スターダム岡田社長 ロッシー小川契約解除と就任から3カ月

WEEKEND女子プロレス♯3】


写真:新井宏

 昨年12月1日付けで、スターダムを運営する株式会社ブシロードファイトの代表取締役社長に就任した岡田太郎氏。昨年後半に表面化したさまざまな問題点の改革を託されたわけだが、その作業が進むなか、さらに大きな事件が勃発した。

2・4大阪エディオンアリーナ大会終了直後、団体の創始者でもあるロッシー小川エグゼクティブプロデューサーに契約解除が言い渡されたのだ。これは契約満了を待たずしての通告であった。みずからが旗揚げした団体の13周年記念大会。小川氏に契約解除が告げられたのが、岡田氏を紹介されたエディオンアリーナというのも奇遇である。

かねてから小川氏の退団は噂レベルで広がっており、実際、1月の高田馬場大会で選手・スタッフには報告されていたという。が、具体的な日にちまでは明らかにされておらず、もちろんその時点で公式な発表はない。ではなぜ、2月4日の記念大会で契約解除が通告され、その決定はいつなされたのか。岡田氏に話を聞いた。

「(2・4大阪を選んだのは)大会前、1週間を切ってからですね。ブシロードファイトならびにブシロードグループの取締役の判断などから最終的にそうしましょうとなりました。大会後に告げたのは、まずは試合が終わる前に選手に影響を与えたくなかった。が、できるだけ早くこの流れを止めたいということで、終了直後という選択を取らせていただきました」


©STARDOM

 岡田社長個人の考えとしては、小川氏と一緒にスターダムをやっていきたいとの思いがあった。その気持ちは最後の最後まで強かったと言っていい。岡田氏は社長就任決定後、まずは昨年11・18大阪大会に足を運んだ。会見や会場でのスピーチを前に、団体関係者や選手にあいさつをおこなったのだが、これが、お互い初対面だったという。

「そのときから小川さんがスターダムをやめたいと考えているというお話は伺っておりました。体調がすぐれないのでやめたいと。と同時に、現場への不満が燃え上がっているという認識もしました。ビックリしたというよりは、そこまで(問題が深刻化)いっているんだなという感じでした。でも、変えていくことでもう一度しっかりやっていける。そうなることを(社長として)任されていると思っているので、そのためにやっていこうと。ただ、経営者としては万一の事態、たとえば小川さんが本当にやめる選択肢を取ったときにどうするのか。個人の気持ちとしては一緒にやりたい。たとえば、やめたとしても勇退していただいてビッグマッチで名誉プレゼンターとして上がっていただくとか。それでも、女子プロ界の重鎮がいなくなることへのリスクヘッジは考えておかないといけないですから、(個人と経営者)ふたつの考えがありましたね」


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 その後、大会のたびに両氏は会場で顔を合わせていたはず。岡田社長が積極的に会場に出向き、選手やスタッフとのコミュニケーションをはかっている様子が見えたからだ。大阪大会前日の京都大会でも開場前、客席で話をしているふたりの姿があった。

 しかし、小川氏の決意は揺るがなかった。結果、契約解除が言い渡され、小川氏はスターダムから去ってしまった。「多数のスターダム所属選手・スタッフに対する引抜き行為」がその理由。小川氏自身は「べつに引き抜きとかじゃなくて、(選手やスタッフに)自分はやめるんだと告げて、また新しくやってみたいということを言っただけ。おそらく、私とやりたいという選手が(会社の)想定以上にたくさん出ちゃったんですよ。だから慌てて面談して引き留めたんじゃないですかね」と言うものの、それがスターダムでの“勤務中”の出来事となれば、会社としては問題視しないわけにはいかないだろう。


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 小川氏解任後は、岡田社長がEPの役職もしばらく兼任することとなる。立て直しのために託された仕事に加え、EPの役割まで。大変な時期に社長になったものだと考えるのが普通だろう。

「そうですね(苦笑)。話には聞いていましたけど、(小川氏の話から)ここまでよい状態ではなかったのだと再認識させられました。これは大変だなと。ただ、なんとかなるんじゃないかとも思ってました。そんななかでEPも兼任となり、それは本当にまさかでした。マッチメークであり、渉外であったり、どういう大会にしていくかのテーマを考えたり。その前からリスクヘッジは考えながらやっていましたが、あらためてやるしかないなと思っています」

 社長就任から3カ月、そして、EPの立場も兼任して1カ月。いま、岡田社長はどんな思いでスターダムの現場と向き合っているのだろうか。

「正直、かなり大変だなというところはあります。が、選手に存分なパフォーマンスを発揮していただくための土台作りが自分の役割。選手たちが作っていくもの、選手たちが進んでいるものの道をサポートしてあげて、その方向をちゃんと整備してあげる。いま、選手のみなさんのモチベーションがひじょうに高いので、逆に選手たちに引っ張られながら道を整備している状態ですね」


