【今成夢人インタビュー】<前編> 挫折しても腐らなければ「見つけてくれる人」に出会える。それが竹下幸之介、飯伏幸太さん、大谷晋二郎さんだった。

インタビュー

今成夢人(ガンバレ☆プロレス/DDTプロレス映像班)

挫折の連続だったキャリアを歩み「プロレスラー兼映像作家」という唯一無二の存在になった今成夢人。折しも新入生や新社会人として、夢を抱いて新たな環境に飛び込んだものの、理想と現実のギャップに打ちのめされそうになっている人もいることだろう。そこで「挫折ニキ」今成夢人に「挫折からの立ち上がり方」を聞いてみた。

(聞き手・構成 茂田浩司・スポーツライター)

飯伏幸太との濃密なアメリカの旅

――3月28日~4月2日、飯伏幸太選手のアメリカでの復帰戦に密着して撮影していたんですね。

「そうですね。飯伏選手に連れて行って貰いました。5日間、ホテルも相部屋で、彼が寝てるところや起きてサンドウィッチを食べてるところなどもずっと撮ってました。後日、映像を取り込んだ際に見てみると、映像に強度があると感じたし、素材を見返すうちに『これはドキュメンタリー映画にしたい』って思いましたね」

――映画ですか!

「ファンムービーという目線で見ても新鮮な瞬間が撮れていますけど、1人の男の生き方として、新日本プロレスでは頂点を取り、東京ドーム2日間を両日ともメインイベントを取る前代未聞のことを達成してきてる人が、肩の怪我があったりで空白の時間があって。そこからもう1回、立ち上がる瞬間の物語が見え隠れしていました。僕は『スター』を撮ってるんだけど、人間として親近感を感じる部分もあります。シンプルにその生き様に感化されました」

――聞いてるだけでワクワクしますね。

「彼が求めてるものの一つに『自由』があるような感じがしました。結局、これって自由ってなんなんだろう、というお話なんだなと感じるようになりました。彼がなぜ自由を求め続けているか。練習の方法も、従来のメソッドじゃなくて、自分で考えてきた亜流のメソッドをずっとやってきているんですよ。それは従来の練習方法から見れば亜流ですが、ちゃんと理屈はあって彼はそれを全部説明できるので『プロレス学校をやりたいと思うようになった』というんです。従来の合同練習とかの練習体系を彼は否定したわけじゃないけど、デビューしてから『僕は僕の方法でやってみます』という20年だったようなんです」

――「飯伏幸太」のコアの部分ですね。

「彼を見ていると、僕も映像の作り方で事前に構成台本みたいのは書かないし、自分のカメラも変にマニュアルでやらないでオートの機能で、被写体に対して条件反射的に撮るというか。だんだん自分のスタイルが出来てきて、それは亜流っちゃ亜流だけど、亜流でやってきても積み重ねるとその人の作風だったりキャラクターになると思うんですよね。そういうのは、飯伏さんと今年になって連絡を取るようになって、彼の自由さとか、自分で見聞きすることでつちかった感触をすごく大事にしてる彼に感化されましたね」

――ますます今成さんの撮った「ドキュメンタリー・オブ・飯伏幸太」が観たくなりました。

「アメリカで撮影した映像が異様に強度があるんですよ。ただコンビニに行くとか、ただファミレスに行くとかも、アメリカの空がブルーの濃淡がすごくあって、僕のカメラ自体は手ブレがあるんでなめらかに撮れてるわけじゃないんだけど、映像を見てても躍動感がちゃんとあるし、素材が強いです。妙な可愛げも映像の中に同居してて、急にパンケーキが食べたいって言い出して『それちょうだい』って食べたりとか(笑)。そういうお茶目な一面もいい映像だなって。それをYouTubeとかで直ぐに消費されてしまうのはどうなんだろう? 前後の文脈をちゃんと構成・編集して、80分とか90分、ちゃんと飯伏幸太選手の最初の復活の一歩目を描くお話にしたいなっていうのは強く思ってるんですよ」

――それはぜひ完成させてください。

「配信ならみんなすぐにピッで見られちゃうと思うんだけど、真っ暗な映画館で、集中して、僕は飯伏幸太という男を80分、90分、味わってほしいなと思いました。これは僕の願望の話ではありますが、いつかは映画にしたいと思ってます」

Kota Ibushi vs Mike Bailey 〜GCW Josh Barnett’s Bloodsport 9〜【2023年3月30日 飯伏幸太復帰戦 飯伏幸太vsマイク・ベイリー】

 

映像班の仕事の手応えのなさが、

トレーニングのモチベーションに。

――映画館で観たからこそガツンと来るものってありますね。私が今成さんを知ったのは「プロレスキャノンボール2014」(監督・マッスル坂井。助監督・今成夢人)でした。大家健さんと今成さんのガンプロチームが迷走して、泣きながら殴り合う姿が泣けました。

