【編集長コラム】「画鋲の絨毯」
大日本プロレス1・14後楽園ホール大会で「BJW認定デスマッチヘビー級選手権試合 観客持ち込み・画鋲デスマッチ」の「立会人」を務めた。
認定証を読みあげ、王者・高橋匡哉からベルトを受け取り、挑戦者・伊東竜二に提示。会場四方の観客の皆さんに披露した。
その間のリング上の緊迫感はすさまじく、デスマッチファイターが醸し出す、張り詰めた空気に圧倒されそうになった。
果たして、34万4440個の画鋲が飛び散り、両者血だるまとなったド迫力マッチの末、高橋が防衛に成功した。
試合前、新土裕二リングアナウンサーに「試合後は、どうされます?」と聞かれた。「やめたほうが」というニユアンスが強く伝わってきたが「いや、勝者にベルトをこの手で渡したいです」と、即答していた。
リングへの階段を昇りながら、ちょっとだけ心配になった。マットには画鋲、蛍光灯など激闘の産物が一面に飛び散っている。キラキラと光り輝く「画鋲の絨毯」は美しくもあったが、ところどころに血だまりができていた。
一歩、踏み出す度に、画鋲が突き刺さる。「ジャリッ」でも「プチッ」でもない、何とも言えない感触だ。「こんなところで闘っていたのか」。レスラーへのリスペクトがさらに高まった。
高橋にベルトを贈呈し、握手した。力強く握り返してくれたが、その顔には、もちろん王座を守り抜いた喜びはあるのだろうが、命がけの戦いをともに戦い抜いた敗者へのリスペクトが浮かんでいた。大怪我もなくリングを降りられる安ど感もあるだろう。それこそ神々しかった。
感慨にふけりリングを下りたが、本部席に戻ると、違和感に襲われた。靴の裏をチェックすると、一面に画鋲がビッシリだった。
「わ! こんなに刺さっている!」
これでは電車に乗って帰れない。ひとつひとつ抜いて行ったが、なかなか大変だった。菊田一美に画鋲抜きを借りたところサクサク抜けた。
無数の小さな穴の開いた靴の裏。「これが体だったら」と思うと・・・。
激闘を終えた2人は、シャワーを浴びるのも、しみて大変だろう。リング上ではアドレナリンが出ているから、痛さも半減するのだろうが、クールダウンしてくるシャワー室では、現実の痛みを実感する。
あるストロングの選手が「デスマッチファイターは、シャワーで絶叫しています」と、明かしてくれたが、高橋も伊東も、特にこの日は大変だったはず。
だが、安息の時間はない。勝った高橋には、復帰した木高イサミが挑戦表明した。
負けた伊東は、来月開幕する一騎当千で優勝して、またベルトにたどり着く意向を示した。
全身傷だらけ。闘う度に傷が増える。とはいえ「デスマッチを極めたい」という熱い思いは、増すばかり。
昔の映画のタイトルを思い出した。「傷だらけの人生」。それをまさに地で行くデスマッチファイターから目が離せない。