日の決戦に向けてのメンタルコントロールなど、デスマッチアマゾネスの揺るぎない覚悟と哲学を深く掘り下げていく。
■ 痛みが真っ黒な感情を上書きした。デスマッチに救われた人生

©大日本プロレス
―― そもそも、山下選手にとって「デスマッチ」とは何なのでしょうか。蛍光灯やガラスで体を切り裂かれ、普通なら逃げ出したくなるような痛みを伴う闘いに、なぜそこまで惹きつけられるのでしょうか。
山下: 私だって、痛いのは好きじゃないですよ。画鋲なんて最悪だし、蛍光灯もガラスも本当に痛いです。でも、喉元過ぎればじゃないですけど、試合が終わったら「あー痛かったね!」って笑って終われる。なぜそこまでやるのかと言われれば、もちろん「好きだから、楽しいから」というのが一番ですが……実は、それ以上の理由があるんです。
―― それは、どのような理由でしょうか?
山下: 私がデスマッチをやり始めた年、自分のプライベートな人生において本当に色々な辛いことが重なって、魂が半分死んでいるような状態だったんです。「もう人生、どうでもいいや」と自暴自棄になっていて。 そんな真っ暗な時期に、ダブプロレスでグンソから「俺とシングルしようか」と声をかけられて、初めてハードコアかデスマッチのような試合をしたんです。
―― 初めてのデスマッチの感触は?
山下: あまりの痛さに、大泣きしちゃうくらい痛かったんですけど……でも、何か、自分の中でドロドロに滞っていた真っ黒な感情や苦しみが、その強烈な「物理的な痛み」によって一気に上書きされたんです。

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―― 痛みが、心の傷を上書きしたと。
山下: はい。物理的な痛みが突き抜けた瞬間に、「あ、私、生きるぞ」って。「もうどうでもいいや」じゃなくて、「もう知らねえ、生きるしかねえ!」って、心の底から腹を括れたんです。身近な人に色々なことがあって半分死にかけていた魂が、デスマッチの衝撃によって無理やり蘇生させられた感覚でした。 だから、デスマッチは私の「居場所」であり、私の人生を根本から変えてくれた、なくてはならないものなんです。
―― デスマッチに命を救われた経験があるからこそ、今の山下選手のファイトは見る者の心を強く打つのですね。
山下: 私がデスマッチをして「生きるぞ」と腹を括れたように、私のデスマッチを見た人が「明日も頑張ろう」と思ってくれたら、それが一番嬉しいですね。 プロレスって、デスマッチも含めてレスラーの「生き様」そのものなんです。痛みに耐えて立ち上がる姿を見て、非日常の空間でストレスを発散して、「あの人があんなに頑張っているんだから、俺も私も頑張ろう」と思ってもらえる。それがプロレスの最高の魅力だと思っています。
■ 「女の得」を使いこなす強かさと、背負うべき歴史の重み

―― 今回の王座挑戦にあたり、世間やマスコミは「女性初」という言葉に大きく注目しています。ご自身ではこの「女性初」という肩書きをどう捉えていますか?
山下: 「女性初」という肩書きは、個人的には全然嫌じゃないですし、事実ですからね。もし私が勝ったら、大日本の歴史に違う1ページが刻まれて、今まで見たことのない景色が見られるかもしれない。お客さんにとっても、それってすごくワクワクすることじゃないですか。 ぶっちゃけ、「女であることがプラスに働いて良かったな」と素直に思うことはたくさんあるんです。アメリカのGCWでウルトラバイオレントのベルトを獲った時も、トーナメントで優勝した時も、「女性初」でした。男の世界だと思われていた場所で女が頂点に立つと、お客さんは「今まで見たことないものを見た!」と大喜びしてくれるんです。

―― 同じ土俵で闘う上での、女性としてのハンデは感じませんか?
山下: 同じ土俵なら、身体能力や筋力は圧倒的に男の方が強いに決まっています。でも、うまく立ち回れば、有利で「得」なのは女の方なんですよ。だから私は、その「得」な部分はありがたく使わせてもらっています。 ただ、もちろんそれだけで大日本のリングに上がれるわけじゃありません。私は大日本プロレスの歴史をリスペクトしていますし、小林さんたちの築き上げてきたものを壊したいわけじゃない。
―― あくまで歴史へのリスペクトがあると。
山下: でも、もう大日本のリングに上がって、デスマッチをやって、小林さんとタイトルマッチをやることが決まった以上、私が歴史にリスペクトを持っているかどうかに関わらず、もう「歴史は動いてしまっている」んですよ。 大日本の歴史の教科書には、「山下りな」という名前がすでに赤ペンで引かれるレベルで刻み込まれているんです。だから、歴史を尊重するからといって途中で遠慮して引くなんて、それこそダサいじゃないですか。大日本の歴史に入り込んだからには、最後までやり通す。ベルトを獲る。それが私の責任だと思っています。














