【TAJIRIインタビュー】自身初となる小説『少年とリング屋』発刊!プロレスと文筆家の二刀流に迫る!!
今年1月に九州プロレスに電撃入団したTAJIRIが、プロレスTODAY編集部に来社。
3月17日(金)、イースト・プレス社から発売となる自身6冊目の著書、そして自身初の小説となる「少年とリング屋」の発売前になぜ今小説を書いたのか、作品にこめる想いを伺った。
そのほか、なぜ九州プロレスに入団したのかなど、今のTAJIRIに迫る!
▼インタビュー(動画)はコチラからご覧ください。
①発刊に至った経緯
--今日はTAJIRI選手に来ていただきましたが、TAJIRI選手は”文豪レスラー”としても活躍され…
いや、”文豪レスラー”ってめちゃ恥ずかしいんで止めていただけたら幸いでございます。”世界のTAJIRI”とか僕そんなの1回も自分から発信したことないんで。もう僕結構つつましいんで、そんな図々しい事恥ずかしくて言えないですよ。
--ご自身が言わなくても他からあがるわけですから。
しかしプロレスの世界で”世界のTAJIRI”だったらまだしも、”文豪レスラー”だなんて。すごい作家さんがたくさんいらっしゃるわけですから、それはちょっと恥ずかしいぞと。
--そうはいっても、もうTAJIRI選手6冊目の書籍が出版されるということで。今日は文豪の部分、そして九州プロレスに入団された件についてお伺いできればと思います。
『少年とリング屋』TAJIRI著(1,500円+税)
イースト・プレス 2023年3月17日発売
プロレス、夢、「何者」かになる――文豪TAJIRI、始動。
プロレスラーにあこがれる少年が、リングが積みこまれたトラックに潜り込むことから始まる、リング屋さんとの心の交流を描いた表題作『少年とリング屋』をはじめ、プロレスを通して人々の夢と「何者か」になろうとするおかしみ、人生の悲哀を描く、短編連作。
【目次】
第1話:少年とリング屋
第2話:醜い顔
第3話:かっこいい女
第4話:「全然満足していません」
第5話:俺は何者
第6話:夢の結末
第7話:エピローグ
--イースト・プレス社から「少年とリング屋」という自身初の小説が発刊されましたが、どういった経緯で小説をお書きになられたのでしょうか?
実は、始め女子プロの小説を書いてたんですよね。長い話で、まだ書き終わってないんですけど…。ある編集者の方と知り合ったので見ていただいたんですけど、これは大長編になるから出すとしてもまだ先の話になるし、何かないですか?と言われたんですね。そのとき、この「少年とリング屋」の第一話を書いていたんですよね。長編の方を書いていて行き詰ったときに勉強として短編を書いてみたんですけど、初めて書いたのがこれ。この本の中では、その後の仕込み的な話になってるんですけど、実はこういう結末じゃなかったんですよね。まあそれは、それは僕がいつか売れたら商売させていただこうかと(笑)
--それはびっくりです
そしてその第一話を見せたところ、「なかなかいいのでこれを連作で書いてみませんか」ということでその編集者といろいろ話しているうちに、この主人公にこんなお母さんがいたら面白いんじゃないかとか、こんな想いも伝えられるんじゃないかとか枝葉が伸びるようにできてきたんですよね。
--すごいですね。いろいろな物語を紡いでいくのって本当に大変な作業だと思うんですよね。
僕の感覚では、(小説を書くのは)プロレスと同じなんですよね。プロレスラーもリングで同じ作業をしてるはずだと思うんですよ。それに僕、SMASHとかWNCとか※1ストーリー性の強い団体をやっていたじゃないですか。あぁいうストーリーを僕考えてたんですけど、全く一緒なんですよね。
※1 自身が2010年、2012年にそれぞれ旗揚げしたプロレス団体
--そうなんですか?登場人物の個々のストーリがありながらも、それが複雑に絡み合うという繊細かつダイナミックで。プロレスラーだから書ける暗闇みたいなものもありますよね。もっと話したいですけど、これは買っていただいて読んでいただければと。
②注目して欲しいポイント
--TAJIRI選手が注目してほしいポイントはどこですか?
