ディアナ香藤満月「プロレスはコンプレックスを長所に代える」
井上京子率いるワールド女子プロレス・ディアナ。2011年の旗揚げからしばらくはベテランと若手のキャリア差が大きく、若い選手はSareeeのみというような状況が続く時代もあった。が、ここ数年で何人もの新人選手がデビューし、さまざまなタイプのレスラーがリングに上がるようになってきた。隔世の感さえある充実ぶりだ。
昨年度の『東京スポーツ新聞社制定プロレス大賞』で女子プロレス大賞を受賞した元所属のSareeeは、あの時代にあってディアナの希望を一身に背負っていた。京子のリングで基礎を固め、あの打たれ強さとともに、トップの地位を築いたのである。
現在、ポストSareeeとして彼女を継ぐような選手として挙げたいのが梅咲遥であり、それに続く若手にも期待したい。そのなかのひとりが、今回紹介する香藤満月(かとう・みづき)だ。
「写真提供:ワールド女子プロレス・ディアナ」
現在26歳の香藤は、昨年10・8後楽園ホールでデビューを果たした。すでに100試合以上こなしており、数々の団体に参戦。一度見たら絶対に記憶に残ると言っていいキャラクターの持ち主だ。
身長156センチで体重96キロ。かつては個性的な体型にコンプレックスを抱いていた彼女だが、いまではそれが大きな武器と認識している。入門当初から「長所にしてやろう」と考えていたというのだ。コンプレックスを個性、長所に代えられる場所を、プロレスのリングに見たのである。
プロレスを知ったのは、コロナ禍。18歳で日本料理店に弟子入りし懐石料理の板前として働いていたのだが、新型コロナウイルスの影響で休業をしいられ、家に閉じこもるようになってしまった。「携帯をいじるしかない」時間を過ごしているなかで、偶然目にしたのが、プロレス。それが女子プロレスであり、スターダムの映像だった。
「なんか面白いことやってると思って、プロレスを見るようになりました。それがスターダムさんで、1年後くらいに名古屋で大会があったんですね。以来、名古屋で試合があるときは見に行くようになりました。一番印象的だったのが、中野たむさんとなつぽいさんの金網マッチ(22年6・26名古屋国際会議場)。煽りのVTRからすごくて絶対に見たいと思い、2列目くらいで見ました。女子同士のドロドロした感情とか、あれ見て感動しちゃって、すごい虜になって、やりたいと思っちゃったんですよね! グッズもメチャクチャ買って、あの頃はただのプオタでしたけど(笑)」
金網マッチからプロレスラーになる夢を抱き、スターダムのオーディションに応募した。が、結果は不合格…。
「愛知県体育館での試合のときに実技審査を受けました。でも、落ちてしまって。それでもそのときは悔しいというよりも、経験できてよかったなくらいの気持ちでしたね」
昼は事務職、夜はプロレスバーで働いていたある日、ディアナのスタッフが勤務先のプロレスバーにやってきた。そこで「練習来ない?」と声をかけられた。
「私がオーディションを受けたのを知ってくださっていたんだと思います。そのとき『ハイ!』と答えて、高速バスで名古屋から川崎に出てきました。練習の見学というか、練習体験ですよね。そのとき、『京子さんにひとりで会いに行って』と言われて、京子さんのお店、あかゆに行きました。そこで京子さんが『いつこっちに引っ越してくるの?』って。(ディアナに)入ることが前提なんだ、そういう話になってるんだと思ったんですけど、いい機会だし、やってみようと思いました。それから3、4カ月、週に2回、名古屋から川崎まで練習に通ったんです」
「写真提供:ワールド女子プロレス・ディアナ」
その後、仕事をやめてから入寮、正式に練習生となった。しばらくすると、練習方法がガラリと変わった。プロをめざす、プロの心構えを知る練習にシフトチェンジしたのだ。
「最初は、優しく時間をかけて『さあ、やってみよう』みたいな感じだったんですね。それがプロテストを控え、プロになるための練習に切り替わりました。私は中学の3年間で柔道をやっていたんですけど、そこから10年間は運動していなかったので、ついていくのに必死でした。また、練習中に笑ったら、歯を見せて練習するものじゃないと教わったり。求められることが変わったと感じましたね。最初は『やってみよう』だったのが、これができないと先には進めない、プロにはなれないというふうに変わったんです」
この時期、一緒に練習する仲間たちがいた。彼女を含めて5人の練習生がデビューをめざしていた。そのなかで香藤は年上の存在。そこがまたプレッシャーにもなった。
「佐藤綾子さんが毎日3時間くらい練習をみてくれて、仕事して、夜にまた道場に来て筋トレしないと不安でしょうがなかったです」