スターダムとマリーゴールドを往来するSareee「闘いたい相手がいるリングに行くだけ」

【WEEKEND女子プロレス♯14】


「写真提供:Sareee-ISM(ペペ田中)」

女子プロレス界の盟主スターダムを退団した選手を中心とした新団体マリーゴールドが、5月20日に後楽園ホールで旗揚げ戦をおこなった。ここでメインに登場し、マリーゴールドのツートップであるジュリア&林下詩美と対戦したのが、元WWEで現在フリーのSareeeである。

Sareeeは、両者とも念願だったジュリアと約5年ぶりの対戦で、しかもみずからの手で勝利を飾ってみせた。その前にはスターダムの4・27横浜BUNTAIで岩谷麻優の保持するIWGP女子王座に挑戦している。両団体の関係性を考えれば、選手の行き来はあり得ない。スターダムとマリーゴールド、両団体に参戦できる唯一の存在がSareeeと言っていいのだろう。

Sareeeのデビューは、2011年のディアナ旗揚げ戦だった。当時のディアナでは15歳のSareeeが唯一の新人レスラー。同じ年にはスターダムが旗揚げしており、若い選手を中心にしたこちらの方に話題は集中。

「あっちは人数が多くて若手がいっぱいいて。私はひとりでやってたんですけど、やっぱり気になりましたよね」

 大ベテランの壁に跳ね返されるばかりの毎日。それが現在では強さの源になっているとはいえ、当時は団体の中でも外でも悔しい思いを抱き続けていた。そんな時期に気になったのが、スターダムの世IV虎(当時)だった。

「強くて目立ってたのが世IV虎でしたね。なので、まずは世IV虎に目がいきました。世IV虎と闘いたいなって」

 世IV虎とは後にライバルとなり、「鬼に金棒」と呼ばれるタッグも組んだ。世IV虎と闘い始めた頃、岩谷はまだ眼中に入っていなかったと言っていい。

「気がついたらスターダムには同期が岩谷しかいなくなってました。その岩谷が赤いベルト(ワールド・オブ・スターダム王座)を巻くようになって、意識し始めたんだと思います。これは絶対にやりたいと思いましたね」

 19年12月のSareee自主興行で、岩谷との初遭遇が実現した。タッグマッチで対戦し、試合は20分時間切れ引き分け。このときは岩谷が赤いベルトの王者で、SareeeがWWWD世界シングル王者。ともに団体トップのチャンピオンとしての激突であり、試合後には当然、一騎打ちの機運が高まった。

 実際、両者のシングルはすぐにおこなわれるはずだった。20年2・8後楽園での赤いベルト戦が発表されたのだ。が、直前になって中止。Sareeeが「急性腸炎および感冒による発熱」のため欠場となったのだ。が、これを機に岩谷には疑念が残った。このとき何があったのか、Sareeeはこのように当時を振り返る。

「試合の4日くらい前だと思うんですけど、体調不良から急性腸炎との診断をうけて、診断書も出してもらいました。感染の可能性があるとのことで、私はそれ(試合に出られないこと)を言っていたんですけど…」

 しかし、団体側の発表は直前になってから。なんらかの行き違いがあったようだが、当時はちょうど新型コロナウイルスの感染拡大が懸念され人々が敏感になっていたとき。「感染の可能性があるなら迷惑はかけられない」と欠場の決断を下したSareeeには、後悔がずっと尾を引いていたという。

「その思いはアメリカに行ってからも引きずっていましたね。岩谷とは自分もやりたかったし、ファンの人も楽しみにしてた。穴をあけてしまったのは本当に申し訳なかったし、これは絶対にやらなければならない。岩谷との試合を日本に置いてきてしまった思いがあったので、帰国したら復帰一発目でやりたい。橋本千紘と同じくらいのレベルでやりたい選手でした」


「写真提供:Sareee-ISM(ペペ田中)」

 23年5月に橋本と日本復帰戦をおこない、今年1月にシングルで勝利。ならば次は岩谷となるのだろう。しかし、どうしたら再会できるかわからない。そんな頃に飛び込んできたのが“親友”なつぽいからの連絡。負傷欠場からの復帰戦に力を貸してほしいという申し出だ。

「親友の頼みを断るわけにはいかないし、私だってやりたい。なので、すぐにOKを出させてもらいました」

 これにより、待望のスターダム初参戦が実現した。3・9横浜武道館でライバル橋本と組んで、安納サオリ&なつぽい組と対戦。試合に勝ったSareeeには、スターダム参戦と同時に、もうひとつの目的があった。その答えは明らかだろう。

「岩谷がいるリングで行かないってないよなと思いましたね。参戦が決まったときから、何らかのアクションを起こそうと思っていました」


「写真提供:Sareee-ISM(ペペ田中)」

 岩谷の前に立ち、対戦をアピールしたSareee。しかも岩谷はIWGP女子王者だ。ベルトこそ別になったとはいえ、IWGPの名称によって、よりいっそうSareeeの血が騒いだのである。

