【大日本】「俺だから開けられる扉がある」王者アブドーラ・小林が山下りなの挑戦を受諾した“葛藤”と“本能”

【前編】では、今年で50歳を迎えた第54代王者アブドーラ・小林に、転換期を迎えるデスマッチ界における自身の現在地と、次世代へ向けた独自の「深掘り」哲学を語ってもらった。

続くこの【後編】で迫るのは、いよいよ7月31日に迫った大日本プロレス後楽園ホール大会での歴史的大一番についてだ。

BJW認定デスマッチヘビー級選手権試合の挑戦者に名乗りを上げたのは、“デスマッチアマゾネス”こと女子プロレスラーの山下りな。

四半世紀以上、血と汗で守り抜かれてきた「男塾」の神聖なリングにおいて、女子選手が至宝に挑戦するのは史上初の出来事となる。

当初、この異例の挑戦に対し強烈な「でかいNO」を突きつけていた王者アブドーラ・小林。

なぜ彼はその門前払いを撤回し、彼女を挑戦者として迎え入れる決断を下したのか。

そこには「チャンピオン」としての重圧と、「一人のプロレスラー」としての本能の間で揺れ動く知られざる葛藤があった。

天下分け目の決戦を前に、王者が明かす迎撃への覚悟と“未知の景色”へのアンサーをお届けする。

 

■ チャンピオンとしての重圧と「でかいNO」に込めた真意

――7月31日の後楽園ホール大会、山下りな選手との歴史的タイトルマッチについて伺います。まず、山下選手が挑戦表明をした際、小林選手は最初「でかいNO」を突きつけました。山下選手自身はそれに反発するどころか「大日本の歴史の授業だった」と素直に受け止めていたようですが、あの門前払いの真意はどこにあったのでしょうか?

小林:山下がそんなこと言ってたんだな(笑)。正直なところ、俺が「一人のレスラー、アブドーラ・小林」だったら、NOとは言わなかったかもしれない。でも、今の俺はチャンピオン、アブドーラ・小林じゃないですか。俺のテリトリー(王座)に女子が入ってきたら、それはどうなんだ?っていう話ですよ。ケンドー・ナガサキが女子とやるか? ブッチャーが女子とやるか?って話です。(グレート)小鹿さんは女子とやってましたけどね(笑)。でも、先人たちの思いを引き継いでいるチャンピオンとしての自分の背中が、NOと言わざるを得なかったんです。


©大日本プロレス

――歴史の重みと、王者としての責任がブレーキをかけたと。

小林:そうですね。松永(光弘)さんも女子とはやんねーよなって考えたら、NOは言わなきゃいけない。でも一方で、一レスラーとしては、井上京子さんと組んで自主興行みたいな大会で戦っているわけです。アブドーラ・小林としては本当はYESなんですよ。でも、そこに「チャンピオン」という肩書きがつくと、どうしても変なブレーキがかかってしまった。プロレスが闘いである以上、体格差があるわけだし、接触系の格闘競技で男女混合のタイトル戦なんて普通はないじゃないですか。だからこそ、最初はNOと言わざるを得ませんでした。

 

■ 王者を投げきった底力と、「女子だから」と断る自分への葛藤

――しかし、そこから幾度となく山下選手がアピールを続け、最終的には後楽園大会で挑戦を認める発言をされました。王者として、彼女の何が心を動かしたのでしょうか?

小林:一番は、彼女がリングでしっかりと盛り上げていたことですよね。レモンサワーを持ち込んできたり、去年の年末のトーナメントではMASADAと組んで優勝もしている。今年に入っても大日本の後楽園でフォール負けなし。実績は十分すぎるんです。でも……「実績は十分、だけど女子だから」と言って断っている自分が、なんだか嫌になってきちゃって。「チャンピオンのアブドーラ・小林、めんどくせえな」と、自分自身に対して葛藤があったんです。

――王者としての自分より、一レスラーとしての本能が上回ったと。

小林:だって山下、普通に面白いですからね! 海外のGCWウルトラバイオレントのチャンピオンにもなって、FREEDOMSでもタッグ王者になっている。それだけの実績があって、大日本で負けなしとなれば、やるしかないんですよ。リングの上で一番目立つし、ファンを惹きつける共感力も強い。そういう面で、俺と似てる部分があるのもちょっとムカつくんですけどね(笑)。売店の列も明らかに山下の方が長いし! そういうところも意識してます。


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――先ほど山下選手が小林選手からの厳しい言葉を「大日本の歴史の授業だった」と表現したという話をしましたが。

小林:彼女からは「授業」だったんだな。俺からしたら、あれは「デスマッチ王座の面接」だったんですよ。「なんでお前(生徒)、俺より先に座って待ってんだ」って思ってましたからね(笑)。やっていることは一緒でも、認識の違いがあったのは面白いですね。

――もう一つ、山下選手を認めた決定的な理由として、リング上でのある出来事があったと伺っています。

小林:5月か6月頃の初顔合わせのタッグマッチだったかな。彼女、俺をボディスラムで投げきったんですよ。あれを食らってから、実は試合後のマイクでは絡んでるけど、試合中はどうしても接触をあんまりしないように意識しちゃってました。マスコミの写真を見ても、対峙して喋ってる写真ばかりで、俺が技をかけてる写真なんて限りなくゼロに近い。


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――それほどまでに、山下選手の底力に脅威を感じたということですか。

小林:心からそう感じました。「こいつ、力あるよ。ヤバいぞ」って。俺を投げきれるだけの体幹がある。下手に絡めねえぞ、というプロレスラーとしての危機感を覚えましたね。もしかしたら、その一瞬の迷いや危機感が、最初の「NO」に繋がっていた部分もあったのかもしれません。楽しいプロレスなら何回でもやるけど、勝ち負けの世界で、あの力を見せつけられたらハッとしますよ。

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