裏すぎるイッテンヨンで前代未聞の新団体VENUS旗揚げも、今後は白紙!?
“100年に一人の逸材”棚橋弘至が引退し、“柔道金メダリスト”ウルフアロンがプロレス転向。新日本プロレスの1・4東京ドーム大会はそのままプロレス界の節目にもなったわけだが、その日、“裏イッテンヨン”とも言える横浜にも、人生の岐路に立つプロレスラーたちがいた。女子プロ新団体「プロレスリングVENUS(ヴィーナス)」が、神奈川・横浜産貿ホールにて旗揚げしたのである。
VENUSとは、アイスリボン全面協力による演劇作品『Venus誕生』から生まれた前代未聞の女子プロ団体。リングを使用しての舞台が昨年5月にスタートし、11月まで全4幕16公演がおこなわれた。
物語は、負傷によって姿を消した、みなみ飛香演じるプロレスラーの如月ひかりが、みずから旗揚げする新団体での復帰を決意。そこにさまざまな事情や背景を持つ女性たちが練習生として集まり、厳しいトレーニングに耐えながらレスラーデビューと団体旗揚げをめざすというものだ。

演劇だからストーリーはフィクションだ。が、この舞台がユニークなのは登場人物のリアルな姿を物語に反映させていく手法。練習生のトレーニングシーンでは、ホンモノのトレーニングが観客の前でおこなわれ、「できた」「できない」で脚本に修正が加えられたりする。また、社長を演じる飛香は復帰をめざしてはいるが、リアルに試合ができるかどうかはリハビリの進捗しだい。さらには、入ってくる者もいれば、去る者もいる。プロレス団体で起こるであろうさまざまな出来事が物語に組み込まれ、ストーリーの進行に伴い出演者のリアルな部分が随時反映されていくのである。
そして、最終幕の11月公演において1・4旗揚げ戦の実現が正式決定。これに合わせて、飛香にもリング復帰へのゴーサインが出た。また、なによりも重要なのは、1・4横浜は演劇ではなく、プロレス興行としての開催だ。純粋に全6試合がマッチメークされ、試合だけで勝負しようというのだ。
そして迎えた裏イッテンヨン。いや、彼女たちにとってはこちらが表のイッテンヨンだ。なにしろ左腕骨折で長期欠場を強いられた飛香には2年3カ月ぶりのリングで、レスラー志望でこのプロジェクトに参加した者や、俳優として作品に出演しレスラーデビューを決心した者もいる。と同時に、今後については何も発表されていない現実も。大会終了後、彼女たちが何を感じるか、選手たちの思いに託されることになりそうなのだ。そこもまたスリリングである。

オープニングの入場式では、社長の飛香がマイクを取った。大会にはあくまでも役名の如月ひかりとして登場しているが、その言葉は飛香の心情そのものだった。
「イッテンヨンVENUS旗揚戦、開幕します。5月から劇団VENUSがはじまって、最終幕も終えて、いや、超えて、VENUS旗揚げ戦ができることがホントにうれしいです。VENUSのみんな、リングがホントに怖いところと思うかもしれないんですけども、それを乗り越えて、私が一番乗り越えて、今日を迎えたいと思っております!」
ここから感極まり、しばらく言葉が出てこなかった。が、意を決して開会宣言。新団体VENUSのゴングが打ち鳴らされたのである。
【試合結果】
第1試合タッグマッチ
優華&●高橋光咲(みさき)(10分9秒、右ハイキック→片エビ固め)夏葵〇&弥福かな
第2試合シングルマッチ
〇ひな(3分53秒、首固め)当麻煌(とうま・ひかる)
第3試合シングルマッチ
●松橋ななを(4分46秒、カカト落とし→片エビ固め)植原ゆきな〇
第4試合アクトレスガールズ提供試合タッグマッチ
〇青葉ちい&摩利乃(10分20秒、バックドロップホールド)永井絵梨沙●&梨央
第5試合シングルマッチ
●海乃月雫(うみの・つきな)(10分53秒、MARUMARUスープレックスホールド)MARU〇
第6試合6人タッグマッチ
如月ひかり(みなみ飛香)&若菜きらり&●伊田惟吹(いだ・いぶき)(13分51秒、120%スクールボーイ)水嶋さくら〇&才原茉莉乃&福永莉子
※レフェリー…タニー・マウス、清水ひかり