「あれに関しては自分に客観性って1ミリも無かったなと思います。そんな客観性のない自分がああいう素材を撮ってきて『坂井さん、どうしたらいいですか?』っていう(苦笑)。編集も途中までやったんですけど、坂井さんが合流したらあっという間に整理して構成していくんでびっくりしました。坂井さんの視点が明確だったからこそ出来た映画だと思いますし、あの時点での自分の未熟さを思い出しますね」

――あの後で今成さんとSNSで繋がり、今成さんが推薦してた映画「ベイビー・ドライバー」が面白くて。その感想を2017年の大みそか、さいたまスーパーアリーナで偶然お会いした時に伝えたんですよ。

「ガンプロがさいたまのコミュニティアリーナに出た時ですよね」

――その後、今成さんは本格的にウェイトに取り組み、SNS越しにも日々体がデカくなっていくのが分かったんですよ。


※今成夢人Twitter @yumehitoimanari より

「茂田さんに会った時から10キロ以上は増えてますね。トレーニングに関しては愚直にやっていけてて。自分が映像班の仕事でやったものが、具体的にどう評価されてるかが分からない部分もありました。お客さんが『VTRが良かった』とツイッターで書いてくれたりは嬉しいですけど、VTRとかは自分のためにやってるのもあるんですけど、団体のためだったり、撮ってる選手のためにやってる部分があったんだけど、具体的に評価されているのかが分からなかったので、自分自身の感情がそれだけで満たされないものもありました。このままこういう感情を持ち続けていった時に俺、ヤバいなと思った時にトレーニングをするとみるみるうちに筋肉が付いて、体が大きくなって。『今成、プロレスラーとしてフォルムがどんどん変わってきてるよね』みたいなものにも繋がってきたので。今思うと自分へのリターンを分かりやすく得るためにやってたのかな、と」

――裏方の仕事やチームでやる仕事は「評価されてるのかな?」は常にありますね。

「それで僕が少しでも時間があるとジムに行ってトレーニングして、画像をSNSに上げていたら竹下(幸之介)が『それでいいんですよ』って言ってくれたんです。年齢は10コ離れてるDDTのエースの彼が『それで絶対に変えられますから』とコメントをくれたり、実際に会っても僕の『突き破ろう』とする姿勢を見て貰えてた。彼は自分で考えて、行動して、結果も残していました。年齢は10コ離れてますけど、僕の心の師匠のような人間の一人でもあるので。彼の言葉は僕のギアを入れてくれたというか。彼の言葉と『今成革命』は結構重なってる気がしますね」

――それまでの今成さんはDDT映像班で何となくこっち側(スタッフ側)の人だと思ってたら、あちら側(レスラー側)のど真ん中にずんずん突き進んでいった。今成さんの体が大きくなっていくのと、発言や行動が大胆になっていくのがシンクロしてて興味深かったです。

「それまでは誰に言われたわけじゃないけど大家を主軸としたガンバレ☆プロレスの脇を固める役柄をやってたというか。でも彼は明らかに停滞して、彼の精神や肉体のアップデートが見られなくなっていて『なんでこの人のためにあれこれ手配したり、俺は頑張らなきゃいけないんだろう?』という感情が生まれてました。自分の上司が情けなかったりはどの会社にもあると思うんですけど、自分はそういう心の声がリングで反映されてましたね。それをそのままリング上で発信して対戦する経緯になっていったと思うし。あれはリアルな自分の声だったと思いますね」


©ガンバレ☆プロレス

――リアルな感情を吐き出し、それがストーリーになっていく時に今成さん自身「観客に届いている」という感触はありましたか?

「そうですね。それまであくまで大家が軸であったのが、自分が軸の一つになれてるっていうのはだんだんだんだんあったし。それが受け入れられてなかったらどうかなっていうのはあったんですけど、受け入れられてる感触があって。お客さんがより背中を押してくれてる部分があったんじゃないかと思います」

――本当に「今成革命」からの5年間でリング内での立ち位置が脇を固める人からど真ん中に変わりましたね。

「認知のズレの部分があるのだと思います。会社などが与える役割と、自分が『こうなりたい』と思う部分での違いを感じるんです」

――そうなんですか?

「多分、僕はこの会社の模範的な社員じゃないんですよ。他の社員の人たちの見本になれないというか。一方で自分のプロデュース興行をやらせてもらうことで『こういう視点もどうでしょう? こういうコンセプトの団体もありでは?』って提案して実行しました。映像部の社員としては会社のために働いている一方で、模範的な働きが出来ない分、それ以外の発想や価値観をプロレスラーとしてぶつけるっていう、なんか円環構造になってるのは自分はありましたね」

➡次ページへ続く

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