【編集長インタビュー】「『百戦錬磨』を出版した青い目の社長・メイ氏を直撃。新日本プロレスへの愛を激白」

2020年1・4、1・5東京ドーム2連戦を控えた新日本プロレスの青い目の社長、ハロルド・ジョージ・メイ氏が「百戦錬磨」(時事通信社)を出版。業績をV字回復させたのは、メイ社長のプロレス愛だった。

――「百戦錬磨」というタイトル通りのメイ社長の半生が綴られています。社長ご自身で書名を決められたのですか

メイ社長 ハイ。私はステッカーをファンの皆さんにプレゼントしているんですが、以前「百戦錬磨」ステッカーを配布したことがあります。

――座右の銘ですか?

メイ社長 う~ん。決まった座右の銘はないですね。その時々で、ピンチの時も、うまくいっている時も、ぴたりとはまる言葉がありますよね。時代、時代で変わります。例えば、初めて会社に入った時は、この人の言葉、社長になった時はあの人のこの言葉・・・好きな言葉は、たくさんあります。今、この時点は、この本のタイトル「百戦錬磨」ですね。ただし、また、好きな言葉は変わる時が来ます。きっと。

――なぜ、いまなのですか? 出版するきっかけは?

メイ社長 出版社の方からお話をいただきました。実はインタビューなどで、自分の思いを正確に深く伝えることは難しい、と常々思っていました。自分の本やコラムなら、言葉を選びながら考えを分かっていただけるので、いつか本を出したいと考えていた。自由に書きたいことを書かせてもらったのが「百戦錬磨」です。

――プロレスを経営面からとらえた本ですよね。メイ社長の半生、マーケティング、組織論、仕事術などが書かれていますが、どんな人たちに読んでほしいですか?

メイ社長 プロレスを愛する皆さんに読んでほしい。プロレスはリングの中で、選手が素晴らしい戦いを繰り広げることが第一ですが、事業としてもうまく舵取りができていないと続けられません。ファンの方々も、この点も理解されているでしょう。ですから、プロレスの経営に携わっている者が、どんな経験をして、どんな考え方をしているのか、強みは何なのか。この本で知ってもらいたいのです。プロレスのさらなる可能性を感じ、より楽しんでいただけると思います。

――この本、いわゆる経営本ではなくて、うなずくことばかりですが、中でも一番、伝えたいポイントは?

メイ社長 プロレス団体は、パフォーマンス(試合)と経営力が両方、兼ね備わっていないとダメです。企業も成長段階に応じて、それまで不必要とされてきたスキルやノウハウが重要になってきます。財務諸表を読み解いて経営状況を把握し、様々な判断を下す。海外との交渉、英語でもインタビューに応じられること、広報、マーケティング力、法務力、顧客対応、リスクマネージメントなどです。試合と経営。二つ揃うことが事業として発展する鍵です。そういう観点から、書いた本なので、読む人によって、響くポイントが全く異なると思います。

――第1章「パーソナルなことについて」の⑤「命が消えていく瞬間」に、学生時代に消防のボランティアをされている時の体験は、中でも貴重なお話ばかり。メイ社長ご自身も消防活動中に、何度も危険な目に遭遇していらっしゃいます

メイ社長 当時はボランティアという言葉では片づけられないほど生活の大部分を占めていました。その後の人格形成に大きく影響しています。

――是非とも、皆さんに読んでほしいですね

メイ社長 第4章「新日本プロレスについて」の①「父と観たプロレス」にも感情が入りました。日本に来た当初、全く言葉もわからなかったのに、父と一緒に楽しめたのがプロレスでした。解説がついていた方が、より深く理解できますが、わからなくても通じるのがプロレスなんです。子供が見ても楽しめ、大人も面白い。親子の交流にもなる。プロレスの魅力のひとつです。

――老若男女すべて、親子、ファミリーで楽しめるのがプロレスです

メイ社長 現在は4割が女性ファンです。お子様や年配の方々にも足を運んでほしい。日本だけでなく海外にも普及させたい。もとより、日本の産業もこれから「モノづくり」から「コト体験」に移行していかないといけない。アニメを海外に輸出して成功していますが、プロレスも世界中に発信し、世界中の人たちに楽しんでもらえる。プロレスは世界に通用するコンテンツなんです。中でも日本のプロレスの新日本プロレスのポテンシャルはスゴイんです。

――本の「まえがき」に「自分は前世でおそらく日本人だった」ということを書かれています

メイ社長 本当に日本が好きで、私が好きな時代劇、「大河ドラマ」にいつか出たいと思っています。コンタクトレンズを入れて、目の色を変え、丁髷を結ってね(笑い)。冗談はさておき、日本語をきちんと学んだことはないのですが、例えばちょっとつまずいたときにも「痛い」と日本語が出るんです。もっともオランダに戻ると、初日は日本語で考えているんですが、二、三日後にはオランダ語や英語で「アウチ」(痛い)となる。言語で考え方やしぐさも変わるんです。

