【新日本】棚橋社長が語る、ウルフ入団・辻発言・新世代サバイバル闘争・海外戦略・次なる野望「プロレスが日常の風景に完全に溶け込む未来を作りたい」
2026年1月4日の東京ドーム大会で現役を引退し、新日本プロレスの代表取締役社長に専念することとなった棚橋弘至。
前編ではトップ選手離脱に伴う組織の「新陳代謝」や、経営者としての覚悟について語った。
続く後編では柔道五輪金メダリスト・ウルフアロンの電撃加入の狙いから、辻陽太や海野翔太ら新世代が巻き起こす熾烈なサバイバル闘争まで、より踏み込んだ話題を展開する。
かつて自らの足でプロモーションに奔走し、どん底の団体をV字回復させた“100年に一人の逸材”は、社長となった今、自らの経験をどう次世代へ還元していくのか。
そして、プロレス界に大きな波紋を呼んだ辻陽太の「ブシロード批判」とも取れる発言に対し、経営トップとしてどのようなコミュニケーションを図り、一枚岩の組織を再構築したのか。
「僕が現役時代じゃなくて本当に良かった(笑)」と棚橋社長に言わしめるほどの才能が集結した現在の新日本プロレス。
彼らが目指す、プロレスが「日常の誇り」として人々の生活に溶け込む未来図に迫る。

■柔道五輪メダリストのウルフアロンが加入。異競技のトップアスリートを迎え入れる狙いと、ウルフに託す未来像とは?
――:後編もよろしくお願いいたします。ファン層拡大の話題に関連して、最近大きな話題を呼んだのが、柔道五輪金メダリストのウルフアロン選手のプロレス転向・新日本プロレスへの加入です。異競技のトップアスリートを迎え入れる狙いと、彼に託す未来像を教えてください。
棚橋:ウルフアロンの加入には、むちゃくちゃ期待しています! 彼は身体能力の高さはもちろんですが、とにかく「話せる」のが大きい。バラエティ番組での対応力も抜群ですし、世間への発信力は申し分ありません。そして何より重要なのは、彼が持つプロレスに対する「熱量」が本物だということです。
――:プロレス愛が深いと。
棚橋:はい。彼はオカダや内藤といったトップ選手たちの試合を見てプロレスの魅力にどっぷりハマり、純粋にプロレスという競技が好きなんです。今は「五輪金メダリストのウルフアロン」という肩書きが先行していますが、時間が経つにつれて、彼のプロレスへの真摯な姿勢や人となりがファンに伝わっていくはずです。そうすれば、肩書きに関係なく「プロレスラー・ウルフ」として、より応援される存在になるでしょう。また、知名度抜群のウルフが既存のトップ選手たちと絡むことで、新日本の選手たちの世間的な知名度も引き上げられるという相乗効果にも大きく期待しています。

©新日本プロレス
――:今後も他ジャンルのトップアスリートのスカウトは積極的に行っていくのでしょうか?
棚橋:かつては専任のスカウト部長がいたりして様々なルートを開拓していましたが、ウルフが新しいアスリート獲得のスタンダードになり得ると思っています。結局のところ、どれだけ背が高くて顔が良くて、運動神経抜群で「絶対にプロレスラーとして成功する素材だ」と思っても、本人がプロレスを愛していなければ絶対に続かない厳しい世界なんです。
――:好きでなければ耐えられない過酷さがある。
棚橋:そうです。だからこそ、新日本プロレスが世間的に盛り上がり、幼少期からプロレスに触れて熱狂する子供たちが増えれば、「将来はプロレスラーになりたい!」と志すトップアスリートも自然と増えていくはずです。結果的に、団体を盛り上げることが、巡り巡って最高の逸材を獲得することに繋がるのだと考えています。

