引退発表の東京女子・角田奈穂、3・31両国で元AKB48湯本亜美とタッグ。プロレスと演劇をつなぐ二刀流の集大成!
写真:新井宏
東京女子プロレスにレギュラー参戦、舞台俳優としても活動する角田奈穂が3月13日に会見をおこない、7月でのプロレス引退を発表、舞台の方はすでに決まっている出演作を最後に、年内でそちらの活動にも区切りをつけるとした。
「突然の発表でビックリした方も多いと思いますが、私の中ではいきなりじゃなかったんですね。4年くらい前から、あと1~2年かなとか、ずっと考えてはいたんです。でも、ベルトが取れていないし、レスラーとしての目標が達成できていない。取れないままだったらどうしよう…と悩んでて。そんな中でようやくプリンセスタッグ王座が取れ、自分の人生で次にやりたいことが明確にできて、そこに向かっていくのはいまかなと思ったのが昨年だったんです。それで、人前に出る仕事、プロレスも舞台も一区切りをつけようと決めました」
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7月としたのは、団体の流れを考えてこそ。3月31日には両国国技館でのビッグマッチがあり、夏には恒例の「東京プリンセスカップ」が開催されるだろう。シングルリーグ戦に集中してほしいという配慮が、いかにも彼女らしい。
ゴールを設定できたのも、「昨年の充実があったから」。プロレスと演劇の二刀流。デビュー以来、ずっとそのふたつを両立させてきた。
「5月で(プロレスキャリア)9年になるんですけど、実は昨年が一番濃かったんですね。コロナ禍が明けて海外遠征もできるようになり、それこそアメリカから帰ってきたのが舞台の最終稽古前日とか。正直ものすごく忙しかったけど、二足の草鞋を履くのが自分に誇りを持てるところでもあるし、やる意味は絶対にあったと思うんですよ」
写真提供:東京女子プロレス
二刀流をこなしつつ、プロレスはプロレス、舞台は舞台で割り切って動いている。人前でパフォーマンスするのは同じだが、まったくの別物と考えている。では角田自身、どんなところに違いと共通点を感じているのか。
「どっちが緊張するかとなったら、プロレスの方が断然緊張します(笑)。もちろん演劇も緊張はしますし、セリフを忘れたらどうしようという不安もあります。でも、演劇の方は繰り返し同じ稽古をやって染みついた状態で舞台に上がるので、頭で考えるよりも口が動いているというか、ヤバいと思った瞬間でも自然にセリフが出ていたりするんですよね。でも、プロレスはその瞬間ですべてが違うので、舞台とはまったく別です。舞台の稽古とプロレスの練習、人前に立つのは同じでも、かける時間がまったく異なります。共通するのは、見ている人を惹きつけたいとか、応援されたいという気持ちの部分ですかね。それは、どちらにもあると思います」
プロレス会場への移動時間で台本を読んだりして時間を有効活用。試合後に稽古に直行する場合もある。が、会場内では舞台のことは頭から離れるとのこと。「脳みそを切り替えながら」やってきた9年間だった。
写真提供:東京女子プロレス
ひとつの目標としていたベルトには昨年10月9日、乃蒼ヒカリとのふりーWiFiでプリンセスタッグ王座を獲得した。これが角田にとって初のタイトル。シングルには21年4月にインターナショナルプリンセス、23年4月にプリンセス・オブ・プリンセス王座に挑むも、いずれも奪取には至っていない。
「シングルのベルトが取れていないことが心残りかといえば、そういうことはあまりないんです。瑞希さんとのプリプリ王座戦が私の中ではものすごく大きくて、負けて悔しいけど得たものが多かった。残り4カ月で衝動的に『もう一度!』という気持ちになるかどうかはわからないけど、残りの時間に東京女子でやりたいことがもっとあるんですよね。タッグの方も、私は(乃蒼欠場で返上となった時点で)負けたと思ってるので(悔いはない)。タッグのベルトを取るまで、取ったことによってどんな景色が見られるんだろうとずっと考えていたんですよ。でも、取って気づいたのは、お客さんとか後輩たちに何を見せていけるか。王者になって、取ったぞ!やった!楽しい!というより、私たちでどういう景色を見せ、どんなワクワク感を持ってもらえるかだったんです」
写真提供:東京女子プロレス
元AKB48湯本亜美のプロレスデビュー戦
