【編集長インタビュー】「方舟の継承者」丸藤正道がレスラー人生20年を振り返った

「天才レスラー」丸藤正道が初めての自伝「方舟の継承者」(ワニブックス)を出版した。20年のレスラー人生を振り返り、話題を呼んだ「デビュー20周年大会(9・1両国国技館)」への想いも告白。芳林堂書店高田馬場店での出版イベントを前に、自ら丸裸になった一冊を赤裸々に語った。

――待望の「自伝」発売です

丸藤 最高です。もう思い残すことはありません(笑)。1ページ目から最終320ページまで、すべてが俺の人生です。20年のレスラー人生だけではなく「序章」では、プロレス入りまでの18年間も明かしています。1ページも無駄なページはありません。素晴らしい人たちと、大切な時間を共有してきました。じっくりと読んでください。ただ、1ページより前のグラビアの部分は、ちょっとどうかな(笑)。コスチューム以外の私服は、俺の趣味じゃないよ(笑)。シャツもパンツも、私物はひとつもありません。ああいうジャンパー、俺は着たことないよ。湾岸地区のオシャレな場所で撮影したんだけど、正直「ええ、これはないな」と、ごねてしまいました(苦笑)。

――「20周年記念大会『飛翔』」(9月1日、東京・両国国技館)も大成功でした

丸藤 20年・・・デビューした年に生まれた子供が成人式です。自分で燃え尽きてしまわないか、心配でした。リング上も控室も楽しかったし、気持ちよかった。KENTA戦を実現できた過程も、プロローグ「飛翔」で書きました。大会名を「飛翔」にした理由も説明しています。是非とも購入してください。KENTAとの一戦は、色んな意味で懐かしさがこみ上げてきました。

――誰に読んでほしいですか? ご両親ですか?

丸藤 両親は先行販売された9・1両国大会で、買ってくれました。本当はプレゼントしなくては、いけなかったかな。小学生6年生の子供が将来、読んでくれると嬉しいですね。オヤジの生き様を理解してくれると思うと嬉しいです。

――ご家族のことは、ほとんど公開してきませんでしたが、この本には生い立ちとともに、記していますね。奥様は何とおっしゃっていますか?

丸藤 まだ、目を通していないと思います(苦笑)。俺にあまり興味ないみたいだし。会場にも最近は、ほとんど来ません。9・1両国大会は「見てよ」と、呼んだので、久しぶりに観戦してくれました。「面白かったよ」と、言ってくれましたね。

――他の選手は、何かおっしゃっていますか?

丸藤 俺の知っている選手は、本をあまり読みませんからね。読書家は井上雅央さんとタダスケぐらい。二人は仲良しで、移動のバスの中でも読書をしている。他の選手はまず、本を手にしないですからね。

――丸藤選手、ご自身は?

丸藤 俺もあまり(苦笑)。これをきっかけに、本を手に取るようにします。ミリオンセラーを狙いたいですね。プロレス、俺を知らない人が、目を通してくれるように、どんどん発信していきたいです。

――1998年の全日本プロレス入りから、ノア設立・・・世紀末から21世紀のプロレス史を語る上でも、貴重な記録ですね

丸藤 そうですね。今回、執筆するにあたって、色々と思い出しましたが、俺の記憶と客観的な事実を照らし合わせると、ずれていたり、かみ合わないことも多々、ありました。改めて、整理して、自分の人生を振り返ることができましたね。

――常に表舞台にいた印象ですが、意外にも大きなケガに何度も苦しめられていました

丸藤 「ケガの達人」です(苦笑)。ケガをして、毎年のように休む時期もありました。ケガをするのはマイナスだし「プロとして失格」と、悩んだこともあった。ただ、生まれついてのポジティブ野郎なので、前向きにとらえていました。復帰戦で「休む前の自分以上のインパクトを残してやるぞ」と、欠場中もリハビリに取り組みながら、考えていました。実際は、俺の復活を待っていてくれるファンがいたから、戻れたんですけどね。

