『“TIME BOMB”爆発の果てに』高橋ヒロム、新日本プロレス退団! L・I・Jの夢跡と、新時代の混沌
2026年2月。寒風吹きすさぶ季節に、マット界に衝撃のニュースが流れた。
新日本プロレスのジュニアヘビー級を、いや、階級という概念そのものを破壊し、再構築し続けてきた男。
“TIME BOMB”こと高橋ヒロムが、新日本プロレスを退団する。
そのラストマッチは、2月11日、大阪府立体育会館(エディオンアリーナ大阪)。
あまりにも唐突で、あまりにも劇的な幕引きである。
だが、今の新日本プロレスを取り巻く現状を直視すれば、この決断は高橋ヒロムなりの「もっと!もっと!もっと!」を求めた結果であると同時に、かつて栄華を極めた「ある時代」への、最後の鎮魂歌(レクイエム)なのかもしれない。
高橋ヒロムというジュニアのカリスマが残したもの、そして消滅した「ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン(L・I・J)」の夢跡と、辻陽太率いる「Unbound Co.」が牽引する新時代の混沌について思いを巡らせてみた。

なぜ、今なのか。 多くのファンが、その疑問符を頭上に浮かべていることであろう。
IWGPジュニアヘビー級王座を幾度もその腰に巻き、絶対王者として君臨。『BEST OF THE SUPER Jr.』を幾度も制覇。
ヘビー級王者とも真っ向から渡り合い、「東京ドームのメインイベントにジュニアの試合を立たせる」という野望を抱いていた。
高橋ヒロムは常に「見たことのない景色」を探している。 かつて「新日本プロレスが大好きだ」と語ったヒロム。
しかし、その愛した景色は、ここ数年で激変してしまった。
安定を捨て、保証を捨て、ただ己の肉体と狂気だけを頼りに、荒野へと飛び出す。
それは、若手時代に敢行した海外武者修行の再現のようでもあり、あるいはそれ以上の、レスラー人生を懸けた大博打である。

ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポンというユニットは、もはや存在しない。
制御不能なカリスマとしてユニットを牽引した内藤哲也は、すでに団体を去った。 漆黒のマスクマンとしてリングを彩ったBUSHIもまた、新日本プロレスのリングから姿を消した。

かつて同じ釜の飯を食い、同じ思想を掲げた“キング・オブ・ダークネス”EVILも、すでにここにはいない。
そして、Just 5 Guysへと移籍しIWGP世界ヘビー級王者へと登り詰めたSANADAは、現在欠場中という緊急事態の渦中にあり、リング上でその存在感を示すことができない状況である。
L・I・Jの魂を、そして「楽しむ」というイズムを体現し続けてきた高橋ヒロム。
そのヒロムが退団するということは、かつて拳を合わせたあの日々が、美しくも切ない「過去の遺産」となり、完全に封印されることを意味する。

ジュニアの象徴が消えゆく一方で、リング上には新たな、そして凶暴な「混沌」が産声を上げている。 その中心にいるのが、辻陽太である。
辻はL・I・Jの遺伝子を継ぐ者として鷹木信悟と共に、BULLET CLUB WAR DOGSと合体。「Unbound Co.(アンバウンド・カンパニー)」という新たなユニットを立ち上げたのである。
制御不能を超えた、秩序なき暴力と強さの結合。
鷹木の無骨なパワーと、WAR DOGSの狂気、そして辻の規格外のポテンシャル。この化学反応は、かつてのユニット抗争の図式を根底から覆してしまう可能性がある。
そして、辻陽太は新時代の旗手として、あの「IWGPヘビー級王座」を復活させた。
V字回復の象徴であったIWGP世界ヘビー級王座ではなく、かつてのアントニオ猪木、橋本真也、棚橋弘至らが巻いた歴史あるベルトを現代に蘇らせ、その腰に巻いているのである。

この辻を中心とした新時代を彩る顔ぶれもまた、多士済々にして強烈だ。
正統派の系譜を継ぐ海野翔太、上村優也。HOUSE OF TORTUREで悪の華を咲かせる成田蓮。
さらに、NOAHでの武者修行を経て怪物化した大岩陵平、”プロレスハイ”を提唱し狂気を撒き散らすYuto-Ice。

異種格闘技の匂いを漂わせる柔道金メダリストのウルフアロン、規格外のパワーファイターであるボルチン・オレッグ。
そして、独自の帝国を築き支配を目論むグレート-O-カーン。まさに群雄割拠。多極化した正義と悪がぶつかり合う、戦国時代そのものである。
内藤哲也が去りL・I・Jが消滅した今、新日本プロレスの中心に座るのは、この若き怪物たちである。
ヒロムはこの変わりゆく景色を「俺の知っている新日本プロレスではない」と感じたのか、それとも「これなら俺がいなくても大丈夫だ」と安堵したのか。

ラストマッチの舞台は、2月11日、大阪。そのリングで、高橋ヒロムは何を見せてくれるのか。
対戦相手が誰であれ、ヒロムは最後までヒロムらしく、狂ったように笑い、激しく舞い、そして観客を愛し、愛されることだろう。
湿っぽい空気は似合わない。 「もっと楽しもうぜ!」 そう叫んで、リングを縦横無尽に駆け回る姿が目に浮かぶ。
たとえ、帰るべき場所がもうなくなっていたとしても、ヒロムはヒロムであり続けるはずだ。
物語はここで終わるわけではない。

世界は広い。 アメリカのAEW、WWE、メキシコのCMLL、あるいは日本の他団体。ヒロムを求める戦場は、星の数ほどある。
あの自由奔放なファイトスタイル、言葉の壁を越えて伝わるキャラクター、そして何よりプロレスへの深すぎる愛。
ヒロムならば、世界のどこへ行っても、その地を「ヒロムワールド」に染め上げることができるだろう。
退団は終わりではない。 TIME BOMBのタイマーがリセットされ、また新たなカウントダウンが始まったに過ぎないのだ。

新日本プロレスのリングから、高橋ヒロムの姿が消える。
内藤哲也はもういない。BUSHIもいない。EVILもいない。
そして辻陽太と鷹木信悟はUnbound Co.として新たな道を歩み始めた。
そして高橋ヒロムは誰よりも笑顔で、次のステージへとダッシュしていく。
「ヒロムちゃん、行ってらっしゃい!」
「もっと! もっと! もっと! 楽しませてくれ!」
その旅路に幸多からんことを。 TIME BOMB、爆発の時。
その衝撃波はマット界のど真ん中から新たな世界へと広がる。
<写真提供:新日本プロレス>
Pages 1 2