引退ロードを走るうえで団体に出した希望が、「若い子、キャリアの浅い子たちとの試合」だった。これまで実現できなかった夢のカードよりも、団体に何かを残したい、後輩たちに何かを伝えたいとの気持ちが優先なのだろう。元AKB48湯本亜美のプロレスデビュー戦は、次につなげる作業の一環と考えていい。3・31両国でおこなわれる角田&湯本組vs桐生真弥&HIMAWARI組は、角田の二刀流活動から現実のものとなる。
「(湯本とは)昨年12月に舞台で共演しているんですよ。そのとき、(湯本が出演していたテレビドラマ)『豆腐プロレス』の話が出たんですよね。そこでプロレスやってみない?となったわけではなく、私は最初、(東京女子代表の)甲田さんに話をもっていったんです。一緒に(プロレス)できたらいいなという話をして、そこで賛同してもらって亜美ちゃんに連絡をして、マネジャーさんと会社を通じてリングに上がることになりました」
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プロレスと舞台がつなぐ、角田と湯本のタッグ結成。ある意味、二刀流でやってきた彼女の集大成でもあるのだろう、
「プロレスきっかけで私を知ってくれて演劇を見に来てくれる方もいらっしゃるし、演劇からプロレスを知ってもらう方もたくさんいらっしゃいます。今回、演劇とプロレスの縁を作れたので、それこそ両方やってきた意味があると思いますね」
アクトレスガールズでプロレスデビューした角田が東京女子に戦場を移し、プロレスへの愛がより大きくなった。トータル試合数は300超で、東京女子で200を超えた。初期の時代には俳優兼業のプロレスが非難を浴び、悩んだことも多かった。
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「アクトレスのときは、むしろプロレスが嫌いになれたらどれだけいいかとさえ思っていました。試合に行く前は、もうやめたい、この試合でやめようと思ってて、いざリングに上がればやっぱり楽しい、続けたい。そんな思いの繰り返しで、続けてることが苦しかったんですよ。ケガもしたけど結局は好きでやめれらなくて、自分が続けていくにはどうしたらいいかを考えていたときに知ったのが東京女子でした。ここには私の知らないプロレスがあると、キラキラしてる選手を見て感じたんです。入ってからは知らない人ばかりで心細くもあったけど、ここのプロレスを知れたらなんて楽しいんだろうと思えたし、みんなかわいいから女性としての刺激にもなりました。ここで試合をしなかったらそれこそ遊園地プロレスとかできないし、さいたまスーパーアリーナや有明コロシアム、両国国技館のような大会場なんて経験できないと思うんです。こんなにふり幅の大きい経験をさせてもらったので、恩返ししたい気持ちしかない。東京女子には、愛しかないですね!」
写真:新井宏
2年半ほど前だろうか、彼女に話を聞いたとき、「東京女子は私にとって最後の場所。ここを去るのは引退するとき。プロレスと舞台、やめるときは両方やめますね」との話があった。時が経ち、あのときのコメントを伝えると、「ハイ、そこは一度もブレてないです(笑)」。プロレスと舞台を両立させ、やめるときは両方とも。その思いは変わらずやってきた。この一貫性が、かつては普通過ぎると揶揄された彼女にとって最大の個性となったのではないか。
引退は、アクトレスガールズ時代の同期にも伝えた。実際、先に同期の仲間で集まり、その足で引退の意志を団体に伝えたという。いまでは女子プロ界のトップで活躍する同期の仲間。角田には大きな実績こそないものの、役割はまっとうできたと考えている。というのも、角田は角田で最初は公務員となる夢を実現させ、その夢で挫折を味わった。そこから新しい夢を見つけ、プロレスと舞台を両立させてきた。そしてまた、新しい夢に踏み出そうとしているのだ。だから夢はひとつじゃない。その先にもまた夢があるというのが、プロレスを通して伝えたいメッセージだ。「引退を実感し始めて、たまに寂しくなりますよ」と言う彼女だが、7月のラストファイトまで、大好きな東京女子にプロレスへの愛を注いでいく。
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インタビュアー:新井宏
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