探求し続ける男・翔太が矢野啓太との2度目の“61分3本勝負”に決意「今年のテーマは“わがまま”やり残したことを全て潰す」
インディーマットを主戦場とするフリーランスプロレスラー・翔太が、3月20日に異例の自主興行を配信開催する。
対戦相手に“孤高の職人”矢野啓太を指名し、無観客のワンマッチ、さらには過酷を極める「61分3本勝負」という現代プロレスの常識を覆す舞台を用意した。
フリーとなり今年の自身のテーマに「わがまま」を掲げる翔太。キャリアにおける“やり残し”を消化すべく企画された本大会は、入場曲やリングアナといったエンタメ的装飾を一切排除した。
あえてカメラ1台による配信に特化することで、全国のファンへ平等に「純度100%の戦いの記録」を届ける狙いがある。
新婚生活を経て芽生えたプロレスで稼ぐという強い責任感と、メインストリームへのアンチテーゼを胸に、探求者・翔太がプロレスの本質を世に問う注目の死闘となる。
プロレスというジャンルを愛し、探求し続ける男・翔太の脳内に迫るロングインタビュー。
『翔太 vs 矢野啓太 61分3本勝負』
日時:3月20日(金)19:00から配信
形式:ツイキャスプレミアム無観客配信、ワンマッチ興行

■「今年のテーマは“わがまま”。やり残したことを全て潰す」
――:本日はお忙しい中、ありがとうございます。翔太選手、今回は驚かされました。3月20日の19時から、ツイキャスプレミアムでの無観客配信。しかも矢野啓太選手とのシングルワンマッチ、それも61分3本勝負という、現在のプロレス界の常識からかけ離れたカードが発表されました。まずは、この途方もない企画が立ち上がった経緯から教えていただけますか?
翔太:経緯としては、実はすごく現実的なところから始まってるんです。今回使わせていただく「とある会場」があるんですが、年明け前か明けた直後くらいに、「今ならキャンペーンで会場費を下げられますよ」という案内が回ってきたんですよ。
――:なるほど、プロレス界隈のネットワークでそういった情報が回ってきたのですね。
翔太:その案内をもらった時は、正直あんまり興味がなかったんです。今は会場を借りてまでやりたいこともないしな、と思ってスルーしていたんです。でも、年が明けて1月、2月と過ごしていく中で、自分自身の試合数がそれほど多くない時期があって。その時に、ふと今年の自分の在り方について考えたんです。今年の自分のテーマは「わがまま」だな、と。自分のために、自分の時間や労力の全てを使う年にしようと決めたんです。
――:去年までの翔太選手は、少し立ち位置が違いましたよね。フリーになって以降、他者のために動いていた印象があります。
翔太:そうなんです。去年までは、以前のインタビューでもお話しさせていただいた、プロデュース興行「ベルセルク・インターナショナル」の活動のように、若い選手や、海外から日本にチャンスを求めてやってくる外国人選手たちに、いかにして機会を与えるか、みたいなことばかり考えていたんです。プロモーター的な思考というか、「次の世代に託して」みたいなものが全面に出ていました。でも、フリーランスに転向して自分のやりたいことを振り返ってみた時、「あれ? 気づけば結構全部やっちゃってるな」と思ったんです。
――:具体的にはどのようなことを達成されたのですか?

翔太:色々なローカルなインディー団体の興行に出て地方を旅したいなとか、ここに行ってみたいなとか、そういう願いは叶えられました。ガンバレ☆プロレスに所属していた時は、スケジュールやらの問題もあってあまり自由に動けなかった部分があったんですが、フリーになってからは様々なインディー団体からオファーをいただいて。北は北海道から南は沖縄まで、日本中のリングに上がりました。さらには海外も、アメリカはもちろん、東南アジアのリングにも上がって。自分の足で稼いで、本当にいろんな経験を積んだなと。そうやって振り返った時に、「じゃあ、あと何が残ってるんだ? 何をやっていないんだろう?」と自問自答したんです。だから今年は、その「やり残し」をちゃんと自分で一つ残らず潰していく年にしようと。
――:プロレスラーとしての「TO DOリスト」を消化していくような感覚ですね。
翔太:まさにそれです。やり残したことが一切ないように、全部やっていこう。そのためには、徹底的にわがままになろうと。そんな風に考えていた時に、ふとあの「会場費が安い」という話を思い出したんです。ここまでいろんなことを達成してきた。じゃあ今、本当に自分が心の底からやりたいこと、自分のプロレスのすべてを出し切れるような試合を、自分の手でゼロから作り上げよう。そう思った時に、頭に浮かんだ相手が「矢野啓太」だったんです。
――:そこで矢野選手の名前が挙がるのが、翔太選手らしいというか、非常に興味深いです。なぜ、他の誰でもなく矢野選手だったのでしょうか?
翔太:実は、矢野さんとのシングルマッチって、若い頃に何度もやっているんですよ。かなりこってりとやり合った過去がある。しかも、61分3本勝負という形式も、今回が初めてじゃないんです。実はこれ、2回目なんですよ。
――:えっ、矢野選手との61分3本勝負は過去にも経験があるのですか?
翔太:そうなんです。1回目も、僕自身が主催した自主興行でした。しかも場所は沖縄。当時、デルフィンアリーナという常設会場があって、沖縄プロレスも一旦活動を休止する、デルフィンアリーナも無くなってしまう、というタイミングでした。僕にとって沖縄はすごく思い出深い土地だったので、最後に自分の手で自主興行をやろうと決意したんです。その時のメインイベントのカードが、「翔太 vs 矢野啓太 61分3本勝負」でした。

