【編集長コラム】「ルチャは底なし」

新日本プロレスの「CMLL FANTASTICA MANIA 2018」が大好評のうちに幕を閉じた。まさに「真冬の祭典」であり「プロレス大国」メキシコの底力を改めて思い知らされる盛り上がりだった。

来日回数を重ねるベテランに初来日の新顔…日本、米国と並ぶプロレス王国の層の厚さには、感嘆しかない。二世、三世、兄弟…まさにファミリービジネスだ。

30年以上前、メキシコを二回、取材ツアーで訪れた。当時、現地在住だったグラン浜田の豪邸を訪問し、海外修行中だった越中詩郎の奮闘ぶりをレポートした。

浜田邸ではソチ浜田にインタビューし、まだ幼かった浜田文子と一緒に遊んだ。ソチはその後、来日しジャパン女子プロレスで日本デビューを果たしている。

浜田には行きつけのサウナに連れて行ってもらった。腰にタオルを一枚、巻いただけの男性にマッサージしてもらい、何ともこそばゆい思いをした。

越中とは彼が日本人駐在員から借りてくれた車に同乗し、メキシコシティーから片道6時間ほどドライブ。越中の運転技術を信用していたが、真っ暗で、途中、舗装が途切れる道路を戻る帰路では、目を見開き続けていたことを思い出す。

何とか無事に帰りついた私のホテルの部屋で、メキシコでの生活、日本のプロレス事情、両国のアイドルの違いなど、一晩中、語り尽くした。その後、越中は全日本プロレスから新日本プロレスに移籍している。

海外取材では出歩くのを楽しみにしていたのに、メキシコ出張前には「生水は危ない」「警察も信用できない」などと聞かされ、メキシコではホテルの周辺から、なかなか足を伸ばせなかった。歯がゆい思いが今でも残っている。

ルチャ戦士と言えば、かつては「スピード満点の空中殺法を駆使し、複雑な関節技をさりげなく繰り出す」というイメージ。体中の関節を、変幻自在にからめとり締め上げる技の名前は見当もつかず、すべて「メキシカンストレッチ」だった。

情報化社会の今では「ジャベ」という言葉や、一つひとつの技の名前も、浸透してきている。未来日の選手の名前も映像も簡単に知ることができる。もはやルチャもメキシコも身近な存在だ。

とはいえ、ジャベは底なしで、いくつの技があるのか誰もわからない。ルチャの奥深さは変わらない。

大型化した昨今のルチャ戦士。ライセンス制度もあり、レスリングスクールに通い、きちんと基礎を習得しないと、デビューもままならないという。メキシコではルチャは「国技のひとつ」なのだ。

日本との交流も盛んで、新日本プロレス勢もメキシコ遠征を体験した選手がほとんど。「FANTASTICA MANIA」では、ペイントを施し、マスクをかぶり、コスチュームもメキシカン風にして登場。普段は使わない技を使用するなど「ルチャ」バージョンのファイトを披露した。ファンはもちろん、オカダ・カズチカ、内藤哲也、棚橋弘至ら新日勢も楽しんでいた。

当初は東京で開催されていたが、日本各地を転戦するようになり、すっかり「真冬の名物シリーズ」として定着した。

今後も、新日本プロレスとメキシコ・CMLLの交流は盛んになっていくはず。海外進出に乗り出している新日本プロレス。「新日本プロレスワールド」の加入者急増は「英語版」実況バージョンを、目当てとする海外ファンの増加と言われているが、新たに「スペイン語」バージョンのスタートが待たれる。

新日本プロレスによる英語圏、スペイン語圏を網羅する「ワールドツアー」が夢物語ではなくなってきた。世界は狭い。

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