そうですね…全部なんですけど(笑)特にどこということがなくて、この本の頭の先から足先まで全部大切な想いを込めて書いているので。
--そうなんですね。でも今回TAJIRI選手が書かれたということで、プロレスラーとして見ていた方が書かれた小説ということで驚きと新鮮さが…
たぶんプロレスラーならこういう世界はある程度持ってると思うんですよね。ただそれを出す手段を積み上げてきたかきていないかの違いだと思うんですよ。
--想いを言葉にのせていくのはとても大変な作業だと思うのですが、こちらはどのように培ってきたんですか?
もうなんだかんだ、初めての本書いてから20年経つんですよね。だから20年やり続けたってことじゃないですかね(笑)
--それがすごいですよね。そして小説の中には、周りから見られる景色と自分が感じる心理描写みたいなところで、これってプロレスラーだから書ける視点なんじゃないかなって言うのも感じました。
この第5話なんて、それこそ最初に”文豪レスラー”だなんて恥ずかしいって言いましたけど、それと同じようなあることに対する恥ずかしさを持っている話じゃないですか。”世界のTAJIRI”って言われることだって、僕は恥ずかしいんですよ。全然嬉しくなくて、めっちゃ恥ずかしいですよ。そのエキスがかなり入ってますね。
--それを聞くとより味わい深いですね。そういう部分があの物語には隠されてるんですね。TAJIRI選手も少年自体に思い描いていたプロレスの世界に入られたという部分と、この少年とリング屋の物語が少しリンクしているのかなと思う節も感じました。
ちなみに山口さんはどのキャラクターが好きですか?
--僕は少年ですね。彼のようにプロレスラーになりたいというわけではなく憧れでしたが、その心理描写に共感するところがありました。ご自身としてはいかがですか?
僕はみんな好きですね。書き終わる頃にはさみしくなっちゃって。今までずっとやってきたから…
--製作期間はどれくらいだったんですか?
半年くらいですね。「戦争とプロレス」(自身5冊目の著書。トラベルルポルタージュ『プロレス深夜特急』シリーズ第2便)を同時期に書いてたんですけど1人じゃ絶対書けないですね。編集者と波長があって、話しながら作り上げたというか。人と話すと出てくるんですよね、1人じゃ絶対に出てこない。
--先ほど編集者と話しながらいろんなキャラクターも出来てきたというお話も伺いましたが、心理描写やどういった言葉を紡いでいくかというものはやはりTAJIRI選手のセンス…ご本人嫌がっておりましたが”文豪レスラー”と使いたくなってしまいますよね。
恥ずかしいです。僕で”文豪”だなんて名乗ったら本当の文豪が「なんだあいつは!」って怒りますよ。
③自身6冊目となる書籍発刊について感想
--ご自身の書籍について、ネットなどでレビューなどは読まれたりするんですか?
レビュー読みます。
--過去の作品もそうですが、評価高いですよね。
ありがとうございます。好き勝手にやってるだけなので。書きたくて書いただけなので…。
--もともと書くのはお好きだったんですか?
いや全くです。作文なんて全く書けなかったですし。アメリカ行ったときに、昔フミさん(斎藤文彦)がやっていた『アメリカーナAMERICANA』っていう週刊プロレスの別冊に『アメリカーナAMERICANA』今の生活がどんなものか書いてくれないか」って言われて。書いてフミさんに送ると「ここ厚めに書いてもらえる?」というようなやり取りを何度もしたんですよね、それが面白くて。プロレスラーってリング上での闘いだけでは言いたいことってちょっとしか言えないじゃないですか。書くというのはそれを伝える手段としてとてもいいなと。そしたら週刊プロレスから連載のお話が来たので、そこから書き始めて。
--書くことの喜びがそこで芽生えてきたわけですね。ご自身6冊目の書籍となるわけですが、ご自身としての感想はいかがですか?