――:そんな歴史があったのですね。
翔太:そこから東京のインディーマットでも何度か肌を合わせたり、天龍プロジェクトのトーナメントで当たったりもしてきました。見ての通り、翔太と矢野啓太って、ファイトスタイルは一見すると全然違うじゃないですか。僕はアメリカンプロレスやルチャのテイストを入れつつ、クラシカルな動きもする。矢野さんはキャッチ・アズ・キャッチ・キャンをベースにした、関節技やグラウンドのスペシャリスト。でも、実はマインドの部分、プロレスに対する思考回路はものすごく似ているんです。
――:思考が似ている、というのは具体的にどういう部分で感じるのでしょうか?
翔太:なんというか、見てきたプロレスの“根っこ”が同じなんです。オールドスクールなアメリカンプロレスのクラシックな試合とか、古い時代のルチャ・リブレの映像とか。矢野さんもそういうのが大好きだし、僕も狂うほど好きで。だから、バックステージで顔を合わせた時にプロレスの話をすると、めちゃくちゃ話が合うんですよ。「最近あのアメリカの昔の映像見た?」って。もちろん、お互いに世界中の最新のプロレス事情もチェックしつつ。
――:プロレスの歴史という膨大なアーカイブを共有しているのですね。
翔太:それと、お互いに「天邪鬼(あまのじゃく)」なところが似ているのかもしれません。今、プロレス業界全体が求めているものとか、現代のファンに流行っているもの、「プロレスはこうあるべきだ」というメインストリームの風潮に対して、「いや、俺はそっちには行きたくない」と背を向けてしまう。「こういうプロレスをしていれば、団体からもファンからも合格点をもらえるよ」「これが今の正解だよ」って言われている道があって、みんなそこを通ろうとするんです。でも、僕と矢野さんは、絶対にそのメインストリームを通ろうとしない(笑)。「いや、プロレスの本当の面白さはこっちでしょ」って、あえて外れた道を行こうとする。結果的に、メインストリームからは弾かれるし、なんならちょっと嫌われたり煙たがられたりもする。そういう生き方、スタンスが、僕と矢野さんはすごく似ているんです。
――:あえて茨の道を行く、反骨心のようなものですね。
翔太:だから、17年以上のキャリアの中で、僕がシングルマッチで戦ってきた相手の中で、一番……なんだろうな。いい意味で「今の時代の流れから完全に逸脱した、異質なプロレス」をお互いに100%の純度で出し合える相手は、やっぱり矢野啓太しかいないと思ったんです。あの沖縄での1回目の61分3本勝負から月日が流れて、僕らも中堅からベテランと呼ばれる領域に入り始めた。このタイミングで久々にシングルをやるなら、しかも今の成熟した僕らだからこそ生み出せる「何か」が絶対にあるはずだ、と。そう思って、すぐに矢野さんに連絡しました。「ちょっとこういう狂った企画を考えてるんですけど、どうですか?」って。そしたら矢野さん、二つ返事で「やろうよ、やろうやろう!」って言ってくれて。

――:即答だったのですね。お互いに通じ合うものがあったのでしょう。
翔太:それで、最初に話が出たそのキャンペーン中の会場を押さえて、まずは「翔太 vs 矢野啓太の61分3本勝負をやる」とい芯の部分だけを最初に確定させました。それが無観客になるのか、配信にするのか、通常の有観客興行にするのかは、実はその後に考えたことなんです。とにかく「近いうちに絶対に箱を押さえて、このカードをやる」ということだけを決めた。それが全ての始まりですね。
――:非常に面白いです。現代的なプロレス、いわゆる“映える”プロレスや過剰な刺激を求める風潮に対して、斜に構えながらも自分たちの信念を貫いてきた二人だからこそ成立するカードですね。
翔太:もう少し器用に、流行っているものに乗っかっていれば、もっと大きな団体のいいポジションで試合ができていたのかな、なんて思ったりもするんですけどね(笑)。
――:でも、その我が道を往くプレースタイルと存在価値を築き上げてきたからこそ、アメリカなどの海外からもオファーが届き、独自のポジションを確立できたわけですよね。翔太選手のインテリジェンスとプロレス技術は、同業者からの評価が極めて高いです。
翔太:そう言っていただけると救われます。こういう生き方をしてきたことに関して、後悔は全くないんです。不器用だけど、こういう人間、こういうレスラーになったことに関しては、自分のこだわりを貫いてきて本当に良かったなと、今は胸を張って言えますね。

