【編集長インタビュー】「主演映画公開を控えた棚橋弘至が、映画とプロレスの魅力を激白」

主演映画「パパはわるものチャンピオン」の全国ロードショー(21日)を目前にして、今年の「G1覇者」棚橋弘至が「喜怒哀楽 すべてを表現できるプロレスラーが僕」と激白。新日本プロレスの闘いとリンクする「スクリーン」を赤裸々に明かした。

――スクリーン上の大村孝志(ゴキブリマスク)と実世界の棚橋弘至、二人のプロレスラーが、かなり重なっているようですが、棚橋弘至は常に本隊の正統派です。悪役の覆面レスラーを演じるのは大変だったのでは?

棚橋 確かに僕は常に良いもの側にいます。でも、初めてIWGP王座を戴冠して「愛してま~す」と、叫んだ時には、会場に冷たい空気が流れ、ブーイングも飛びました。悪役というわけではないのに、ゴキブリマスクと同じような立場に置かれてしまったんです。ブーイングを浴びる気持ちも、引き出し方というか、こうなればファンの怒りを買うことになる、ということはわかります。脚本をいただいた時に、僕自身の中でも大村と棚橋がシンクロする部分があったので「是非ともこの役をやりたい」と、即断でした。だから、演技自体は手探りでしたが、大村孝志を演じることに抵抗はなかったですね。

――大村孝志は息子の祥太に、プロレスラーであることを、なかなか告白できません。実際の棚橋家では、プロレスラーという職業をお子さんたちは、どのようにとらえていらっしゃいますか?

棚橋 小さい頃は、プロレスという仕事を、まだあまり理解していなかったですね。とにかく、試合やら遠征やらプロモーション活動やらで、家にいなかったんです。子供たちの成長ぶりを、つぶさに目撃しているわけではありません。久しぶりに家に戻ると「子供が立てるようになった」という喜びがあったりしました。子供たちがどう思っていたかはわかりませんが、海外遠征前に「パパ、頑張って」と、手紙をもらったことがあります。今でも宝物で、取ってあります。徐々にですが「プロレスラーという仕事を理解してくれたのかな」と。

――スクリーン上の闘いと実際のリング上での闘いも、リンクしていますね

棚橋 今回の映画出演がモチベーションになったのは確かです。リングで活躍できないと、ファンの人たちも、棚橋の映画を観に行く気持ちに、なっていただけないんじゃないかなと。リングで活躍できなければ、本末転倒。棚橋弘至のアイデンティティーが崩壊してしまいます。仲里依紗さんが演じた雑誌編集者・大場ミチコが、大村孝志を応援してくれる姿に、実際のファンの人たちの姿がかぶって、パワーをいただきました。

――昨年、完成した本作品が、いよいよ公開されます。封切りを目前に控えて、いかがですか?

棚橋 いよいよ、ですね。全国公開映画のプロモーションというものに圧倒されています。「プロレスを、皆さんに知ってもらいたい」と、これまでも頑張ってきました。試合はもちろんですが、さまざまなプロモーション活動にも勤しんできたんですけど、今回のスケール感にはビックリです。

――棚橋弘至の描いていた「プロレス普及プラン」に、主演映画も入っていましたか?

棚橋 映画の主演は、頭にありませんでした。僕の予想のグラフを「上方修正しないといけない」ですね。ケガもなく、一番動ける時期は、プロレスが苦しい時。観客動員は苦戦し、プロモーションをしても、あまり響かなかった。それが、今では試合会場も満員になり、試合以外のイベントなども増え、反応も素晴らしい。僕ほど、報われている、恵まれているレスラーは、いないんじゃないですかね。

――映画主演を果たした今、今後の棚橋弘至は何を目指していきますか?

棚橋 レスラーとしてはもちろん、俳優業、モデル業、文筆業…色々と全力で頑張ります。「生涯全力」が僕のモットーです。疲れたことはないですから…今後も疲れることは許されません。疲れた時は、死ぬ時です。僕の死因は「疲労」です(笑)。生涯をかけたボケですね(笑)。

――「大事なのは勝つことじゃない」というキャッチコピーが気になります

棚橋 プロレスラーとしては勝たなきゃダメなんです。これは上の句なんですよ。これに続く、下の句「大事なのは〇〇」の〇〇は皆さんが、それぞれ考えてほしいですね。

――ロケ地は門前仲町、豊洲などと、下町、新しい街とバラエティに富んでいます

棚橋 クランクアップは豊洲でした。祥太役の寺田心君と二人で歩くシーンでした。「ハイ、カット。終了です」となり、皆さんに「ご苦労様でした」と声をかけていただきました。一気に感情が込み上げてきて、僕は号泣してしまった。心君はちゃんと挨拶したのに、僕は泣きじゃくっていました。

――今回の映画だけでなく、試合をしながら、多くの仕事をこなしています。そんなに頑張れる原動力は何ですか?