写真提供:VENUS
メインはVENUSvsアクトレスガールズの図式で、新団体がプロレスのリングに上がったアクトレス勢に敗れる結果となった。新団体は黒星の船出。それでもエンディングでは、再び社長がマイクを取った。ここでの言葉もまた、如月ひかり以上にみなみ飛香の本心が出てきたものと言っていい。

写真提供:VENUS
「個人の話をすると2年ぶりくらいのプロレスの試合ということで、正直とても怖くなりました。でも、いま試合が終わって、負けてしまったけど、こうしてリングの中央に立ててマイクを握れていることにホントにうれしく思います。そして、デビュー戦のみんながこれからプロレスの道に進むのか、それともこの日で終わってしまうのか、それぞれだと思ってます。私としては5月からずっとがんばってきた演劇を終えて、旗揚げを迎え、とても不思議な気持ちでいます。VENUS、やりたいという人がいたら、私はプロレス(団体を)やりたいです。演劇から始まったかもしれないけど、社長としてやりたい。いずれにしても演劇で出逢ってくれたみんな一人ひとりがそれぞれの人生を考えて、幸せな方向を選んでほしいなって思います。そこにVENUSの経験が活かされるのであれば、それはプロレスを続けていなくても続けてくれても、とても幸せなことです。プロレスに、みなみ飛香に、このリングに出逢ってくれてありがとうございます。とっても不思議な興行だったと思いますが、私はとっても楽しかったです。見届けてくれたみなさま、ホントにホントに、ありがとうございます!」
最後は、選手全員で締めのあいさつ。結果的には、ここでの結論は見送られたようだ。VENUSは団体として続くのか、それとも…。

写真提供:VEN
19年に引退の優華はVENUSの舞台に参加し、VENUSでの復帰を考えていた。が、アイスリボン12・31後楽園で急きょカムバックし、VENUSの選手としてこのリングに上がった(この日の試合後に体調を崩し、医師の診断の結果、当面の間欠場となることが6日に発表された)。アイスリボン所属の海乃と若菜はVENUSの一員として舞台&大会に登場。松橋は今大会に先駆け、GLEATのLIDET UWFで一足早くデビュー。高橋、当麻、ひな、伊田の4人は、この日がプロレスデビュー戦だった。また、希咲(きさき)みなみと直江ミうは、間に合わず。もともとVENUS所属で昨年8月のアイスリボンでの初戦が決まっていた直江は、病気のため延期となり、この日はリングアナとして旗揚げ戦を支えていた。
では、前例のない旗揚げ戦の主役となった飛香は、演劇の延長で実現し、演劇から離れたプロレス興行に何を感じたのだろうか。ここで彼女の話を聞こう。
「いまはもう、乗り越えたという気持ちです。でも、これが復帰戦かと言われたら如月ひかりとしてやったので、みなみ飛香の復帰戦ではないんですよ。なので、なんだか不思議な感じがします。ヒジの状態もまだ万全ではないので、動きにも悔しさが残りました。場外プランチャを狙った? そうですね。みんな慌てて止めに入りましたけど、飛びたかったです(苦笑)。今後は(プロレスを)続ける子がいれば自分もやりたいです、社長として。とくに第1試合の高橋がセンスあると思ったので、続けてほしいなって、ひそかに思ってます。みんなとは昨年5月の公演を機に1年近く付き合ってきたので、プロレスなのか、また演劇なのかはわからないけど、この出逢いにはすごく感謝していますね。できれば一緒にプロレスやりたい。演劇? 演劇は小学生のときに孫悟空の銀角をやって以来。そっちはちょっと疲れたので、しばらく休みたいかも(笑)」

飛香は、VENUSを継続させたい考えでいるようだ。もしも解散となってしまった場合には近い将来、みなみ飛香として万全な状態での完全復帰をめざすことになるのだろう。また、実際には継続を想定し月に一度のペースで数カ月分の会場を抑えていたという。その場合はプロレス興行を軸に、演劇との同時進行も計画。とはいえ、なかには「旗揚げ戦で終わりにしたい」との声もあったとのことで、今後については白紙になったと言えそうだ。
旗揚げに先立ち、アイスリボン道場でおこなっていた舞台『Venus誕生』の客層はプロレスファンだけではなく、演劇ファンが予想以上の数を占めていたという。レスラーデビューの人材はもちろん、新規客層の獲得にも効果が期待できるプロレス&演劇の新団体。プロレスの練習と舞台の稽古で絆を深めたメンバーたちの、その先は? はたしてVENUSに、未来はあるか?













