【編集長コラム】馳浩が11年ぶりにリング復帰

前文部科学大臣・馳浩が11年ぶりにリングに戻ってくる。「プロレスリング・マスターズ」(7月26日、東京・後楽園ホール)で、藤波辰爾、長州力と組み、グレート・ムタ、ザ・グレート・カブキ、TNT組と対戦。2006年8月に引退した際の「大臣になって戻ってくる」との公約を守ったものだ。

馳のプロレス入門は、24歳の時だった。レスリング五輪代表、社会人を経験、しかも教師として高校生を指導していたこともあり、とても常識的だった。

体育会系のプロレス界では、キャリアがものを言う。例え年上であっても、入門が一日でも遅ければ後輩であり、それはその先ずっと変わらない。

馳は業界の道理を理解し先輩、後輩の立場もわきまえ、年下の先輩でも立てるなど、あらゆる面できちんと対応していた。武骨なレスラー軍団の中で独特の存在感を醸し出していた。

仲間のレスラーたちから、尊敬されるきっかけとなるエピソードがある。

「目には青葉 山ほととぎす 初鰹」という江戸時代の俳人、山口素堂の句。皆さんも耳にしたことがあるはず。

ある年の春。五月晴れの日。新日本プロレスの合同練習で、道場近くの多摩川の土手をロードワークしていた。途中、少し休憩タイムとなった。

新緑がきれいで、さわやかな風も心地よい。ある先輩レスラーが「目に青葉 山ほととぎす 夏祭り」と、少しばかり得意げに口を開いたという。

一見、聞き流してしまいそうな間違いだが、さすがは古典の教師だった馳。「目には青葉 山ほととぎす 初鰹、ですよ」と、優しく言い直した。

続けて「『目に青葉』と言いがちですが、正式には『目には青葉』です。そして『ほとととぎす』というのは鳥のほととぎすではなく、植物という説もあるんですよ」と、わかりやすく解説したという。

「ほー!」。まるで中西学の遠吠えのように、いっせいに感心するレスラー軍団。「馳はやっぱり先生だね、頭いいね。凄いよ!」と、声をそろえたそうだ。

それまでも一目、置かれてはいたが、これをキッカケにさらに「尊敬されるようになった」という。

ただ、尊敬されてはいてもそこはやはり後輩。いつまでも「馳」と呼び捨てにされていた。

1995年に参議院選挙に初当選して以降、国会議員として活動してきた馳は、2015年、念願だった「大臣」にも就任した。

しかも今回、11年前のレスラー引退時の「公約」を果たすリング復帰。レスラー軍団の尊敬の念がますます深まっているのは間違いなさそうだ。

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