【編集長コラム】「初代タイガーマスクがニンマリ」

プロレス会場ですっかりダフ屋を見かけなくなった。かつてはダフ屋の花ざかり。駅から会場までの道すがら、何人ものダフ屋が「リングサイドあるよ~」「余り券あったら買うよ~」などと声をかけていた。だいたいいつも同じメンバーで、顔なじみになったりしたものだ。

都内近郊の大会では、道場から出発するバスに加えて、個々に会場入りする選手もいる。ある日の新日本プロレス・日本武道館大会でのこと。初代タイガーマスクの佐山聡がタクシーでやってきた。

車が到着するとワッと人々が集まって来たものだが、当時はまだ素顔が知られていなかったため、タイガーマスクとは気づかない。「な~んだ」とガッカリしてファンは散って行った。

「フフフ、誰も俺をタイガーとは気づかない」と、心の中でほくそ笑む佐山。「余り券あったら買うよ~」と、ダフ屋にまで声をかけられ苦笑いだった。

同じくタクシーで会場入りした木村健吾。これまたダフ屋がすり寄ってきた。「佐山はともかく、俺は素顔で試合していて、マスクマンじゃないんだけどな」と、何だかとても寂しそうだった。

当時の佐山は「覆面を脱いだら、誰もわからない。遊びに行く時も便利。人気があるのは嬉しいけど、ゆっくり食事もできないからね。猪木さんや藤波さんなんか大変だろうな。俺、覆面かぶっていて良かったよ」とニンマリしていた。

その後も時々、素顔のままで会場入りしていた。「急いでいる時はいいよね。スムーズに会場に入れるから」。覆面レスラーのメリットを力説していた佐山が、今となれば、とても懐かしい。

花粉症の季節がやってきた。インフルエンザの蔓延もあって、マスクをしている人も多いが、プロレスで「マスク」と言えば、あのマスクではなく「覆面」となる。今までいろいろなマスクマンの素顔も見て来た。マスカラス兄弟は覆面を脱いだら、目の覚めるような色男だったが「マスクマンになって良かったね」と、思えるレスラーも確かに何人かいた・・・。

花粉症に苦しみ、マスクを手放せない今日この頃、ふと思い出したマスク話でした。

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