「制御不能」内藤哲也が「新時代の旗手」辻陽太の野望を粉砕 世代交代ならず

【柴田惣一のプロレス現在過去未来】


写真・根本桂奈

「制御不能」IWGP世界ヘビー級王者・内藤哲也がNJC杯優勝・辻陽太の挑戦を退け、世代交代の野望を打ち砕いた。

8年前には初戴冠したIWGPヘビー級王座のベルトを高々と放り投げた内藤。今年の4・6東京・両国国技館大会では、勝利者賞を渡そうとした親会社の社長に唾を吐きかけ、リングから叩き落してしまった。


写真・根本桂奈

まさに制御不能。辻が憧れた内藤の真骨頂だったが、内藤は「もう文句のつけようがないトップの一角。新しい新日本プロレスの力、新しい選手の壁となって立ちふさがる、この状況が嬉しくもある」と辻を認めた。

何度も内藤を追い詰めた辻は「俺は新日本を背負っていかなくてはいけない。今日負けたなら、今日倒れたなら、また立ち上がる。それを見せるのがプロレスラー。今日はまだ運命が俺に振り向かなかっただけだ」と悔しさをにじませながらも、しっかりと前を向いた。


写真・根本桂奈

勝者も敗者も感情をストレートに訴えるだけではなく含蓄のあるコメント。同じロス・インゴベルナブレス・デ・ハポンのメンバーであること以上に共通点を感じる。辻は棚橋弘至、オカダ・カズチカではなく内藤の後継者なのだ。

ともに、どちらかと言えば、昭和のレスラーをほうふつさせる出で立ちである。それでも内藤は、イケメンで長身、類まれなる運動能力を誇ったオカダをファンの支持率で常に上回り、棚橋と人気ナンバー1を競い合ってきた。

プロレスラーの魅力は外面だけではない。人間力であり発信力も大切な要素。ファンは自分の人生をレスラーに重ねて感情移入する。内藤は新日本プロレスという体制に、過激な言葉ではなく論理的に反発し、ファンの共感を集めた。

あくまでクールだが、内容はホットで的確。的を射た指摘は平成の時代にピタリとはまった。内藤がマイクを握ると「今度は何を言い出すのだろう」「次のターゲットは何だ」とわくわくしたものだ。

辻はまさに内藤に匹敵する論客だった。いつもの不敵な笑みを封印し、少しばかり甲高い声で訴える。詩を愛し、矢沢永吉の生み出す歌詞、インタビューから、気になるフレーズをメモし、自分の言葉を生み出している。待望の新エース候補はこの男。頷くしかなかった。

折しも全日本プロレスの三冠王者には安齊勇馬が君臨した。イケメンの長身。入門時から期待を集め、デビュー1年半、24歳にして王道マットの頂点に昇り詰めた。

プロレスはキャリアのスポーツ、という定説をものの見事に覆したが無論、厳しい声も多い。安齊本人も承知しているが「約束を守ります」というフレーズは、さわやかな出で立ちとマッチ。現在の若者世代のハートをガッチリと掴みつつある。

ノアではイケメン論客ジェイク・リーが人気を集めている。GHCヘビー級王座奪還には失敗したが、冷静に場の空気を読み、ファンの気持ちを代弁するマイクは特筆もの。拳王の俺様節と対極をなしており、二人の発信力はノアの魅力そのものだ。

日本マット界で新日本プロレスは図抜けた人気を誇っている。全日本プロレスとノアは、追いつけ、追い越せ、とばかり新時代に一歩を踏み出している。

新日本プロレスでは辻がNJC杯を制し、新時代を呼び込んだが、一気にIWGP王座奪取とはいかなかった。

もっともいつの時代も新時代の扉は重く簡単には動かない。鶴藤長天(ジャンボ鶴田、藤波辰爾、長州力、天龍源一郎)はBIことジャイアント馬場、アントニオ猪木の高くて厚い壁に悩み苦しみ、闘魂三銃士(武藤敬司、蝶野正洋、橋本真也)や四天王(三沢晴光、川田利明、田上明、小橋建太)も、何度も跳ね返され、やっとの思いで時代をつかみ取った。

今回ベルトには手が届かなかった辻だが、こんなことでへこたれるような男ではない。心も体も強い。経験を積めばさらに強くなるだろう。海野翔太、上村優也、成田蓮らも負けてはいまい。新日本プロレスの次代を担う男たちの奮闘に期待し、しっかりと見届けたい。(文中敬称略)

▼柴田惣一のプロレス現在過去未来(バックナンバー)
https://proresu-today.com/archives/author/shibata-souichi/

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