別に感想もないですね。そのとき書くことにたまたまなって、ここまで来たというだけで。これくらいでいろいろ感想持ってたら、これ以上行かないと思うんですよね。ただ淡々とやってるだけですね。そしてフィクションは初めてなので、これからですから。スタート地点のそれこそまだ下にいる状況だと思うんですよね。
--小説家としても華々しいデビューですね。
売れるかどうかまだ分からないんでね(笑)
--いやいや、そしてその先は映画化に。
いいですね。そしたら俺もチョイ役で出ようかな。でも、このタイトルからほのぼの系だと思う方いらっしゃると思うんですけど、決してほのぼの系ではないのでね。
--そうですね。
でもタイトルはこれしかないかなと思ったので。
--そうなんですね。そして書籍の紹介を読ませていただきますが、「プロレスラーにあこがれる少年が、リングが積みこまれたトラックに潜り込むことから始まる、リング屋さんとの心の交流を描いた表題作『少年とリング屋』をはじめ、プロレスを通して人々の夢と「何者か」になろうとするおかしみ、人生の悲哀を描く、短編連作。」ということで、3月17日発売となりますので、みなさまぜひお手に取っていただければと思います。
実在のプロレスラーをモデルにした人もたくさん出てきますんでね。第4話を書くために、自分でチケット買って新木場に女子プロ見に行きましたからね。初めて女子プロを見るお父さんじゃないですが、それはどういう気持ちなのかなと思って。この中に出てくるチケットの金額と座った席、全部当日自分が経験したそのままですからね。
--実体験をもとにしてるんですね
やっぱ書くときはそうやって取材するんじゃないですかね、みんな。
--周りの方、TAJIRI選手がいるってびっくりしませんでした?
いやまあそれは、けどそのときは物書き屋のTAJIRIなのでね。もうね、プロレスはやりつくしたところもあるので、僕プロレスラーです!みたいなのはないんですよね。もうおっちゃんですから。
④各国のプロレス文化の違い
--TAJIRI選手は、アメリカの最高峰の団体WWEからインディーマット、そして各国で活躍されてきたわけですが、その各国でプロレス文化の違いといったようなものは感じますか?
そうですね…やってることは一緒だと思うんですよ、結局。ただその国と国の文化と人々やものの考え方、食べ物、言葉が違う…それだけですね。
--言葉の違いは大きいんじゃないですか?
僕はそれで不自由感じたことはないですね。どの言葉でもしゃべれるわけではないんですけど、結局通じ合えるかどうかだと思うので、あまり関係ないですね。
--逆にこの国が肌に合うというようなことはありましたか?
合わなかったという国が浮かばないですね。結局、自分の形をどうにでも変えるような感じで普段から生きているとなんてことないんですよ、本当に。
--1つの悟りのようなものですね。それを若い頃からお持ちだったんですね。
でも今思えば、若い頃はこんな国2度と来たくねぇってありましたね。もうなかったような気持ちになってましたけど、ありましたね(笑)もう最近はないですけど。
--(笑)いろんな経験をもとに、自分の中の芯のようなものがあって、オリジナリティがある志向性プロレスというか…考えられたプロレスをやられているという印象を受けます。
なんかねぇ、前まではそういうのも「そうです、僕はこういう理論持ってます!こういう哲学持ってます!こういう志向性持ってます!」って自分の中に柱が立ってたんですけど、もう自分の中に溶け込んできちゃって。もう何も立ってないんですよ。考えたこともないですね、最近。
--もう仙人みたいですね
でもたしかに、前とは違いますね。
⑤九州プロレス所属となって見えた景色とは?
--自分の中の柱が溶け込んだというのは、九州プロレス所属になってから改めて見えた景色でしょうか?
いやこういう風になって、九州プロレスに行ったのかなという感じがしますね。
--なるほど。全部溶けて、その行きつく先が九州プロレスだったと。
…のような気がしますね。
--ご自身のSNSで、九州プロレスに行ったら今まで見えなかった景色がたくさんあると書かれてましたがそこお伺いしてもいいですか
そうですね…何から言いましょうかね。
--1番最初は寮に住まわれたとのことですが、そのときはいかがでしたか?