――日本語、英語、オランダ語・・・言葉だけでなく文化、考え方も変化するんですか

メイ社長 海外と電話している時は、堂々としていないと、相手になめられてしまいます。姿勢も変わりますよ。日本では人の前を通るときは「ちょっと、すいません」と、頭を下げますが、海外だと「失礼」と、胸を張って横切る。今回も事前に柴田さんと電話でお話した時に「お願いします」と言った時には、私はお辞儀しながら話していました。目の前にいなくても、相手に伝わると思うんです。その国に住んでいるだけでは、身につかない部分もありますよね。私は日本語を理解することで、日本文化も理解できているつもりですし、日本にいる時は、日本の文化を大切にしています。

――社長が日本語もお上手なのは知られていますが、日本の文化にも精通され、心と体の芯から、日本をわかっていらっしゃる。漢字の読み書きも完璧なんですね

メイ社長 いえいえ、全部とはいきません。弱いのは名前ですね。苗字もですが、下の名前は本当に難しい。色んな方にお会いしますが、読めないことが多いです。

――日本人でも読めない名前は、たくさんあります。

メイ社長 きちんと学んでいないので、名前と地名、それと科学分野などの専門用語は読めないです。毎日、使わない漢字は大変です。ひとつ一つ、覚えていくしかないですね。

――名前も地名も特殊な読み方も多いです。我々も一緒です。日々、勉強ですね。10年後の新日本プロレスはどうなっているでしょう

メイ社長 どの業種もそうですが、ビジネス展開の速度が年々、速くなり、競争も激化しています。情報技術がさらに進み、海外の競合も国境を越えて日本市場にやってきます。10年後のプロレス環境は私にも予測不可能ですが、新日本プロレスはIPビジネス、つまり知的財産を使って収益を上げるビジネスモデルに、かなりシフトしているのでは、ないでしょうか。そうでないと、競争に勝てず、化石になってしまいます。

――国内はもちろんですが、国際的な競争に勝ち抜いていかないと、10年後はないと

メイ社長 試合を配信で観ることがもっと普及し、地域が広がり、試合映像や放送権を海外のテレビ局に販売すること、ゲームや映画、グッズなどの市場もまだまだ伸びしろが、あります。プロレスの試合そのものの面白さは変わらなくても、その視聴方法やメディアミックスは、さらに進化しているでしょう。

―2020年の1・4東京ドーム大会の第0試合に、スターダム選手が参戦したり、新日本プロレスの選手がスターダムの道場でコーチしています。女子プロレスとの関わりも深まりそうです

メイ社長 2019年12月から、スターダムがブシロードグループに加わり、女子プロレスへの注目も高まっています。ますますプロレスの存在感が大きくなり、プロレス界は活気づくでしょう。日本で生まれ育った新日本プロレスが、日本だけでなく世界に広がっていくのは、自然なステップで、少子高齢化が進む日本において絶対に必要なことです。2020年は日本でオリンピックが開催され、世界からますます注目されるようになります。国内か国外か、という「へだて」を取り払い、世界に新日本プロレスの魅力を発信し、対応できる力をつけることが急務だと思います。

――経営者として冷静に新日本プロレスをとらえていらっしゃるようです。

メイ社長 私にとって新日本プロレスは、世界で一番好きなプロレス団体です。経営者としての冷静な視点と、新日本のファンとしての視点をいつも持っています。新日本プロレスは「ストロングスタイル」という素晴らしいプロレスを展開してきた世界第2位のプロレス団体です。海外のファンにも広く知られるように積極的にしかけて、もっともっと大きくしたい。新日本プロレスに来て、すぐに英語での発信を進めてきましたが、ますます充実させ、この輝きが続くようにしっかりと守っていきたいと思います。著書「百戦錬磨」の中で、プロレス団体の経営や未来について、詳しく書いていますので、ぜひプロレスファンの方には読んでいただきたいです。ビジネス本ではありますがとても読みやすいですし、経営面からもプロレスを考察することで、よりプロレスを楽しんでいただけると思います。

メイ社長の言葉の一つひとつから「プロレスへの愛」が伝わってくる。ハイネケン、日本リーバ、サンスター、日本コカ・コーラ副社長、タカラトミー社長と、世界のビジネス界で戦ってきた「百戦錬磨」のメイ社長も、また“プロレスラー”だった。この本を読んで、ますます1・4、1・5東京ドーム2連戦が楽しみになってきた。

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