新時代の旗手・安齊勇馬に注目 令和の超新星は時代を味方にファンとの約束を守る

【柴田惣一のプロレス現在過去未来】


写真:柴田惣一

安齊勇馬よ、胸を張れ。勝利こそ正義。栄光の三冠ベルトは君の腰にある。

全日本プロレスも新時代の扉が開いた。3・30東京・大田区総合体育館決戦で、安齊は「✖✖スタイル」を掲げる中嶋勝彦から三冠ヘビー級王座を奪取。デビュー1年半の快挙で、24歳10か月の三冠戴冠は最年少記録を塗り替えた。

中嶋の強烈な蹴りを食らい、エルボー合戦にも劣勢。猪木の弓を引くナックルを思い出させる鉄拳パンチもくらった。何度も大の字にダウン。腕を締め上げられギブアップ寸前まで追い込まれた。

「New Period(新時代)」の到来は夢物語か。誰もがそう思ったが、ジャンピング―ニーからのジャーマンスープレックスで3カウント。一瞬の虚を突く大逆転勝利だった。

ただ、それまでの中嶋の猛攻がすさまじく、茫然自失の中嶋と同様、ファンも何が起こったのか、瞬時には理解できなかったようだ。しばらくして拍手と歓声が沸きはじめ、ついに新時代の扉をこじ開けた安齊へのコールが起こる。


写真:伊藤ミチタカ

安齊は「今までで一番頼りにならないチャンピオン、不安なチャンピオンかも。これから俺が時代をつくる、って格好いいことを言ったら、みんな首をかしげるかも知れない」と何とも正直な弁。微妙な空気を感じ取っていた。

2012年2月のレインメーカー・ショックもそうだった。人気、実力ともに全盛期にあったIWGP王者・棚橋弘至を下し、オカダ・カズチカが新たな風を呼び込んだが、ファンの反応は正直、今一つだった。それでもオカダは一歩一歩、ファイトを積み重ね、着実にファンを納得させていった。

元より棚橋の決め台詞「愛してまーす!」も初めは失笑だった。小島聡の「いっちゃうぞ! バカヤロー」も当初は「どこに行くんだ! バカ」とヤジられていた。歴代の勇者たちも簡単にファンの支持を得たわけではない。

安齊も今後に向け「このベルトとともに成長して揺るぎないエースになってみせます」と前向きコメントを発している。

昭和の時代は「プロレスはキャリアのスポーツ」と言われていたが、令和のプロレス界では若手選手もチャンスをもらい、活かした選手は一気にトップ選手にのし上がっている。「チャンスの神様は前髪しかない」という。一瞬で通り過ぎるからシッカリつかみ取れという訓示だろう。安齊はそのチャンスをものにしたのだ。

立場が人を作る。貫禄も出る。デビューから急成長してきたが、今後も日進月歩で進化して行くだろう。その過程を見られるのは嬉しい限り。


写真:伊藤ミチタカ

安齊は「約束」という言葉をよく口にする。大人の社会では約束は守られないことが多いが「俺が三冠ベルトを取り返す」というファンとの約束をきっちりと守った。

現在のマット界を象徴する「令和の超新星」と言っていいだろう。二週に一度は美容院に通い、おしゃれな街、渋谷や下北沢をホームタウンとしている。普段着も今どきの若者そのもの。男性ファッション誌の表紙モデルを目指しているというのもうなずける。

当初は闘魂スタイルを掲げていた中嶋の侵攻に、この数か月、様々な意見に包まれていた全日本マット。会場からの帰途「本当に良かった」「今日、安齊が取れなかったら、全日本ファンを辞めようと思っていた」という声を聞いた。

無論「まだ早い」「経験値が足りない」という意見も多い。それを乗り越えてこそスターになれる。全日本プロレスの軌道修正を任されることになった、新時代のエース・安齊勇馬。楽しいお酒の席も好きだが、チョコバナナパフェが大好物という、まさに令和の若武者の前途に幸あれ。


写真:柴田惣一

▼柴田惣一のプロレス現在過去未来(バックナンバー)
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