ゴシックパンクでサブミッション 古沢稀杏は「スターダムにいないタイプ」のスターダム

 同期では柔道経験者の浜辺が突出していた。練習開始から約半年でデビューが決まったのだ。年が明けて1月には鉄、姫が連日のデビュー戦をおこない、3月には金屋が地元・沖縄で凱旋デビューという異例の初マットを踏んだ。そして浜辺から半年後の5月に儛島がAZM、古沢が羽南の胸を借り、プロレスラーとしての産声を上げたのである。

「纏がほかの誰よりも早くリングに上がって、同期が次々とデビューしていきました。正直、悔しかったですね。纏には柔道があるけど、私には何もない。わかってはいるんですけど、同時期に入っただけに、すごく悔しい思いがありました」

 自分には何があるのだろう? 自問自答を繰り返すうちに、彼女にはあるスタイルが思い浮かんだ。それは、新日本で活躍するザック・セイバーJrのような複雑なサブミッションホールドを武器とするスタイルだ。


©STARDOM

「みんなと一緒に練習しながらも、そのときからすでに悩んでいたんですよね。自分の細い体で何ができるのかなって。練習生にはなったけど、具体的にどんなレスラーになりたいかとまでは見えていなかったんです。ただ漠然としたまま練習していて。そんな頃にテレビで見ていたザックさんのスタイルを思い出して、たくさん練習したらできるようになるかもって。そう思って、ザックさんの技を参考にしたいと考えるようになりました」

 同期の合同練習に加え、ザックをモチーフとしたスタイルの研究、練習にも別枠で多くの時間を割いた。ザックのスタイルは、地元イギリスに古くから伝わるランカシャースタイルのプロレスだ。得意技の名称にジム・ブレイクスというレジェンドレスラーの名前を冠しているように、あらゆる入り方から関節を極める技がイギリスマットから数多く生まれた。ブレイクスを筆頭に、ジョージ・キッド、スティーブ・グレイ、90年台半ばに50歳代で初来日し多くの現役レスラーが信奉者となったジョニー・セイントらがこのスタイルの全盛を担ってきた。そしてザックは、ランカシャースタイルの伝統を受け継ぐひとり。もちろんリアルタイムではないけれど、そのザックからインスパイアされデビュー前から取り入れようとしたのが、21歳の古沢ということになる。


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「スターダムにはいろんな選手がいるので、埋もれないためにも、ほかとはちょっと違うことをしたかったんです」

 何もないから何かしないといけないと考えた。彼女にとっては50年以上も前に海外で主流だったスタイルが新鮮に映った。しかもそれをデビュー戦からトライ。丸め込みと見せかけてのヒザ十字固め、飛びついての変型卍固めなど。極めた形だけでなく、入り方からしてユニーク。確かに、スターダムにはいないタイプのレスラーだ。

「見ていただいたみなさんの反応がすごくよくて、練習してきてよかったなと思いました。でももちろんまだまだなので、もっともっとがんばって練習して、うまくなっていきたいと思います」

 デビュー戦から特徴づけを成功させた古沢。しかしながら、勝利という結果はなかなかついてはこなかった。同日デビューで先に白星を挙げたのは儛島の方。記録上の初勝利は試合中に相手が負傷したことによるレフェリーストップで不本意なものとなってしまったが、それから3カ月後の10・17大阪で儛島が自力初勝利。しかもその白星を献上してしまったのが古沢だったから、とてつもない悔しさが敗者に押し寄せた。

「あのときは、悔しいという言葉では収まりきらないくらいに悔しかったです。自分に足りないものは何なのか、すごく考え込みましたね」


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 そして2週間後の10・30神田明神で再戦がおこなわれ、こんどは古沢がギブアップ勝ち。同期へのリベンジが、待望の自力初勝利にもなったのである。フィニッシュは、クロスレッグ式のアンクルホールド。常用しているアンクルの入り方にもうひとつのバリエーションを加え、さらに複雑に固めて締め上げた。絶対にこれで勝つ!そんな思いが伝わってくるフィニッシュだった。

「折ってやるくらいの気持ちでがんばりました。うれしいです!」と喜びを爆発させた古沢。だが、うれしい時間はここまで。儛島には1勝1敗1引き分け。儛島もまた、古沢から勝利の先にはまだ進めていない。ここで2人のライバルが並んだ格好で、今後どちらが飛び出すのか。ライバル闘争はここからが本番だ。

「エマにやり返したぞという気持ちはあるんですけど、ここからエマよりももう一歩先に行きたい。その思いの方が大きいですね」


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 では、先に行くためにも今後の目標と言えば何になるのだろう? 古沢に聞いてみると…。

「やっぱりフューチャー・オブ・スターダムのベルトを取りたいですよね。HANAKOさんに挑戦したい気持ちがあります。デカい選手から関節技で勝ったらカッコいいじゃないですか。がんばりたいと思います。でもまだ正直、自分に自信がなくて『フューチャーに挑戦したい』との言葉を出せないでいるんですよね」

 タイトルマッチ実現のためにも、いまは場数を増やし、得意の関節技にどんどん磨きをかけていくしかない。入り方を含め、彼女のサブミッションはすでにプロレスラー古沢稀杏のトレードマークになっていると言っていい。

 トレードマークと言えば、リングコスチュームもまた、彼女を表すものの代表格だ。

「ゴシックパンクをイメージして、自分で考えました。自分は漫画『NANA』が好きで、ああいう格好が好きなんですよ。私服もそっち系が多いです。そこでコスチュームにもこだわり、赤と黒を基調としてああいった形になりました」

 ゴシックパンクのファッションと、使う技がブリティッシュスタイルを原点とするサブミッション。古沢稀杏は早くもスターダムで唯一無二のレスラーになった。あとは、結果を残していく作業の積み重ねで主力に食い込んでいきたい。

インタビュアー:新井宏

 

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