【編集長コラム】「ハンセンのラリアート」

新日本プロレス4・1両国国技館大会でIWGPヘビー級王者オカダ・カズチカに挑戦するザック・セイバー・ジュニア。内藤哲也、飯伏幸太、SANADAそして棚橋弘至を下し、ニュージャパンカップを見事に制覇した。新日本プロレスのトップイベンターを連続撃破した快進撃で「セイバー・ショック」を引き起こしている。

そのファイトスタイルは、さほど大きくない筋肉質の体をくねらせ、手足を自在に操りサブミッションで攻め立てる。

大きくてぶ厚い肉体で暴れまわる怪物のようなレスラーとは、一線を画し、いわゆる外国人レスラーのイメージからはかけ離れた「関節の魔術師」だ。

表情一つ変えず、淡々と攻め込んでいく姿は、まるで修行僧のようでもある。多くの外国人レスラーが大活躍している新日マットでも、異質なタイプである。

時の流れをまた一つ感じるが、いわゆる強豪外国人レスラーの代表格の一人が〝不沈艦〟スタン・ハンセン氏。「ブレーキの壊れたダンプカー」の異名通り、一直線に体ごと突進するパワーファイトで一世を風靡した。

リング上の大暴れとは裏腹に、現役時代からリングを離れれば、穏やかな紳士だった。とはいえ、全盛時には時折、怖い一面を披露した。

自分がどう報道されているのか、なぜかよく把握していた。日本人選手サイドの「ラリアート対策は万全」などという記事が出た翌日に、襲われたことがある。

熊本の体育館だった。ハンセン氏が暴れまわったメインイベントも終わり、試合後の乱闘が果てしなく続いている。当時は携帯電話などなく、会場に引いた特設の臨時黒電話で、会社に報告していると、背後に殺気を感じた。

次の瞬間、首にブルロープが巻きつき、体が宙に浮いていた。イスをなぎ倒しながら、スーッと飛んでいく。なぜか、恐怖感はなく、ジェットコースターにでも乗っているような気分だった。

幸いにも、お尻から着地していた。若手選手が様子を見にきてくれたが、とりあえず無事だとわかると、さっさと行ってしまった。ちびっ子ファンから「大丈夫?」と温かい言葉をかけてもらった。

このときの光景は、今でもよく覚えている。コマ送りのVTRが脳裏にこびりついている。

幸いなことに目立ったケガはなかったが、数日間、体中が痛かった。

ハンセン氏の引退後、このときの話をしたことがある。ニヤリとしたハンセン氏は、軽く、本当に軽く、左腕を記者の首に当てた。

ところが、パコーン! と入ってしまい、首がグラッと後ろに傾いた。スローモーションのように、軽く当てただけなのに、その後一週間ぐらい首が回らなかった。軽いムチウチのようになってしまったのだ。

改めて、ゾッとした。そしてハンセン氏の凄さも、ラリアートを食らう相手の選手の凄さもヒシヒシと実感したものだ。現在「ラリアット」を使う選手は、あまたいるが「ラリアート」はハンセン氏だけだ。

ハンセン氏の手を影絵のキツネのような形にして天高く突き上げ「ウィーッ!」と叫ぶロングホーンがおなじみだ。元々は「ユース!」つまり「まだまだ自分は若い」という意味が始まりだったという。

いや、待てよ。確か昔は「テキサスで暴れ牛の突進を止めようとして左手を出したところ、牛の首を折ってしまった。その牛に対する鎮魂の意味」だったような・・・。

もしかしたら「シカゴのスラム街でネズミを食って育った」というロードウォリアーズのごとく、プロレス的なファンタジーだったのだろうか。

セイバーの大活躍に時に流れを感じながら、自分の手で作ったロングホーンを、じっと見つめる夜だった。

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