棚橋 かつては「自分のため」に、試合に臨んでいました。いつからか「家族のため」「ファンに盛り上がってもらうため」に、リングに向かうようになった。人って「誰かのために」と思えた時に、プラスアルファの力が出せて、限界の先まで頑張れるんじゃないですかね。昔、奥さんに「危ないことしないでね」と、送り出されたことがありました。プロレスはプロとして「自分の命を守る」最低限の技を身につけている選手がやっているんです。「危ないこと」は避けられないんですが、奥さんは「自分の足で帰ってきなさい」と言いたかったんじゃないかな。「家に無事に帰るまでがプロレスラーの仕事だ」と、今は感じています。

――原作の絵本の作者は、棚橋弘至をイメージして強いチャンピオン「ドラゴンジョージ」を設定したそうですが?

棚橋 タイミング、時期の問題でしょうね。映画製作がもっと早ければ、僕がドラゴンジョージ役だったかも知れません。2017年製作、2018年公開となれば、オカダ・カズチカが不動の王者役でしょう。もし、僕がずっと本隊ではなく、今回の映画のように、悪役サイドに転向していたら、どうなっていたんだろうか? と考えました。エースは別の人になっていたんだろうか? 新日本プロレスの勢力図はどうなっていたんだろう? と。

――エアギターをスクリーン上でも観たかったのですが?

棚橋 今回は難しかったですね(苦笑)。続編があれば、何とかしたいです。ただ、そのころ、実際のリング上はどうなっているのか? 誰もわからないですよ。

――レスラーといえば「滑舌が悪い」。棚橋さんも例外ではありませんね。セリフ回しとか、苦労されたんでは?

棚橋 否定しません。映画のスタッフさんに「ういろう売り」を教えていただいて、暗記して発声練習しました。拙者親方と申すは…。

――他の新日勢の演技はいかがでしたか?

棚橋 ギンバエマスク役の田口隆祐が助演男優賞ですね。木村佳乃さんが「あの人、俳優に向いていますね」と、太鼓判を押してくれました。現場に監督が二人いて、一部で混乱していました。映画の藤村享平監督とタグチ・ジャパンの田口監督。僕が「監督?」と声をかけると、藤村監督と田口監督が振り向くんですよ(笑)。スイートゴリラ丸山役の真壁(刀義)さん、ドラゴンジョージ役のオカダ・カズチカは安定の演技でしたね。不安定なのは僕だけでした。まあ、演技もプロレスも不安定さが僕の魅力ですから(笑)。

――今回の映画はプロレスラーのイメージ向上にも役立ちそうです

棚橋 今回のお話も2年前に「イエローリボン賞(ベストファーザー賞)」をいただいたことも大きかったはず。あの時にもレスラーのイメージを変えることができた。今後もプロレスを好きになって、生活が楽しくなった、僕のような人が増えてほしいですね。そしてプロレスラーになったら、それで終わりではなくて「テレビや映画に出られるんだ」ということなんです。

――今後は?

棚橋 ジャンルを飛び越えたい。プロレスを観たことがある人の方が少ない、のが現実。だからこそ、ビジネスチャンスなんです。もっと、もっと有名にならないと。

――プロレス界の先頭に立っていますが、大変なこともあるのでは?

棚橋 覚悟があります。僕の進化は止まりません。思っていることを、あえて口に出します。キャッチコピーでハードルを上げて、頑張るのが棚橋流です、これからも変わりません。映画もプロレスも、本当に多くの人たちのおかげで、成り立っています。皆さんに感謝することで、限界を決めずに頑張れるんです。

――映画のどこを観てもらいたいですか?

棚橋 喜怒哀楽。すべての感情を伝えられるレスラーは少ないと思うんです。これが僕の特徴かな、と自負しています。ドラゴンジョージとのシングルマッチで、それまで悪役覆面レスラーとして誇りが持てなかった大村孝志が、初めて堂々と胸を張ってプライドを持って立ち向かっていく姿を、是非とも劇場でご覧ください。

「生涯全力」をモットーにリング上でのファイトはもちろん、俳優業、モデル業、文筆業と、フル回転で走り続ける棚橋。「プロレスをもっともっとメジャーにしたい」と誓う男に、ますます期待が高まる。

 

スタイリスト:甲斐修平
ヘアメイク :山田みずき

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