■現代プロレスへのアンチテーゼ? 「伝統工芸品」矢野啓太論
――:先ほど矢野選手について少しお話しいただきましたが、改めて、翔太選手から見て「矢野啓太」とはどのようなレスラーだと評価していますか?
翔太:なんだろうな……。多分、これも最高の賛辞として、いい意味で言うんですけど、彼は「絶対に陽の目を浴びないレスラー」だと思います。
――:絶対に陽の目を浴びない、ですか。先日、天龍プロジェクトのリングでザック・セイバーJr.選手と矢野選手が名勝負を繰り広げました。あの時、このカードを組めたことに対して天龍源一郎さんも「これは特別なプレゼントだよ」とお話しされていました。矢野選手のレスリング技術は誰もが認めています。
翔太:そうなんです。誰もが実力を認めている。でも、プロレス界で本当にトップに立つ、陽の目を浴びるためには、どっかで「レールに乗らなきゃいけない」瞬間があると思うんですよ。人に押し出してもらう、会社に神輿を担いでもらう瞬間が、スターになるためには絶対に必要になってくる。
でも、僕もそうですが、矢野さんも「神輿に乗りたがらない」んです。
――:神輿に乗りたがらないタイプ。
翔太:どんなに実力があって、どんなにマニアや関係者から認められても、神輿に乗せられて、お祭りの主役としてワッショイワッショイと担ぎ上げられることを、彼は良しとしない。「いやいや、そんやって神輿に担がれるのは、俺の本当の実力への評価じゃないから」って、神輿から降りてしまうようなところがある。本質的に、徹頭徹尾「職人気質」なんですよ。
――:なるほど、職人気質ですか。
翔太:日本の頑固な職人って感じですね。「今の流行りはこういう味付けです、こういうデザインが売れます」って言われても、「知るか。俺は俺が信じる、本当に美味いもの、本当に価値のあるものを提供するんだ」と。料理人や伝統工芸の職人さんに近いメンタリティだと思います。だから、商品としての「プロレスの純粋な面白さ、技術的な奥深さ」では誰にも負けない選手なんです。だけど、その「伝統工芸品としての凄さ」と、今の現代プロレスにおける「商業的な大量消費商品としての凄さ」は、やっぱり評価軸が違うんですよね。

――:大衆受けするポップな商品と、見る人が見ればわかる伝統工芸品の違いですね。
翔太:矢野さんっていうのは、まさにその「伝統工芸職人」であり、超一流の三ツ星料理人なんです。彼が提供するプロレスは、間違いなく超一流。でも、それがバーンと大衆的になって、ファストフードのように何万人にも消費されるような存在になることは……多分、彼自身があまり望んでいないんじゃないかな、と僕は見ています。
――:非常に深い考察です。ファンの皆さんも、今の翔太選手の言葉を聞いてから矢野選手の試合を見れば、また違った味わい、新たな見方ができると思います。
翔太:だいぶ勝手な考察をしてますけどね(笑)。でも、間違ってはいないと思います。
――:天龍源一郎さんが矢野選手を高く評価しているのも、そういった職人気質、ある種の「へそ曲がり」な部分にシンパシーを感じているのかもしれませんね。天龍さんも過去に東京ドーム大会に出場した際、あえて花道を歩かずに、脇の通路から無骨に登場したことがありました。
翔太:ありましたね! あのドームの長くて派手な花道を無視するっていう(笑)。
――:天龍さんの中にも、ジャンボ鶴田さんという圧倒的な陽の存在、主役がいる中で、自分は影として泥臭く生きてきたという自負がある。その影の人間が、実力と反骨心で主役を食うことにプロレスのロマンを見出していたように感じます。
翔太:反骨心ですよね。まさにそれです。「お前らが担ぎ上げてる主流派の神輿なんかに、乗ってたまるか」という。だから大仁田厚さんと電流爆破をやったり、女子プロレスラーの神取忍さんとバチバチにやり合ったり。「お前らエリートにはこんな殺伐とした真似はできねえだろ? 俺はお前らには出来ないことをやってやる」という部分があった。その天龍さんの根幹にある反骨心と、矢野さんの職人気質は、どこかで強くリンクしているんだと思います。だから天龍さんは矢野さんを評価しているんでしょうね。
――:そういったバックボーンを持つ二人が交わるからこそ、今回の試合は異常な熱を帯びているのですね。














