スターダム玖麗さやか「自分の思いを表現する」美術とプロレスの共通点
「写真提供:スターダム」
現在の玖麗に課せられている役割は、タッグリーグ戦だ。中野とのコンビで出場し、11・24郡山終了時点で3勝3敗。開始当初は出遅れたものの、直近の2試合で連勝、逆転優勝に望みをつないだ。しかも、どちらも玖麗によるフォール勝ちだ。中野とのタッグを、玖麗はこのようにとらえている。
「デビュー1年未満の私が赤いベルトの王者と組ませてもらえるなんてすごくありがたいいですけど、最初の頃は足を引っ張らないようにすることばかり意識していました。でも、たむさんと練習したり話す機会がさらに増えていくうちに、足を引っ張らないようにじゃなくて、自分は対等なタッグパートナーとしてやらせてもらってるんだから、たむさんのおかげで勝つんじゃなくて、自分が勝ちにいきたいと思うようになっていきました。このリーグ戦を通じて、玖麗が変わったなって思われるようになりたいです」
その思いが実を結んだ2連勝。とはいえ、まだまだこれから。残り公式戦はあと2試合。ほかのチームの動向にもよるが、11・30下野の岩谷麻優&向後桃組、12・1上越の舞華&HANAKO組に勝てば、12・7&8浜松での決勝トーナメントが見えてくる。
初めてのリーグ戦出場というビッグチャンス。そこで勝つためにも強くなりたい。玖麗は、本気でそう思っている。
「自分はスポーツ経験もないし、なんのバックボーンもない。ホントにただの一般女性でした。だからこそ、そんな自分が成り上がるところを見てもらいたいし、自分のプロレスから希望というか、普通の人でもがんばればこんなに変われるんだと思ってもらえるレスラーになりたい。そのためにも、もっともっと強くなりたいんですよね。なんでも強くないと説得力ないじゃないですか。自分がプロレスラーにあこがれたように、私も他人の人生を変えられるようなレスラーになりたいです」
美術からプロレスへの方向転換。あの日に見たプロレスが玖麗の運命を変えた。と同時に、油絵は今後も描き続けていきたい。まったく正反対に思えるが、玖麗はいま、美術とプロレスに共通点を見出しているという。
「プロレスって、自分の気持ちをリング上で表現するものじゃないですか。絵画でも自分の内面が出るし、自分の世界を表現するものなんですよね。絵とかも個性とかオリジナリティー、自分の気持ちがすごく大事だと思っていて。もちろん、プロレスも絵も技術ありきですけど、自分を表現する点においてはすごく似てると思います。自分のスタイルや思い、気持ちをキャンバスにぶつけるか、リングでの対戦相手にぶつけるかの違いで、ほかはけっこう似てると思いますね」
「写真提供:スターダム」
たとえば、彼女がデビュー戦から使っているスピアは現在、「ときめきスピア」と呼ばれ、ニックネームにもなっている。相手に向け突進し全身を頭からぶつけていくこの技に、劣等感を含む思いを乗せているのだ。
「練習生になった頃、格闘技系の動きがまったくできなかったんです。パワーもないし、体格も普通じゃないですか。そんな私にできるのはなんだろう? どんどんまわりに置いていかれるなかで、それでも負けん気とか根性はけっこうあるんじゃないかと気づいたんですね。そんな自分だからこそ、気持ちと勢いで向かっていく技がいいと思って練習したのが、スピアでした」
スピアを出すタイミングやキレのよさに、秘められたセンスが感じられる。玖麗さやか、これからを大いに期待させる選手のひとりだ。
インタビュアー:新井宏