【編集長コラム】「ニューヨークの帝王」

(写真・伊藤ミチタカ氏)

「ニューヨーク(NY)の帝王」ボブ・バックランドが、17年ぶりに来日。藤波辰爾、長州力らと元気なファイトを披露してくれた。

 

時を同じくして、もう一人のNYの帝王「人間発電所」ブルーノ・サンマルチノさんの訃報が飛び込んできた。82歳だった。

 

日本でサンマルチノさんの死去を知ったバックランドは「リング内ではもちろん、リング外でも素晴らしい人だった」と惜しんだ。

 

(写真・伊藤ミチタカ氏)

 

サンマルチノさんが1960年代、バックランドが1970年代後半から80年代前半にかけ「NYの帝王」として君臨した、ひのき舞台がマジソンスクエアガーデン(MSG)だ。

 

 

サンマルチノさんのベアハッグに、バックランドのアトミック・ドロップに、ニューヨーカーが酔いしれ、幾多の名勝負が繰り広げられたMSG。地下鉄ペンシルベニア駅の上に位置している。

 

日本のファンには、藤波辰巳(当時)が、WWWF(現WWE)ジュニアヘビー級王者カルロス・エストラーダを破り、一気にスターダムに上り詰めた場所として、胸に刻まれている人が多いだろう。

 

MSGのリングに立ちたい」と選手は憧れ、ファンは「一度、MSGに行ってみたい」と夢を語り合ったものだ。

 

大相撲の海外公演の取材やNBANHL観戦で、何度かMSGを訪れたが、残念ながらプロレスでは一度もない。

 

最近ではプロレスの試合が開催されるのは、珍しくなったようだ。15年ほど前、NY観光から帰国した知人の土産話を思い出した。

 

バックステージツアーでは、モハメド・アリが乗った体重計やら、ボクシンググローブ、トロフィー、ガウンなどが目立ち、プロレス関係のものはあまり見かけなかったという。

 

参加者の中に、年配のイタリア系アメリカ人夫婦がいたそうで、当日開催されていた、サーカスの興行に、いささかガッカリしたような表情を浮かべていたそうだ。

 

「どうしてだろう?」と知人は気にかかっていたが、ツアー終了後にMSGの前にあったハンバーガーショップ「ネルソン」に立ち寄った時に、疑問が解決する。

 

先ほどのご夫婦もいて、漏れ聞こえてくる話に「ブルーノ」「スーパースター」「WWWFチャンピオン」「ベアハッグ」などの単語が飛び交っていたのだ。

 

顔立ちからイタリア系と思われるご夫婦は、サンマルチノさんのファンだった。

 

しきりに「ブルーノ、ブルーノ」と言っていたが、彼らにとって「サンマルチノさんは大スターだったに違いない」と、知人はしきりにうなずいていた。

 

実はかつて、某レジェンドレスラーにMSG、ロサンゼルスのオリンピック・オーデトリアム、メキシコのアレナ・メヒコ…世界中の伝説の会場を回る「引退ワールドツアー」計画が持ち上がった。最後は後楽園ホールからの東京ドームで幕を閉じるという壮大なプランだった。

 

ところが、何度か引退を口にしたものの、撤回したので結局、お流れになってしまった。

 

いまだに現役で頑張っている勇姿には嬉しい限りだが、世界を股にかけた引退ツアーも、見てみたかったような気もする。

 

サンマルチノさんの訃報、バックランドの元気な姿に接し、久しぶりに「世界の聖地」MSGを訪れたくなった。

 

(写真・伊藤ミチタカ氏)

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