「入江茂弘はまだ生きてる」渡瀬瑞基との頂上決戦で世間に突きつける“現在進行形”の生き様—8.15後楽園、2人の男が紡ぐ物語
プロレスラー・入江茂弘の歩む道は、常に道なき道であった。
日本国内のメジャー・インディーを問わず暴れ回り、さらには海を渡って欧州、北米と世界を股にかけ、名だたる猛者たちと肉体を削り合ってきた。
2023年にはドイツ・wXw(ウエストサイド・エクストリーム・レスリング)の過酷なトーナメント『16 Carat Gold』で日本人2人目となる優勝を飾るなど、その実力はまさに世界基準である。
しかし、フリーランスとして我が道を往くその足跡は、時に日本のファン、とりわけ東京を中心としたプロレスシーンからは見えにくくなる瞬間があった。
「昔はよく見ていました」「まだプロレスやってたんですね」
SNS等で散見される心無い、あるいは無邪気な言葉たち。その一言一言が、不器用にプロレスとだけ向き合ってきた男の胸を密かにえぐっていた。
そんな入江を、熱烈なラブコールと共にリングのど真ん中へ引っ張り出した男がいる。
ガンバレ☆プロレスの王者であり、スピリット・オブ・ガンバレ(SOG)世界無差別級チャンピオン、渡瀬瑞基である。
かつてDDTプロレスリング時代、入江の後ろを必死に追いかけていた後輩。公私共に深い時間を共有し、エルボーの打ち方を手取り足取り教えた“後輩”からの、まさかの逆指名。
2026年8月15日、ガンバレ☆プロレス東京・後楽園ホール大会。真夏の聖地で行われるメインイベントを前に、挑戦者・入江茂弘は何を思い、どんな覚悟を胸にリングへ上がるのか。
そこには、先輩と後輩の関係という安易な言葉では片付けられない、2人の男の「生き様」の交錯があった。
「まだまだ生きてるって生き様を見せつけてやる」——現在進行形の入江茂弘を証明する場所

――いよいよ8月15日、ガンバレ☆プロレスの後楽園ホール大会が目前に迫ってきました。今回は渡瀬瑞基選手の持つSOG世界無差別級王座への挑戦となります。現在フリーランスとして世界で闘う入江選手にとって、この一戦に懸ける思いをまずは聞かせてください。
入江:今、こうしてフリーランスのプロレスラーとしてやっていて……やっぱり、後楽園ホールという大きな会場のメインイベントで試合をする回数って、昔と比べると減ってきているんです。「入江茂弘」という存在は、東京の団体にあまり出なくなってしまったことで、一部のファンの中では「知られていない存在」になりつつあるんじゃないか。そんな危機感がありました。
だからこそ、ここで後楽園ホールのメインに立ち、チャンピオンである渡瀬とものすごい試合をして、ベルトを奪う。そして「入江茂弘はまだまだ最前線でやれるんだぞ」「メインイベンターなんだぞ」というのを、もう一度しっかり見せつけたい。その気持ちは非常に強いですね。
――先日、渡瀬選手からの指名を受けた際、「まだまだ生きてるって生き様を見せつけてやる」と非常に力強く語られていました。あの言葉の奥底には、どんな真意が込められていたのでしょうか?
