【編集長コラム】「頑張れ! 谷津嘉章」

「すごいヤツ」谷津嘉章が糖尿病により右足を切断した。思わぬニュースに、衝撃が止まらない。


※ジグザグジギー宮澤氏所蔵のプロレスカード

谷津のいつも困ったような笑顔、ソフトな口調…「俺、人と争うのはあんまり好きじゃないんだよね。リング上だけは違うけど」と、普段は本当に優しかった。谷津を直接知っている人たちからは、人間的な悪口を聞いたことがない。

新日本プロレスに鳴り物入りで入門しデビュー。期待されて数々の特別待遇もされた。ともすればテングになってもおかしくないが、谷津は舞い上がることなく冷静だった。

当時は試合前に花束贈呈のセレモニーがあった。谷津は花束嬢にも人気で「谷津さんは、受け取る時『どうもありがとう』と言ってくれました」と耳にした。お礼を口にしたのは、坂口征二、ストロング小林、そして谷津の3人だけだったという。

リングを下りる際、ロープに引っかかってしまった花束嬢には、試合後、谷津が駆け寄って「さっき大丈夫だったの? 怪我しなかった? ロープは結構痛いからね」と気にしてくれたという。

万人に優しい谷津は、女性に大いにモテる。特に東欧系の女性にモテモテ。「両手に花」とばかり、金髪美女を両脇に抱えている現場に出くわしたことがある。

声をかけなかったが、谷津はニヤッと笑い、ウィンクして風のように去って行った。


※写真:伊藤ミチタカ氏

谷津が所有するSPWFの千葉道場兼合宿所を、無我時代の西村修が借り上げ、新人の征矢学が住んでいた。「谷津さんはたまに道場に来て、いろいろアドバイスしてくれました」と、征矢は振り返る。

日本が政治的な理由でボイコットした、1980年モスクワ五輪の「幻の金メダリスト」に1対1でアマレス指導をしてもらう貴重な機会だったが、横柄に偉ぶる訳でも、先輩風を吹かす訳でもなく、的確で親切、丁寧な指導には今でも感謝しているという。

谷津はその人の良さから、結果的に利用されてしまったことも多々あるようだ。「いや〜、仕方ない。自分が悪いんだよ」というが、回顧録などを書いたら驚きの内容になるだろう。

足一本になっても「長州に勝ちたい!」という谷津。ファイティングスピリッツは消えてはいない。


※ジグザグジギー宮澤氏所蔵のプロレスカード

交通事故で右足を失ったケリー・フォン・エリックも義足を着用してカムバックを果たした。チャンピオンにも返り咲いている。まだ20歳代だったケリーとは違って、大変なリハビリが待っているだろう。決して平たんな道ではないはずだが「すごいヤツ」のあなたなら不可能はない。

その前向きな心意気があれば、きっと乗り越えられる。

頑張れ! 谷津!

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