■新世代の台頭が著しい中、とりわけ辻陽太をはじめとする若い世代に、社長として何を求めているか
――:現在、辻陽太選手、海野翔太選手、成田蓮選手、上村優也選手といった新世代の台頭が著しいです。彼らに対して、社長として何を求めていますか?
棚橋:リング上に熱を生み出すのは、いつの時代も選手同士の「競争意識」です。新世代の選手たちは皆、「自分が一番だ、俺が新時代を引っ張る」と腹の底では思っているはずです。その思いを、しっかりと“言葉”にして発信し、行動で示し、リング上を盛り上げてほしい。選手が熱を生み出し、ファンを巻き込んでいく。その熱がぶつかり合って生じる摩擦や、ユニット間の交通整理は、社長である僕が責任を持ってやります。だから、彼らには遠慮せず、思い切り暴れ回ってほしいですね。

――:頼もしい言葉ですね。彼らが輝くための最高の舞台として、東京ドーム大会の継続や、以前語られていた常設アリーナ(猪木アリーナ)の構想などはどのようにお考えですか。
棚橋:毎年恒例の1.4東京ドーム大会は、新日本プロレスの最大の象徴として絶対に続けていきたいです。今年のドーム大会は僕の引退試合ということもあり、「久しぶりにプロレスを見てみよう」と足を運んでくださったかつてのファンの方も多かったと思います。そういった方々に、「今の新日本プロレスには、辻や海野といったこんなに凄い新世代の選手たちがいるんだ」という現在進行形の熱を提示できたことは、ドーム大会という大舞台だからこそ成し得た大きな価値でした。僕が過去と未来を「繋ぐ」ことができた。この効果は、今年、来年と必ず数字になって表れてくると信じています。常設アリーナの夢も、もちろん持ち続けています。自前の会場を持てれば、興行の自由度も上がりますし、ファンの方にとっても「新日本プロレスの聖地」として足を運びやすくなる。収支面でも長期的にプラスになるよう、グループ全体で模索していきたいですね。

■辻陽太発言についての棚橋社長の見解とは?
――:若きエース候補の筆頭である辻陽太選手に関連して、避けて通れない話題があります。以前、辻選手がリング上で「オイ、ブシロード! 俺たちレスラーはな、カードゲームのカードじゃねぇんだよ」と発言し、大きな波紋を呼びました。この発言に対する棚橋社長の見解を改めてお聞かせください。
棚橋:あの発言に対して、辻がリング上で「同じ方向を向いてくれ。この団体をもっと強く、もっとデカくするために一緒に歩いてこうぜ」と返した通り、団体を良くしたいという根本の思いは、スタッフも選手も完全に一致しています。ただ、辻が「カードゲームのカード」という例えを用いたことに関しては、オーナー企業であるブシロードさんに対して配慮が足りなかった。あの表現によって、新日本プロレスを親身になって支えてくださっているブシロードの社員の皆様の中に、寂しい思いや悔しい思いをされた方がいたのは事実です。組織を預かる身として、その配慮が及ばなかった点は真摯に受け止めていますし、辻本人も発言の重みを深く反省しています。

©新日本プロレス
――:言葉のチョイスが、少しセンセーショナル過ぎたということですね。
棚橋:辻自身もその後話してましたが伝え方が誤解を生んでしまったし、一緒に歩いて行くというビジネスパートナーに対するリスペクトは欠いてはいけません。その後、僕から辻とはしっかり話をしましたし、ブシロードの木谷オーナーとも直接お話しをしてきました。
――:棚橋社長ご自身、かつて“エース”としてどん底の団体をV字回復させた経験があります。今後の経営戦略に、その経験をどう活かしていきますか?
棚橋:僕がエースとして奮闘していた時代、もちろん中邑(真輔)や真壁(刀義)、後藤(洋央紀)といった頼もしい仲間はいましたが、こと「世間へのプロモーション活動」に関しては、僕が文字通り一番泥水もすすって、身を粉にしてやってきたという自負があります。当時と比べて、今はどうでしょう。海野、辻、上村、成田、大岩(陵平)、ボルチン(・オレッグ)、そしてウルフ。こんなにも若くて、才能に溢れ、ビジュアルも良いヘビー級の選手が充実している時代は、新日本プロレスの50年以上の歴史の中でもかつてありません。