入江:あれはもう、飾らない生の感情がそのまま口から出た言葉です。団体によっては、僕がリングに上がった時に「あっ、入江ってまだプロレスやってたんだ」みたいな空気になることがあるんですよ。プロレスを深く追ってくれている人なら、僕が海外や色々な団体で闘っていることを知ってくれているかもしれない。でも、特定の団体しか見ていない人たちの目には、今の僕は入っていない。無料の動画配信のコメント欄とかで、「久しぶりに見た」「まだやってたんだ」という言葉を見るたびに、ものすごく悔しい気持ちになるんです。
――「まだやってる」どころか、第一線で激闘を繰り広げている自負があるからこそですね。
入江:ええ。「まだやってた」どころか、僕はプロレスだけでずっと生きているんです。プロレスだけで生活をしている。そういうのも全部含めた上で、「俺はプロレスで生きているんだ、プロレスラーとしての生き様を見せてやる」という強烈な思いがあの言葉になりました。
――「昔は好きだった」「昔はよく見ていた」という声が増えたことへの葛藤も口にされていましたね。
入江:大前提として、「昔好きでした」「昔見てました」と言ってくださる方に対して、悪い感情や怒りがあるわけではないんです。それはちゃんと説明しておきたい。でも、僕は「昔のレスラー」じゃない。過去の遺物じゃない。今、この現在進行形で闘っているんだということを、どうしても分からせたいんです。フリーになって国内の特定の団体に定着していないからこそ、そういう声が増えるのは仕方ないのかもしれない。でも、だからこそ、今回の後楽園は「今の入江茂弘」を焼き付ける絶好の機会だと思っています。
後輩・渡瀬瑞基への誇りと、少しの寂しさ

©ガンバレ☆プロレス
――今回闘う渡瀬選手は、DDT時代の後輩であり、タッグチーム「RENEGADES(レネゲイズ)」のパートナーでもありました。渡瀬選手は入江選手のことを「自分を認めてくれた数少ない恩人だ」と深くリスペクトしています。現在の渡瀬選手の活躍を、入江選手はどう評価していますか?
入江:もう本当に、渡瀬自身が立派だからあそこまでなれたんだと思います。DDTでタッグを組んでいた頃は、世間から見れば「入江のパートナーの渡瀬瑞基」という見え方だったかもしれない。でも今は違いますよね。立派な、一人の確立された「渡瀬瑞基」としてメインイベントを張っている。僕には絶対にできないような過酷なデスマッチもやっているし、他団体でも実績を残している。それは全部、あいつの努力の賜物です。
――頼もしく成長した後輩の姿を見るのは嬉しい反面、複雑な感情もあるのでしょうか。
入江:そうですね……感情として正直に言うなら、僕の元から育ち切って、巣立っていってしまったという「少しの寂しさ」みたいなものはあります。あいつが強くなればなるほど、僕の手を離れていくわけですから。
――渡瀬選手に話を伺った際、お二人が仲良くなったきっかけは「ディズニー」だったと聞きました。
入江:そうなんです(笑)。僕もディズニーが大好きで、ある時渡瀬とディズニーの話になったんです。「何の作品が一番好きなの?」って聞いたら、あいつが『きつねと猟犬』っていう、かなりマニアックな作品を答えて。王道の作品じゃなくてそこを突いてきたことで、「こいつは本物や!」って思わずガッチリ握手したんです(笑)。
――そこから、プロレスの深い話をするようになったのですね。
入江:家も近所だったんで、あいつがプロレスで悩んでいる時とか、毎日のように僕の家に来てましたね。本当に毎日です(笑)。
――毎日ですか! お二人の絆の深さが伺えます。何か特に印象に残っているエピソードはありますか?
入江:僕が2023年にドイツのwXwという団体で『16 Carat Gold』というトーナメントで優勝した時のことです。その後、レッスルマニアウィークに合わせてドイツからアメリカへ飛ぶ予定があったんですが、渡瀬が「俺もアメリカに行きます!」って言ってくれて。それで、現地で落ち合う約束をしていたんですけど、その時期がちょうど僕の誕生日だったんです。そしたら渡瀬が「カリフォルニアのディズニーランドのチケットを用意しました! 一緒に行きましょう!」って。
――誕生日にアメリカのディズニーへ招待。最高のサプライズですね。
入江:本当に可愛い後輩ですよね。でもね、あいつ、ディズニーのチケットだけは用意してたんですけど、自分がアメリカで滞在するホテルとかは全く何も用意してなかったんですよ(笑)。