仮の宿としてね。自分がレスラーになりたかったあの頃に戻った感覚がありましたね。そもそも九州プロレスに興味を持ったのが、昨年の1月3日の新宿FACEで九州プロレスが初めて東京に来たんですけど、あれを見てすごいその感覚になったんですね。ここはものすごくプロレスに大事なものを持っている団体ではないかなと思って。で、筑前さんと話して、すごく共感・共鳴しちゃったんですよね。
--筑前さんも熱いですよね。
熱い。普段ニコニコおじさんですけど、ガラリと変わるんですよね。それがすごいなこの人って。3日前に入門テストがあったんですけど、僕と筑前さんと日田丸選手が3人が審査員をやって最後に面談があったんですよね。筑前さん、いつもみたいに話すのかなと思っていたら、全く違う声が聞こえて。「素晴らしかったよ!」とかなんとか。もう劇画調みたいな感じで(笑)
--(笑)
凄くまじめで几帳面で、立派な社会人というような感じの人ですけど、結構”とんぱち”な何かを持ってる感じあるじゃないですか(笑)
--全国のプロレス団体が参加する『グローカル・タッグトーナメント』も筑前さんが発起人として呼びかけて開催されたわけですが、筑前さんだからこそ出来たんじゃないかというところありますよね。
そうですね。筑前さんじゃなきゃ出来なかったような気がするんですよね。
--熱い魂とピュアで真っすぐな感じが伝わるんでしょうね。そういうところにTAJIRI選手も共感・共鳴されたのではないかなと勝手に思ってました。
もうそれで間違いないと思います。
--いざ団体に入られて、選手のみなさんとの交流はいかがですか?
もうみんな大歓迎で迎えてくれて。今ストレスゼロですね、僕。本当になんのストレスもないです。でも好き勝手振舞ってるとか、人の気持ちを考えないとかそういう意味じゃなくて…たぶん東京のファンっていろんなネットワークで見てるから、とんでもない奴だと思われてるんですよね。裏でTAJIRIがコントロールしてるだとか(笑)
--(笑)
でもね、それはね、あなた方がそういう人間だから人までそう思うんですよ。そういう人は純粋すぎる人間のことは嘘だと思うと思うんですよ。で、またこういうこと言ってたとか裏で言われるんでしょうけど(笑)
--でも本当、九州プロレスのみなさんはピュアというか「プロレスで九州ば元気にするバイ!!」とみんなで盛り上げようという団体のパワーを感じますよね。
だから合うんだと思うんですよ、ピュアだから。これこそ自分から言うからよくないんですね(笑)
--ピュアは感じますね、そして仙人(笑)
本当ですよ、ピュアじゃなきゃこんな小説書きませんよ。
⑥文豪レスラーとして今後目指すもの
--そんなTAJIRI選手、ご自身では嫌とおっしゃられてましたが”文豪レスラー”として今後目指すものはありますでしょうか?
先ほど言った女子プロの小説を書いて世に出したいんですよ。だからコツコツ書いてるんですけど。
--TAJIRI選手はSMASHを立ち上げ、今やスターダムで活躍している朱里選手も育て上げましたが、女子プロはご覧になられてるんですか?
全く見てないです(笑)女子プロ限らず、プロレスなんにも見てないです。10年以上前から全く見てないですね、テレビでやってるかどうかも分からないくらいだし。
--なるほど。
なんていうか、週間情報誌も読み始めると情報量が追い付かないじゃないですか。僕はそれより聖書やヘミングウェイを読んでる人なんですよ。
--そういうところがTAJIRI選手のオリジナリティに繋がってるのかもしれないですね。では次は女子プロレスの話ということで期待したいと思います。プロレスについては九州プロレスでのチャンピオンシップでは負けてしまいましたけど、今後もTAJIRI選手が暴れまわるところを…
いや、もういいです。もうなんでもいいです(笑)
--そんな謙遜もされてますけど。
いや謙遜じゃなくて、本当に(笑)。このへんの僕が分かってもらえるともっと(「少年とリング屋」が)面白いと思うんですよね。全然そんな人じゃないんで、僕。
--たしかに、冒頭でおっしゃっていた「恥ずかしい」というあの言葉もこれを読むとよく分かりますね。
たぶん分かりますね、すごく。
--ぜひたくさんの方に手に取っていただき、お読みいただきたいですね。
インタビュアー:山口義徳(プロレスTODAY総監督)
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