©新日本プロレス
――:これほどの若手ヘビー級が揃っているのは楽しみですね。
棚橋:猪木さんがいて、藤波さん・長州さんの時代があり、闘魂三銃士、第三世代、そして僕や中邑、オカダ、内藤へと襷が繋がれてきました。でも今は、メインを張れるポテンシャルを持った若い世代が7人も8人もひしめき合っている。これは経営者として、想像もつかないほどの化学反応を生み出せる、最高の武器なんです。現IWGPヘビー級チャンピオンである辻が先頭を走り、他の世代が「置いていかれてたまるか」と必死に食らいついていく。その熾烈な競争が、新日本プロレスをかつてない高みへと押し上げてくれるはずです。……僕が現役時代じゃなくて本当に良かったですよ。こんなライバルだらけの時代にエースを張るのは、しんどすぎますから(笑)。

■海外戦略、デジタル展開、ファン層拡大など、これからの新日本プロレスが強化すべきポイントはどこ?
――:これからの新日本プロレスが強化すべきポイントとして、海外戦略やデジタル展開などがありますが、棚橋社長が最も重点を置いているのはどこですか?
棚橋:現時点では海外戦略のさらなる強化です。現在、AEWをはじめとする海外の有力団体との関係は非常に良好です。選手がAEWなどに活躍の場を求めたとしても、完全に縁が切れるわけではありません。選手の希望と条件が合致すれば、武者修行の発展形のような形で、海外を拠点にしながら新日本プロレスのビッグマッチにも継続して参戦できるような、柔軟で新しい契約の形やスキームを構築していきたいと考えています。所属という枠に縛られすぎず、世界を股にかけて活躍する選手たちが、新日本のリングに還元してくれる仕組みを作ることが重要です。
――:「闘魂」や「ストロングスタイル」といった伝統を守りつつ、時代に合わせてどう進化させていくのでしょうか。
棚橋:時代が変わっても、「闘魂」や「ストロングスタイル」の根底にある、逃げない姿勢や戦いへの渇望といったスピリットは変わりません。野毛の道場には、その精神が脈々と受け継がれています。道場で培った厳しさや伝統をベースにしながら、それを現代のファンが熱狂するような、華やかでスピーディなリング上の表現にどう昇華させていくか。そのバランス感覚こそが、新世代の選手たちに求められる腕の見せ所です。同時にビジネス面ではもっと皆さんの「生活の隙間」に入り込んでいきたい。ローソンなどのコンビニで新日本のグッズやカードを展開していただいていますが、もっと日常的にプロレスに触れられる機会を増やし、テレビやSNSでの露出も戦略的に仕掛けていきます。

――:最後に社長・棚橋弘至として、これからの新日本プロレスに何を期待し、ファンにどんな未来を見せたいですか?
棚橋:僕は、新日本プロレスは「エネルギーを売る会社」だと思っています。リング上の激闘を見て元気になり、「よし、明日からの仕事や学校を頑張ろう」と活力を持ち帰ってもらう。その本質は、僕が現役時代から何一つ変わっていません。そしてファンの皆様には、新日本プロレスを応援していること、プロレスファンであることを「誇り」に思ってほしいんです。学校の教室や職場のランチタイムで、「昨日の新日本の試合、凄かったよね!」「私もプロレス好きなんだ!」と、当たり前のようにプロレスの話題で盛り上がれる。そんな風に、プロレスが日常の風景に完全に溶け込む未来を作りたい。グループ会社であるスターダムとは、会社としてしっかり連携は取っていきますが、リング上に関しては今は交わることなく、それぞれが独立したジャンルとして最高峰の高みを目指すべきだと考えています。新日本プロレスは、世界一のエネルギーを生み出す団体として、これからも進化し続けます。期待していてください。
――:プロレスが日常の誇りになる未来。その実現に向けて、棚橋社長の手腕に大いに期待しております。本日は貴重なお話をありがとうございました。
棚橋:ありがとうございました!

インタビュアー:山口義徳(プロレスTODAY総監督)














