【レジェンド外国人レスラー伝】フォークを手に相手を刺し続けた“黒い呪術師”アブドーラ・ザ・ブッチャー
異彩を放つその姿、鋭いフォークを手にリングに立つアブドーラ・ザ・ブッチャー、その異名は「黒い呪術師」。
プロレス界において、ブッチャーの存在はまさに恐怖そのものだった。
額に深く刻まれた無数の傷跡が、数えきれないほどの激闘を物語っている。
アブドーラ・ザ・ブッチャー、カナダ・ウィンザー出身のこの巨漢レスラーは、1961年にプロレスデビュー。
その後、アメリカ南部を中心に狂気のキャラクターで名を馳せ、日本でもその名を轟かせた。
日本のリングに初めて姿を現したのは1970年代。
全日本プロレスや新日本プロレスに参戦し、空手を取り入れたファイトスタイルに、その異常なまでの暴力性で観客を恐怖に陥れた。
ブッチャーは試合開始と同時に、リング内外であらゆる物を武器に変える。
特に印象的なのは、フォークを手に相手を刺し続けるその光景だ。
対戦相手の額から血が流れ落ちる瞬間、観客の悲鳴と歓声が交錯する。
ブッチャーの試合は、まさに血と暴力の饗宴であった。
全日本プロレスでは、ジャイアント馬場やジャンボ鶴田といったトップレスラーたちとの壮絶なバトルが繰り広げられた。
特に馬場との対戦は、血で血を洗う戦いとしてプロレス史に刻まれている。
二人の巨漢がリング内外で激突する姿は、まさにプロレス本来の迫力を感じさせるものであった。
日本でのブッチャーのキャリアにおいて特筆すべきは、ドリー&テリーのザ・ファンクスとの戦いだろう。
1977年の『世界オープンタッグ選手権』ではザ・シークとの「地上最凶悪コンビ」を実現させ、ザ・ファンクスとの抗争は、その狂気の度合いで観客を魅了し、プロレスファンの記憶に深く刻まれている。
また、幾度となく対戦した「超獣」ブルーザー・ブロディや「不沈艦」スタン・ハンセンとのバトルもプロレスファンにとっては忘れられない名勝負だ。
両者ともに荒々しいスタイルがぶつかり合い、リングは常に戦場と化した。
アブドーラ・ザ・ブッチャーの存在自体が一つの物語であった。
リング外でもそのカリスマ性は絶大で、多くのテレビ番組やCMに出演しお茶の間でもファンに愛された。
リング上とは打って変わったその愛くるしい表情がギャップを際立たせ、ますますその魅力を引き立てた。
しかし、最近のブッチャーは、プロレスラーとしての華々しいキャリアとは異なる厳しい状況に直面している。
83歳となったブッチャーは、健康状態の悪化により入退院を余儀なくされており、SNSに投稿された写真では、鼻にチューブを通した姿で、往年の姿とはかけ離れている姿にファンも心配している。
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また、ブッチャーは過去の試合での出来事により、金銭的なトラブルにも巻き込まれている。
2007年、デボン・ニコルソンとの試合中に自身がC型肝炎に感染していることを知りながら流血戦を行い、ニコルソンに感染させたとして訴訟を起こされた。
法廷に出席できなかったため、欠席裁判となり、約3億円の賠償金支払いを命じられた。
また、親族との金銭トラブルにより、現在は破産状態に陥っている。
ブッチャーを支えるスタッフはSNSでファンに対し、経済的、健康的に窮地に立たされているブッチャーを支援するための寄付(クラウドファンディング)を募っている。
プロレス界においてブッチャーのような存在は他に類を見ない。
世界中のファンから愛された悪役レスラー、アブドーラ・ザ・ブッチャーの復活を多くの人が願っている。
<写真:2019年2月19日(火)東京・両国国技館で行われたアブドーラ・ザ・ブッチャー引退セレモニー>
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