【スターダム】岡田太郎社長が明かす、日本一へ向けた“バランス経営”の真髄「トップスターの退場はリスクでもあり、メリットでもある」「選手ファーストとは思っていない」「上谷沙弥MVPの理由」
2026年3月。女子プロレス界を牽引し、飛ぶ鳥を落とす勢いで成長を続けるスターダム。その躍進の裏には、岡田太郎社長の存在がある。
時には自らリングに上がり体を張る一方で、極めて冷静かつ俯瞰的なビジネス視点で団体を導く岡田社長。
中野たむの引退という巨大な喪失、上谷沙弥のプロレス大賞MVP獲得、そしてなつぽいと鷹木信悟(新日本プロレス)の結婚……。
激動のマット界において、岡田社長は何を考え、どのように組織をコントロールしているのか。
独占インタビュー前編では、トップスター退場に伴う組織論から、ヒールユニットの存在価値、そして現代のプロレスラーのマネジメント術まで、その卓越した経営哲学に迫った。
■トップスターの退場は「リスクでもあり、メリットでもある」

――:岡田社長、本日はよろしくお願いいたします。傍目から見ても、現在のスターダムは非常に堅調に成長を続けており、様々な団体と友好的なパイプを持ちながら躍進しているのを実感しています。ここ数年の激動を振り返りつつ、組織論やビジネスの視点からお話を伺いたいと思います。まず、スターダムにとって中野たむ選手の引退は非常に大きな転換点でした。トップスターの退場は団体にとって大きなダメージになるかと思われましたが、結果として上谷沙弥選手の爆発的な躍進など、新たな波が生まれました。経営トップとして、こうした「トップスター退場リスク」をどのように分析し、ヘッジしているのでしょうか。
岡田:はい、よろしくお願いします。まず「トップスター退場リスク」という言葉についてですが、プロレス界、特に直近では新日本プロレスで話題になっております。ファンからすれば寂しいですし、ネガティブなイメージが先行すると思います。しかし、私はこれを「リスクでもあり、メリットでもある」と捉えて経営にあたっています。
――:退場がメリットでもある、ですか?
岡田:人の心がないと言われるかもしれませんが、ビジネスの観点で言えば、引退や移籍といったトップの退場は必ず起こり得るものであり、会社が完全にコントロールできるものではありません。だからこそ、それに備え、メリットに変換するマインドを持つことが団体として非常に重要なんです。「トップがいなくなれば次のトップが現れる」という単純な新陳代謝の話だけではありません。我々はスポーツとエンターテインメントが混じり合ったビジネスをしています。いつエースが怪我をするか、いつ四番打者が移籍するかわからない。プロ野球やサッカーのクラブチームと同じように、一人の選手に頼りきらない組織作りは、当然のリスクヘッジです。
――:特定の個人のマンパワーに依存しない組織作りということですね。
岡田:会社組織でも同じですよね。カリスマ経営者やトップ営業マンが急に倒れたり、ヘッドハンティングされるリスクは常にあります。プロレス団体だから特別というわけではなく、組織を大きく継続させるためには、全員がそのリスクを共有し、備えていなければなりません。トップ選手をリスペクトし、手厚くケアすることと、「その人に依存せず、組織全体で動く意識を持つこと」は両立できるんです。私が社長に就任した際、選手の離脱という問題がありました。売り上げを支えていた選手や、慕っていた先輩がいなくなることで、残された選手やスタッフが動揺するのは当然です。しかし、私はこの2年間で「一人一人がしっかりしていれば、絶対に組織として落ちることはない。むしろ上がっていくんだ」という意識を徹底的に植え付けました。
――:それが現在に活きていると。
岡田:ええ。大きな退場劇があった時、悲しみや動揺という抗えない事実に対して、「じゃあ次に自分はどう行動すれば、自身の価値が上がり、会社の価値が上がるのか」を一人一人が考え、行動できるようになった。それが一番のリスクヘッジです。中野たむ選手の引退や、他団体への移籍といった出来事を経ても、スターダムが落ち込むことなく次のプラスへと転換できたのは、組織全体が「リスクをメリットと捉えるマインド」になっていたからです。
■「選手ファースト」という言葉の罠。大切な「商品」だからこそ丁寧に扱う

――:その組織の強靭さは、岡田社長が選手一人一人としっかり時間を作り、対話を重ねてきた結果だと感じています。
岡田:対話は一番大切にしています。ただ、最近よく「スターダムは選手ファーストのいい団体ですね」「岡田体制は選手を大事にしている」と言われるんですが……実は私自身、そんなことはないと思っているんです。
――:と言いますと?
岡田:選手の意見を聞き、感情面も含めてサポートするのは経営として当たり前のことです。非常にドライな経営目線で言えば、選手は代えの利かない「大切な商品」なんです。商品の行動によって売り上げが立つわけですから、入荷した商品に傷をつけて乱暴に扱うような真似は絶対にしませんよね。例えば、買ったクッキーが割れていたらクレームになります。だから綺麗に包装し、丁寧に梱包して運ぶ。高級車が納車時に傷ついていたら大問題ですから、細心の注意を払って輸送する。芸術作品も映像作品も同じです。
――:人間を商品と呼ぶことに抵抗がある人もいるかもしれませんが、極めて論理的ですね。
岡田:プロレスは人間が商品であり、感情があるからこそ「モノ扱いするな」という反発が生まれがちです。しかし、私は「かけがえのない商品だからこそ、めちゃくちゃ大切にする」というスタンスです。個人的な好悪の感情ではなく、ビジネスとして、組織として絶対に大切にしなければならないと考えています。
――:だからこそ「選手ファースト」という言葉は使わないのですね。
岡田:そうです。「ファースト」という言葉は使いません。選手も大事ですが、同じようにスタッフも、ファンも、お客様も、全員が人間であり仲間です。どこか一つだけが「ファースト」になってしまうと、組織のバランスは崩れます。ただ優先順位はあります。選手は命を懸けて体を張ってくれているので、もちろん最大限のケアをします。しかし、同じように寡黙に支える社員もいれば、賞賛も非難もしてくれるファンもいる。すべてが大事なので全員の声を偏りなく聞き、最大公約数を目指すのが私の仕事です。「この局面では選手の意見を最優先しよう」「ここではスタッフ意見を聞こう」「ここではファンを一番に考えよう」と、状況によって“ファースト”は変わってきます。全員ができる限り幸せになる、あるいは負担を強いる時は誰か一人に偏らないようにバランスを見て大変なことを共有し合う。それが真の組織作りだと思っていますので、選手の話ももちろんですけど、スタッフ、お客様の声もすごく大事にしているという点は、経営者、団体のトップとしてはアピールしていきたいなと思っています。
――:その「バランス感覚」こそが、岡田社長の最大の武器だと感じます。以前のアニメやゲーム、声優コンテンツといった異なる業界での経験が活きているのでしょうか。
岡田:それは大いにあると認識しています。プロレス業界に入った時、「ここは特殊な業界だから」とよく言われました。でも、どんな業界にも特有のルールはあります。プロレスの外のエンタメ業界にいたからこそ、「このバランスで試してみよう」というフラットなトライができるんです。もちろん、失敗もたくさんしています。もっとこっちの意見を聞いておけばよかったと反省することもありますが、トライ&エラーを恐れないことが重要です。特に私は以前の職場で、女性タレントと接する機会が多かったので、その経験値は今のマネジメントにも大きく活きていますね。