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 選手たちの特性を最大限に活かし、もっとも輝ける場にするにはどうしたらいいのか。その姿勢はブシロード体制になってから一貫している。が、現場と運営の間に意識のズレがあったことは否めない。できる限り現場に出向き、問題点を改善していこう。そんな気持ちが、日々の大会に視線を送る岡田社長の姿からは見てとれる。

「選手たちのやりたいことは聞くし、やりたいことが会社の業績、目指すものに合っていれば、かなえる。方向が違うならば、修正するためのサポートが必要だと思っています。いままでは小川さんが強烈なリーダーシップ、カリスマ性で引っ張り、それに選手たちがついていった。それを会社がちょっと離れたところから見ていたのかなというのは実際のところですね。いままでは、会社としてプロレスのコンテンツにタッチできる体制が弱かったのだと思います」


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 実際、運営側が売上至上主義であったことは否定できない。これによってスターダムは名を上げてきたのもまた事実なのだが…。

「そうですね。よく言えば、女子プロ界でのステータスを上げるためにまずは売り上げを作らなければならなかった。急激な成長が絶対に必要だったんです。ただ、成長ばかりを考え、そこ(現場)に対してのサポートやケアが足りなかったのだと思います」

 ブシロード体制移行後、戦略発表会と題した会見などでは「〇倍」「何百パーセントアップ」などの言葉が飛び交った。成長するのはいいこととはいえ、数字ばかりが強調される発表ごとに違和感をおぼえたのもまた事実…。双方のバランス。そこを託されたのが36歳 の若き社長、岡田氏なのだろう。


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 大のプロレス好きでもある岡田社長は、新日本プロレスの12年10・8両国でブシロードへの入社を決意した。この大会(白川未奈の初プロレス観戦!)でブシロードがカードゲーム「キングオブプロレスリング」を先行発売。みずから販売していた木谷高明オーナーの姿に感銘を受け、「こんなにおもしろい社長の会社で働いてみたい!」と履歴書を書き、入社を果たしたのだという。

 スターダムに来る前の岡田氏は、ブシロード体制発表とほぼ同時期に傘下となった劇団飛行船で社長を務めていた。飛行船ではコロナ禍からの立て直しを任され、アニメ『探偵オペラ ミルキィホームズ』でメディアミックスプロジェクトを担当。また、プロレスともかかわりがあり、新日本ともブシロードのイベントで仕事をしたり、スターダムの入場テーマ曲や、中野たむ&なつぽいのメルティア、5月公開の映画『家出レスラー』をプロデュース。プロレス団体での仕事は、ライブエンターテインメントの経験と併せ、ある意味希望がかなったこととなる。

「飛行船の社長を下りるときは作業の途中だったので後ろ髪を引かれる思いもありました。が、スターダムの状況を聞いて、じゃあやってやろうじゃないか!と、覚悟を決めました」


写真:新井宏

 スターダムでは、毎年3月末が契約更改の時期。実際のところ、「退団の意思を示している選手は(複数名)います」とのことだが、そこを最後に「ネガティブな話題ではなく、スターダムが一番おもしろいと、選手たちと一緒に自信を持って言える団体にしていきたい」とのこと。プロレスにスキャンダルはつきもので、そこが話題になるのも理解できる。が、時代は令和。世の中的にもそういった昭和的なやり方にピリオドを打つことも必要なのだろう。実際、そうなっている。

「そこにジャンルとして大きくなりきれなかったところがあると思うんですよね。やったもん勝ちというか。しかしそういったものって、世の中のビジネスでは通用しないんですよ。分裂して小さくなるのであれば意味がない。やっぱり時代に合わせてというか、世の中の人がちゃんと受け入れられる状態にしないといけない。おかしなことやってると、誰も寄り付かなくなってしまう事態だけは避けたいなと思います」


写真:新井宏

 創始者が団体を離脱するのはいまに始まったことではない。かつてはアントニオ猪木さんの新日本、ウルティモ・ドラゴンの闘龍門ジャパン(現DRAGON GATE)、女子ではさくらえみのアイスリボン。しかしながらこれらの団体は、創始者が去ったあとも選手・スタッフの努力により、さらなるスケールアップに成功した。離脱した者は離脱した者で、新たなる道で結果を残している。そして今回のスターダム。偶然にも筆者はこのなかの3団体で直接現場に居合わせることとなった。今後、スターダムはどのようにして選手たちが光り輝く場を提供、選手たちがどう応えていくのか、期待して見守りたい。

インタビュアー:新井宏

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