――「天才と言われるけど、違う」と書いています

丸藤 そんなに派手なことはできないですが、地味なことでも派手に見せることはできるかも。前々から準備できることは、他の人も思いつくかも知れないから、面白くないじゃないですか。ひらめきというか、自然に体が動いていた時に、思わぬ技が誕生することが多いですね。例えば、背後から蹴るトラースキック。鈴木みのる戦で披露したんですが、「正面から顔を蹴ってやる」と狙っていたのに、鈴木みのる選手がなかなか、こっちを向かないから、思わず後ろから蹴ってやったんです。それから、使うようになりました。

――それがひらめきであり、天才じゃないですか。「丸藤正道には背中に目がある」と、解説したことがありますが、体全体の感覚が鋭いですよね

丸藤 「自分のスペース」はありますね。車の運転と一緒ですよ。車体感覚って、あるじゃないですか。「自分の全身にアンテナが張られている」という感覚はあります。死角からの攻撃なんかは、そのアンテナを利用しているのかも。

――レスラー人生20年は長かったですか?

丸藤 過ぎてしまえば、あっという間ですけど、よく体がもってくれました。全身、ボロボロです。20年、やっているうちに、できなくなったことも多い。というか「やる必要がなくなったこと」と、言えるかも知れない。不必要な部分を削って・・・もちろん、20年で、積み上げてきたものもあって「今の丸藤正道」があるんです。

――20年、偉大な先輩たちから、さまざまなことを学んできたと感謝の思いを強調しています。これからは、丸藤さんが、後輩たちのお手本となっていく決意も書かれています

丸藤 俺もやっと熟してきたんですかね(苦笑)。先輩たちがすごい人たちばかりでしたから、少しでもあの方たちに近づいて、後輩たちにつないでいきたいですね。

――全日本プロレス、そしてノア。「王道」スタイルをつないでいくと?

丸藤 「王道」はデカイ人が揃っていました。プロレスラーになったからには、同じステージにあがるわけですから、負けたくはない。でかい人ができないことを目指しています。大きな人たちとは違ったスタイルでやってきましたが、魂をつないでいくのが、俺の役目ですかね。俺は26歳の時に、秋山(準)さんから、GHCヘビー級王座を奪った。今の若い奴らは、若いといっても30歳を超えていたりする。彼らには、時間はそんなにないんです。

――次を狙う選手たちに危機感がないと?

丸藤 危機感は持っていますよ。ただ、危機感の度合いは、環境にもります。我々の時はノアとしても充実の時だったし、環境に恵まれていました。今は、テレビで簡単に見られないとかね。拳王が「(日本)武道館に、お前たち(ファン)を連れて行ってやる」と、発言したことがありましたが、日本武道館のスゴミを知る我々世代は、逆にそんな言葉は安々とは吐けないんです。彼らもスタッフも頑張らないと。もちろん、我々世代もですが。

――プロレスの発信力をアップしていかないと?

丸藤 そういう意味でも、この本も重要ですね。燃え尽き症候群にかかるほど、全精力を傾けたこの一冊ですが、いわば「表の丸藤正道」かも。

――そういえば「丸藤正道」の代名詞「酒」については、ほとんど触れられていませんね

丸藤 ハハ、酒の本でも出しますか。続編は「裏の丸藤正道」「リング外の丸藤正道」がテーマですかね。根っからのポジティブ野郎なんで、ネガティブなことは全くと言っていいいほど、口にはしていません。この本にも辛いことは、かなり抑えて書いたかも知れません。辞める時に続編を書いて「爆弾」を落としますか(笑)。

――今後、チャレンジしたいことは? 路上プロレスや女子選手との対戦にも臨んでいます

丸藤 相手方が「どこまで真剣に取りくんでいるか」ですね。誰とでも闘うわけではないです。気持ちが伝わって来れば、相手の土俵にも乗りますよ。俺の方から仕掛けることは少ないですね。デスマッチは絶対にやりません。同じ会場にデスマッチの残骸が残されていることがある。ガラスや蛍光灯の欠片を見ただけで、ビビる俺がいるんで。こんな俺のレスラー人生すべてをぶちまけました。全部、読んでほしいです。

決して一直線に「方舟の継承者」と呼ばれるようになったわけではない。稀有の才能に恵まれた「天才」が、さまざまなキャリアを重ねて、やっとたどり着いたのだ。あくまで前向きに20年を振りかえる丸藤正道の渾身の一冊。読まずに、どうする。

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