結局、慌てて僕が泊まれる場所を探して一緒に泊まったり、僕が海外の団体にお願いしてホテルの部屋を2人部屋に変えてもらって、そこに渡瀬を入れたりして……。後先考えずに直感で来ちゃうあたりが、本当にあいつらしいというか。
――入江選手の喜ぶ顔が見たい一心で、チケットだけ握りしめてアメリカへ飛んできたのですね(笑)。それだけ渡瀬選手にとって、入江選手はかけがえのない存在だということなんですね。
大谷晋二郎から受け継いだ「プロレスの魂」

――お二人の根底に流れるシンパシーとしてはどんな事が共通しているのでしょうか。
入江:僕たち2人に共通している最も大きな出来事は、デビューして間もない一番下っ端の時期に、あの大谷晋二郎選手にめちゃくちゃに叩き潰されたことなんです。でも、一番苦しくて、一番ボロボロにされたその試合が、僕にとっても渡瀬にとっても「一番心に残っている試合」になっているんです。
――大谷選手のどのような部分に、それほどまでの衝撃を受けたのでしょうか。
入江:大谷さんは、僕や渡瀬のような全くの無名の新人相手であっても、一切手を抜かず、全力で向かい合ってくれたんです。圧倒的な熱量で。プロレスの「痛くて、苦しくて、でもその先にはとてつもなく楽しい、幸せなことが待っている」という真髄を教えてもらった。試合中に僕の中の「闘志」を力ずくで引き出してくれたのは、間違いなく大谷さんでした。
――渡瀬選手も、その熱を大谷選手から受け取ったのですね。
入江:渡瀬も血気盛んになって、大谷さんにめちゃくちゃ向かっていってましたからね。あの時の経験、あの時の大谷さんから受け取った熱があるからこそ、僕と渡瀬は言葉を多く交わさなくても深く通じ合えたんだと思います。
V4王者の逆指名、そして交錯する「物語」

©ガンバレ☆プロレス
――そんな愛弟子であり、深い絆で結ばれた渡瀬選手がチャンピオンとなり、防衛戦の相手として入江選手を逆指名しました。指名された瞬間の率直な気持ちはいかがでしたか?
入江:純粋に嬉しかったという気持ちはもちろんあります。でもそれと同時に、僕の中では「焦り」もありました。
――焦り、ですか。
入江:はい。「今の入江茂弘が、渡瀬が想像している、期待している『入江茂弘』じゃなかったらどうしよう」という不安です。さっき言ったドイツのトーナメントで優勝した頃や、フリーになった直後のギラギラ燃えていた時期と比べて、今の自分はどうなのか。試合数もものすごく多くて、正直、体に不調が出ている部分もある。そんな状態で、あの頃の渡瀬が見上げていた「強くてデカい入江茂弘」をお見せできなかったらどうしよう……というプレッシャーは感じました。
――しかし、渡瀬選手は現在の入江選手を心底リスペクトしています。「俺は見なくていいから、入江茂弘の凄さをみんなに見てほしい」とまで語っていました。
入江:そう言ってくれるのは本当に嬉しいですね。渡瀬自身が今「黄金期の入り口」だと感じている、最高に充実した状態のあいつと闘えること。これにはものすごく大きな意味があると思っています。僕はDNA(DDTの若手主体のプロジェクト)の頃からあいつの不器用な成長を見てきたし、誰に何を言われても「渡瀬は絶対に化ける」とずっと信じてきました。その信じてきた男と、団体の最高峰のベルトを懸けて闘える。不安な気持ち以上に、やっぱり嬉しい気持ちが強いです。
――渡瀬選手は「タイトルマッチという枠を超えて、ベルト以上に入江茂弘と渡瀬瑞基の『物語』を見せたい」と語っています。入江選手にとって、この試合はどんな物語になりそうでしょうか。
入江:……物語、ですか。難しいですね。これまでの渡瀬との関係、一緒にやってきたこと、いろいろな感情が渦巻いています。でも、もしも今回の試合で、渡瀬のすさまじい成長と、とてつもない強さを肌で感じることができたなら。挑戦者がこんなことを言うのはおかしいかもしれないですが、「負けるなら完敗したい」です。
――完敗したい……。
入江:はい。「渡瀬、お前こんなにすごくなったんだな」って、心の底から思わされたい。もちろん、僕にはプロレスラー・入江茂弘としての強烈なプライドがありますから、絶対に負けるつもりはないし、徹底的に叩き潰しにいきます。でも、人間・入江茂弘としての個人的な感情を言えば、あんなに手のかかった可愛い後輩に、「もう敵わない」と思わされるくらいボコボコにされてみたい。それくらい巨大になった渡瀬を感じてみたいという思いは、心のどこかにありますね。














