“MLB化”するプロレス市場!日米の“決定的格差”に見るプロレスラーの矜持、ステップアップへの渇望

■ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン、完結の美学
今回の大量離脱において、最もファンの心を揺さぶったのは、やはり「ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン(L・I・J)」のメンバーの大量離脱。
内藤哲也、EVIL、BUSHI、そして高橋ヒロム。 SANADAにおいては“復帰時期未定”でシリーズ欠場となっている。
しかし、これを「悲しい結末」とするのは早計だ。 L・I・Jは、制御不能な個人の集まりであった。
馴れ合いを嫌い、それぞれがトップを目指す集団。だからこそ、彼らは輝いていた。
内藤哲也は新日本プロレスで全てのベルトを巻き、東京ドームの大合唱という夢を叶えた。
高橋ヒロムはジュニアヘビー級の枠を破壊し、絶対王者としての時代を築いた。
EVILは自らの手で裏切りという劇薬を投じ、ヒールの頂点を極めた。

彼らは新日本プロレスというキャンバスに、もう描く場所がないほどに、それぞれの色を塗りたくったのである。
「やり残したことはない」と思う者、また「複雑な胸中」を胸に抱えて旅立った者、「新たな新天地」を求めた者、それぞれの思いを胸に、彼らは旅立った。
人気絶頂のロックバンドが、音楽性の違いや新たな挑戦のために解散するように、L・I・Jもまた、最も美しい瞬間の記憶を残したまま、それぞれの道を歩み始めたのだ。
内藤哲也が団体を去ったこと。それは「新日本プロレスの内藤哲也」という物語が、完結したことを意味する。
高橋ヒロムの退団。それは「TIME BOMB」が、より大きな爆破対象を見つけたことを意味する。
彼らの選択は、新日本プロレスへの絶縁状ではない。
育ててくれたリングへの感謝と、自分自身のレスラー人生に対する責任感の表れなのである。

■新たなる希望。新日本プロレスの底力
棚橋弘至が引退し、オカダ・カズチカや内藤哲也が去った新日本プロレス。
「もう終わりだ」と嘆く声も聞こえる。だが歴史を振り返ってほしい。
アントニオ猪木が去り、長州力が去り、闘魂三銃士が去り、中邑真輔が去った。 そのたびに、新日本プロレスは終わったと言われた。
しかし、そのたびに、新たなスターが生まれ、時代を紡いできた。次は誰か。
今、リングのど真ん中には、IWGPヘビー級王座を復活させた辻陽太がいる。
辻の首を狙うのは、同世代のライバルたちだけではない。
海野翔太、成田蓮、上村優也の同期勢は燃えるようなジェラシーを隠さず、支配を目論むグレート-O-カーン、怪物ボルチン・オレッグ、さらには大岩陵平、Yuto-Iceといった若き才能たちが、虎視眈々と頂点の座を狙い撃つ。
さらに、世界を知る男・KONOSUKE TAKESHITA(AEW/DDT)が次元の違う強さを見せつければ、国内メジャー完全制覇“グランドスラム”を目論むジェイク・リーも不気味な存在感を放つ。
極め付きは、柔道金メダリスト・ウルフアロンのプロレス参戦だ。五輪王者の参戦は、IWGP戦線に予測不能な化学反応をもたらすだろう。
もちろん、新日本の門番たちが黙って見ているはずもない。
“荒武者”後藤洋央紀、“ハツラツおじさん”鷹木信悟らベテラン勢は、熟練の技と意地で若手の壁となり、一発逆転の戴冠を諦めていない。
外国人勢に目を向ければ、ザック・セイバーJr.が“最強のガイジン”として新世代の前に立ちはだかり、ゲイブ・キッドは誰よりも熱い“新日本魂”を背負って暴れ回る。
復活したIWGPヘビー級王座を巡る争いは、辻陽太を中心とした、かつてない「群雄割拠」の時代が幕を開けた。

すべてがリセットされたセルリアンブルーのマット。 巨大な樹木がなくなれば、今までその影に隠れていた若木に、燦々と陽の光が降り注ぐからである。
偉大な先輩たちが作った「蓋」がなくなった今、若い世代にとっては、これ以上ないチャンスの到来だ。
「俺たちが新日本プロレスだ!」 そう叫んで暴れ回る若者たちの目は、死んでいない。むしろ、危機感と野心でギラギラと輝いている。
かつて棚橋弘至が、ブーイングの中で体を張り、団体をV字回復させたように。今度は辻陽太たちが、自らの手で新しい新日本プロレスを創り上げる番なのだ。
メジャーリーグへ選手を送り出すNPBが、決して衰退していないように、新日本プロレスもまた、世界へ人材を輩出する最高峰のリングであり続けるだろう。
そして、そこからまた、世界を驚かせる怪物が生まれてくる。その循環こそが、50年以上続くライオンマークの強さの源泉なのだ。

■旅立つ背中に、最大級の「アディオス」を
中邑真輔、オカダ・カズチカ、内藤哲也、BUSHI、EVIL、高橋ヒロム。
彼らが新日本プロレスに残した熱狂、感動、そして勇気。それは、彼らが退団したからといって、決して色褪せるものではない。
プロレスラーは、旅人である。 ひとつの場所に留まることだけが、正解ではない。 彼らが選んだ「退団」「移籍」というキャリアの選択肢。
「新日本プロレスを捨てた」のではなく「新たな世界へ打って出た」 そう考えれば、寂しさよりも、誇らしさが込み上げてくるはずだ。
日本のプロレスが育てた選手たちが、世界中で評価され、求められている。これは、日本プロレス界全体の勝利でもある。
だからこそ、湿っぽい別れは似合わない。 去りゆく彼らの背中に、罵声ではなく、感謝の言葉と、最大級の拍手を送りたい。
そして、彼らがいなくなったリングで、歯を食いしばって闘う、残された選手たちにも、変わらぬ声援を送りたい。
時代は変わる。選手も変わる。 だが、プロレスというジャンルが持つ、人間の感情を揺さぶる力は、決して変わらない。
新日本プロレスは、今、大きな曲がり角に立っている。しかし、その先には、まだ誰も見たことのない、新しい景色が広がっているはずだ。
去る者にも、残る者にも、幸あれ。















