【編集長コラム】「ペイントレスラーの秘密」

世界中のリングでペイントレスラーが活躍している。マスクマン同様、プロレス界の華といえそうだ。

ペイントレスラーの先駆者は、ザ・グレート・カブキ。歌舞伎役者のごとき隈取をしたカブキは、1981年に米ダラス地区に出現した。米マットを恐怖のどん底に叩き落し「東洋の神秘」と恐れられ、1983年に全日本プロレスに逆上陸した凱旋シリーズは、大きな話題となった。

オリエンタルな入場テーマ曲、ヌンチャクのパフォーマンス、毒霧噴射で人気を博したカブキ。引退したが、今でも結婚式やパーティーで披露することも多い。「船木誠勝デビュー33周年記念試合」(9月30日、エディオンアリーナ大阪)でも「一日限定復活」で、その勇姿を披露している。

カブキの「息子」と称して、武藤敬司が化身したザ・グレート・ムタも、これまた大人気を博した。米のプロレス雑誌の表紙を飾り、特集記事が何ページにも渡って掲載された。様々なペイント姿の写真が載っており「ニンジャ」と紹介されていたが、自分で鏡を見ながら書くから「忍者」の漢字が逆になっていたのは、ご愛敬だ。

日本人選手が海外武者修行中にペイントレスラーに変身することも多い。全員が「素顔の時とは別人格になれる」と、口を揃える。

ペイントレスラーで気がかりなのは肌荒れ。「25歳はお肌の曲がり角」と言うが、大丈夫なのだろうか? 「一夜限定復活」したカブキも「ペイントでお肌が荒れちゃう」と茶目っ気たっぷりに笑っていた。 

長年、ペイントをしている井上京子は「私は、肌荒れは全然ない。もう長くしているからペイントは10分もあれば、できあがる。お手入れも自然のままで特に必要なし。メイク落としも市販のものだし、特に大変とか思ったことはない。いつ何時でも、プロレスラー井上京子でありたい」とキッパリ。もはやペイントは、お肌の一部なのかも知れない。

凝ったペイントの沼澤邪鬼は「自分も肌荒れはない。でも、前は水で洗えばきれいになったのに、最近は、水だけでは落ちなくなった。俺も『お肌の曲がり角』なのかな。メイク落としを使っているけど、買いに行くのが恥ずかしい・・・」と照れ笑いだ。

歌舞伎役者は毎日、白塗りをする。ドーランは厚塗りで、汗をかいても崩れない強固なもの。首や手にまで塗ることもあるそうだから、お肌への負担は大変なものだろう。

肌荒れ対策だろうか、歌舞伎役者の間で、アボカドが流行ったことがあるそうだ。市川海老蔵が特に好んで食べているという。「森のバター」と言われるほど栄養があり、美肌効果は抜群なのだとか。沼澤は「え、そうなの。試してみようかな。髪にも効くのかな。生えて来ないかな?」と、興味津々。イヤ、髪への効果は・・・。

化粧は「化けて装う」という意味がある。化粧を「ペイント」と称する人もいる。確かに、ペイントは人格をも変える。普段は優しくて温和な沼澤がペイントをすると、途端に狂気を帯びる。古来、化粧は儀式的な役割を担って来ており、ペイントは闘う儀式なのかも知れない。

友人の文化人類学者に聞いたところ「化粧とは主に顔に色彩、光沢をほどこすことだが、広義にはボディペイントなどの身体装飾、抜歯や入れ墨などの身体変工を含めた装身行為をさす」そうだ。「プロレスラーと化粧」。意外にも、深くつながっていた。

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