【編集長コラム】「桜吹雪とレスラー」

今年の「春季皇居乾通り一般公開」日程が3月24日(土)から4月1日(日)までの9日間と決まった。

桜の開花宣言が待たれるが、桜の季節になると思い出す。都内・世田谷区野毛の新日本プロレス道場は、多摩川のすぐそば。土手には桜が見事に咲き誇る。

今でも会場を走る選手をよく見かけるが、かねてから新日戦士は猪木以下全員が練習メニューに小1時間のランニングを取り入れていた。各自がそれぞれのペースで、多摩川の土手を走る。「ロードワークだ」が合言葉だった。

春には、散った桜の花びらが髪や肩に付くこともあった。何とも風流だが、そのまま道場に帰ると「よし、よし、ずいぶん走り込んで来たな」と先輩からほめられる。

「練習の鬼」と言われた、故・山本小鉄さんは「ロードワークは、スタミナがつくから、必ずやらなきゃダメだ」と厳しく指導していた。

だが、ボクシング映画のように、走る選手の横を自転車で伴走することはなかった。選手全員が一斉にロードワークをする訳ではないので、小鉄さんは道場に残って、リングでの練習を見ていたからだ。

鬼軍曹と恐れられた小鉄さんに、何とか認められたい。そこで、ろくに走らず、桜の花びらだけを大量に体中につけて道場に帰るという不届き者が現れた。

髪の毛や肩が桜の花びらまみれ。意気揚々と「走り込んで来ました!」と報告するも「このバカ!」と、鉄拳制裁が待っていた。

「ずいぶん時間はかかったけれど、汗をかいてないじゃないか! それに息もあがってない。おそらくその辺で桜の木を揺すって、花びらだけいっぱいつけて来たんだろ」。小鉄さんはすべてお見通しだった。

「もう一回、走って来い! その後は、ヒンズースクワット3000回! わかったか」。

へなへなと座り込む若手選手。

「ローマは一日にして成らず」と言うが「ストロングスタイルは一日にして成らず」といったところか。

毎年、春が来れば桜が咲く。「桜咲けども 人 同じからずや」と言うが、新日プロの選手は移り変わっても、多摩川の桜は今年も咲き誇るだろう。さまざまな出来事を見て来た桜の木々は、きっとこれからも選手たちを見守っていく。

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