「私が日本に帰ってきた頃にちょうどあのベルトができて、絶対にほしいと思ったんです。IWGPと言ったら(アントニオ)猪木さん。アメリカ行く前に対談させていただく機会があって、すごくアドバイスをいただきました。父が猪木さんの大ファンで、小さい頃から私にも近く感じられる方だったんですよね。それもあって絶対に巻きたいと思ったし、岩谷が持ってるなんて、運命的じゃないですか!」

 そして実現した岩谷とのIWGP女子王座戦。試合が始まるまでは岩谷の揺れる心に不安を抱いていたものの、闘ってみると両者とも最高のライバルと認め合った。と同時に、敗れたSareeeには「岩谷からIWGPのベルトを取る」との思いがより大きくなったのだ。

「やっぱり岩谷ってさすがだなって。自分も岩谷もなかなか上に行けなかったけど、やめずに続けてきた。あきらめなかったからいまの私たちがいると思うんですよ。あきらめずにやり続ける。それが一番強いんだなって思いましたね!」


「写真提供:Sareee-ISM(ペペ田中)」

 またひとり最高のライバルを発見し、岩谷へのリベンジという課題も生まれた。このつづきはまた後日として、次はSareee、ジュリアとも熱望し続けた闘いだ。

 両者の出会いは19年6月の「田中稔デビュー25周年記念大会」。田中の妻・府川唯未がプロデュースした試合で、Sareeeとジュリアがシングルで闘ったのだ。ディアナの王者Sareeeにアイスリボンのジュリアが胸を借りる図式である。

「やってみて、アイスリボンにもこんなにガッツのある、ガツガツくる選手がいるんだと驚きました。若手とやる感覚じゃなく、ムキになってやり合えた。将来すごい選手になるんだろうなっていう印象が残りましたね」


「写真提供:Sareee-ISM(ペペ田中)」

 ジュリアがアイスリボンからスターダムに電撃移籍した際にも、Sareeeは大胆な登場に衝撃を受けたという。初対面からわずか4カ月後の出来事だ。

「あのやり方が悪かったのかよかったのかはわかりません。でも、変わりたい、殻を破りたいって意欲を行動に移したのがすごい。なので、心の中ではジュリア行け!って言ってましたよ(笑)」

 とはいえ、当時はまだ対戦の意識はなかった。意識し始めたのはジュリアの活躍をアメリカで伝え聞くようになってからだ。

「あのときのジュリアが女子プロ界をリードし、すごいことになってる。それから、闘ってみたいと思うようになりましたね」

「目立つ選手と闘いたい」というのがプロレスラーSareeeのモチベーションなのだろう。Sareeeだけではない。しだいにジュリアもSareeeとの闘いを意識する発言が増えてきた。もちろん、Sareeeはスターダムでの再会を期待していた。そうなると思っていた。ところが、ジュリアの退団により、新団体で実現することに。

「スターダムでやるものだと思っていたので、そこはビックリしたところですね。でも私は、闘いたい相手がいるリングに行くだけなので。場所がスターダムであろうがマリーゴールドであろうが、どこでもいいんですよ。(団体の事情とか)まったくわからないけど、私はプロレス界の歴史に残るような闘いをやっていきたいんです」


「写真提供:Sareee-ISM(ペペ田中)」

 両者の高まる思いがピークに達したところで迎えたマリーゴールド旗揚げ戦は、Sareeeが初来日のボジラと組んでジュリアから直接勝利を挙げてみせた。ボジラとは初対面だったものの、そういった選手とタッグを組むのはWWEで数多く経験してきただけに戸惑いはなかったという。詩美との初遭遇も刺激的だった。そして、7・13両国国技館での「ジュリアvsSareee」も決定した。しかし、ジュリアがその試合で右手を負傷。しばらく欠場することに。一騎打ちに暗雲が立ち込める…。

「前哨戦なんて要らないと思ってます。それはいいから、万全な状態にして戻ってこいと。そうじゃないと意味がないですからね」


「写真提供:Sareee-ISM(ペペ田中)」

 7・13両国のあとには自主興行「Sareee-ISM」も待っている。しかも7・29&9・2(ともに新宿FACE)の2大会が一度に発表されたのだ。自主興行は過去3回開催。そのすべてで超満員札止めを記録してきた。そんなSareeeが自主興行にかける思いとは…。

「全部、私自身が動いてやるので大変ではあるけど、私自身のカードだけじゃなく、ほかのカードもプロデュースするので、私の見せたいプロレスが見せられるんですよ。なので、すごく楽しいし、やりがいがありますね。今年の夏は、『Sareee―ISM」でみなさんに最高の思い出を作ってもらえるようなドリームな闘いを見せたいと思っています!」

岩谷に負けたままでは終われない。ジュリアとは決着をつけたい。橋本、彩羽匠も最高のライバルだ。また、最大のライバルのひとり、中島安里紗が8月で引退する。その中島からSEAdLINNNGのシングル王座を奪ったのがSareee(6・12新宿で神姫楽ミサと2度目の防衛戦)。

アフター両国の自主興行をSareeeがどんな状況で迎えるのか、大きな期待とともに注目される。

インタビュアー:新井宏

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